8日付の米ウォールストリートジャーナル紙が、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告をめぐる一連の事件について「国際的なビジネス界の中で異様ともいえるこの事件はますます異様なものになっている。日産を救ったヒーローが今、罪に問われている」と報じた。
かつて最高執行責任者として日産に招かれ、経営再建策「日産リバイバルプラン」を元に5工場を閉鎖、約2万1000人の人員削減を断行。さらに"系列取引"の見直しも主導し、就任時には約2兆円に上った有利子負債を4年後には完済、業績もV字回復させたゴーン被告。その豪腕ぶりから"コストカッター"とも呼ばれたが、昨年の逮捕以降、高額な報酬などが批判の的になっている。そんなゴーン被告は、日本的経営の観点から見てどうだったのか。15日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、パナソニックグループ創業者の故・松下幸之助氏の元側近で、「その心を伝えたい」と公演や執筆、経営指導を行っているPHP総合研究所元社長の江口克彦氏に話を聞いた。
松下氏は独特の経営理念と手腕により事業を拡大。「経営の神様」とも呼ばれ、後にはPHP研究所を創設、松下政経塾も開塾した。江口氏は松下氏について「初めはガムシャラだったが、だんだん優しくなり、社員の後ろから見守るようなタイプに変わっていった。信長型から秀吉型、最終的には家康型になった。今までたくさんの経営者を見ていて感じることは、やはり経営者は3回変わらなければ長続きしない。ずっと信長型でやっていくとどこかで本能寺の変が起こってしまうし、信長型しかできないなら、あえて秀吉型や家康型を置かないと会社は続かない」と話す。
「高い給料をもらっていたということについては批判するに値しないし、ジェット機でもマンションでも、仕事の上で必要であればどんどん買ったらいい。日産の会長であれば、そういうものも必要になってくるだろう。ただ商売は"正売"。正しいというのは誠。人は仁。つまり商売というのは、誠実に仕事に取り組むことだと考えていたと思う。私もゴーン氏が日産を立て直したということについては高く評価しているし、勝つことは大事。経営危機に陥っていた日産を立て直したという点では評価できる。しかし、立て直せば何をやってもいいと考えていたとするならば、それは50点くらいの評価になる。リストラでもコストカットでも、ただ紙切れ一枚、電話一本でやるということに問題があると思っている。やはり勝ち方の美学について考えて欲しかったし、"勝てば官軍"という考えについては、よく考えなければならない。私は松下さんの顔を思い浮かべながら、そんなことを考えていた」。
さらに松下氏は「ガラス張りの経営」という概念を提唱、さらに「最高の経営は全衆知によるところの経営であると思う」とも語っている。
これについて江口氏は「経営の中で出てくる色々な問題、あるいは数字を積極的に社員に知らしめていかなければいけないということ。今は社長が情報を独占している時代ではなくなっていて、むしろ社員の方がいい情報を持っている場合もある。そういう知恵を借りて、全社員が力を出さなければ、これからの激しい世界競争の中で勝っていけないと思う。私が松下さんの言葉の中で最も伝えたいのが"素直"だ。何事についても返事をするということではなく、間違っていることに対しては間違っているということだ。ゴーン氏が間違っていたなら、日産の幹部や社員はそう言わないといけなかった。それを指摘して自分に好ましくない状況になったとしても長期的に見れば必ず復活できる。短期的にはいじめられたり、村八分になったりしても、長い目で見れば評価される」と説明。
そして、これからの若い経営者に向け「これから元号が変わる。私は平成の経営者は評価していないが、これからの若い経営者にはものすごく期待している。これからの時代の人たちには、"日本的グローバリズム"を作り上げて欲しい。今のグローバリズムは、アメリカ的な考えを取り入れるだけになっている。のっぺり、つるつるのグローバリズムというのはなく、それぞれに合ったグローバリズムがある。日本は海外から来たものを"日本化"するということをやってきたし、松下幸之助もそれをやってきた。それができれば日本経済は発展し、日本企業が多いに成長していく」と期待を込めた。
江口氏の話を受け、国内外の証券会社を経て、プロ経営者として赤字上場企業の再生に取り組んできたアジア開発キャピタル社長の網屋信介氏も「日本に来て仕事するのに住宅を与えるのは問題ないだろうし、プライベートでお客様を呼ぶために高級住宅を用意するということも十分にあり得る。プライベートジェットだって、アポイントに間に合わなくなるリスクを回避するために使うことだってある。その点、例えばフォード、クライスラー、ベンツの経営者と比べた時にあまり突出していない」と指摘。
その上で「実際、日産自動車はゴーン氏がいなければ潰れていたかもしれないし、そうなれば10万人以上が職にあぶれていたか。様々な報道の中で真相はまだ見えてはないが、私はゴーン氏の経営手腕をかなり高く評価している。感情論で給料が高い安いという議論をしていても仕方がない。"コストカッター"という言葉もあるが、むしろ社内にいる人には2万人をリストラするなんてなかなかできることではない。だから外から来た人が数字を見て判断する。日本型経営として、一部のリストラではなく従業員の給与を一律に下げるという選択肢もある。しかしその場合、優秀な人が社外に逃げてしまうリスクがある。それをどう止めるか、そういったせめぎ合いの中で判断をしていく。個人企業、オーナー企業であればやりたい放題ができるが、株主、経営陣、従業員、債権者、お客様、様々なステークホルダーが見ていて、その最大多数の最大幸福をいかに作るかが経営者の仕事だ。社内にいた人の方が偉くなった時に偉そうにすることもあるし、貸し借りがないところに入っていくプロ経営者の方が、みんなをどう味方にするか考える」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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