「日本人初の賞金1億円プレイヤー」「世界王者」。日本でも昨年、流行語に入った「eスポーツ」のプレイヤーとして一躍有名になった「ふぇぐ/よしもとLibalent(以下ふぇぐ)」。ただ、本人は「ちょっとまだ実感がないんですよね。反応ですか?友達は増えました(笑)」と、手にした大金や、達成した偉業に対して拍子抜けするほど、自然体でいる。世界の頂点に立ってなお、1日10時間以上の練習を繰り返し、さらに「今日、何時間やったから終わりっていうのはなくて」と、努力を努力とも思わず、確固たるゲーム愛で鍛錬を続けている。今やプロゲーマーを目指す若者の憧れの的にもなったふぇぐとは、どんな人物か。
ふぇぐが世界一になったのは、対戦型カードゲーム「Shadowverse(シャドウバース)」の世界一決定戦「Shadowverse World Grand Prix 2018」。2018年大会から、優勝賞金が100万ドル(※大会当時のレートで約1億円)となり、その初代王者となったのが、ふぇぐだった。世界中の各地域で予選大会が行われ、選び抜かれた24名の強豪によって争われた本大会だが、改めて優勝が決まる瞬間のことを聞くと、サラリーマンの生涯平均年収の半分にもなる大金を目前にしても、頭の中にはなかったという。
ふぇぐ 「頭には勝負のことしかなかったですね。終わってから木村唯人さん(株式会社Cygames常務取締役/Shadowverseプロデューサー)に、賞金のボードを渡された時『い、1億っ!?』みたいな感じでした(笑)」
決勝も大詰め、ほぼ勝利を手中に収めた中で、相手のターンが終わるのを祈りながら待ち続けた。
ふぇぐ 「相手に(逆転の)解決策がなさそうだったのは、前のターンから分かっていて。1枚、デッキから持ってきた時に、いいカードを『引くなよ!絶対引くなよ!』と祈ってましたね。あと、もし相手が勝利を確信していたとして、僕がその立場だったら、余韻に浸るのかなとか思って。だから『どっち!?』という思いで待っていました」
結果、対戦相手となったPotwasher/Tempo Stormから逆転の一手はなく、これを見届けたふぇぐは、天に向かって両手の拳を突き上げた。
2016年に当時通っていた大学の先輩に勧められて、シャドウバースを始めた。もともとカードゲームの経験はあったものの、大学時代はこれといってゲームプレイに熱中することはなかったが、この時のシャドウバースとの出会いが人生を変えた。
ふぇぐ 「ゲームがリリースされて半年経ったくらいから始めたんですよ。とにかくハマりましたね。ずっと1人でやっていて、そのあとにやっていそうな友人に声をかけて。プレイ時間は、今と比べたら半分くらい(1日5時間程度)でしたけど、当時の自分から考えれば、最大ののめり込みでした」
2018年5月から開幕した「RAGE Shadowverse Pro League」の1チーム、よしもとLibalentのメンバーとして活動をスタート。ここで、同様にシャドウバースに人生をかけたチームメイトと出会ったことで、プロゲーマーとしての確固たる意識が芽生えた。
ふぇぐ 「ずっとシャドウバースに打ち込める環境があったからこその世界一ですね。僕は結構プロリーグで負けていたんですけど、そこでふてくされずに練習を続けていたからこそ、世界大会に優勝できたのかなと思います。プロになってからの練習は、量も濃度も全然違います。普段の練習は10~12時間くらいですが、今日は何時間やったから終わりっていうのはないです」
世界大会に向けて、自身が苦手とする2Pick(編成で用意したデッキではなく、その場で用意されたカードについて2択を繰り返してデッキを作って戦う)の練習も、日頃の練習からさらに時間を追加して臨んだ。この時にも、チームメイトをはじめ、仲間の力を借りた。
ふぇぐ 「僕は2Pickが苦手で、(敗退した)一昨年の世界大会でも全然煮詰められてなかったんですよ。今回も苦労しましたね。練習は他の2Picker(2Pickのスペシャリスト)の人にも手伝ってもらって。プロになってから練習方法も変わって、いろんな人の意見を取り入れるようになりました」
自身が世界王者になってからまもなくして、今度はストリートファイターV アーケードエディションの世界大会「カプコンカップ2018」で、ガチくんが優勝し、約2800万円の優勝賞金を手にした。日本人プロゲーマーの相次ぐ高額賞金の獲得に、日本人初の1億円プレイヤーは「eスポーツに興味がない人からしたら、目に入るきっかけは賞金だと思う」と、冷静に見ている。
ふぇぐ 「賞金をきっかけに、もっとeスポーツの中身を知ってもらいたいですね。シャドウバースで言えば、格闘ゲームとは違って、勝ち負けが最後まで分からない。先に体力を削ったからといって、有利だとも限らないし。今、シャドウバースを知らない人が、ゲームに入ってくるきっかけが、僕になることも多いと思うので、Twitterで書くことは、あまり専門的なことは書かないようにとか、明るい感じにしようとか意識はしています」
今後は、日本の若きゲームプレイヤーがプロを目指す上で「ふぇぐさんのようになりたい!」と目標とされるようになる。プロゲーマーとしての資質、心構えを聞くと、実にゲーム愛に溢れた、本質を突いた言葉が出てきた。
ふぇぐ 「とりあえず1日10時間以上、1カ月以上やってみて、それでそのゲームが嫌いになるようなら、やめた方がいいですね。そのまま全然好きでいられるなら、その練習を保てばいいと思います。僕は結構不器用で。最近は改善されたんですけど、覚えが悪かったんですよ(苦笑)バランス調整とか入ると、とにかく練習しかないですし。練習をしていくことで効率もよくなって、その分、練度も上がっていくようなイメージです」
日本であれば野球、サッカーといった人気スポーツの選手でも、名選手たちはそろって「もっと上手くなりたいんで」と、努力を惜しまないどころか、努力を努力と思わない。ゲームという理由で、その努力がなかなか表に出ることは少なく、また伝わりづらいが、試合への向き合い方は、トップアスリートのそれと、なんら変わりがない。
最後のもう一度1億円の話と、今後の目標を聞いてみた。
ふぇぐ 「父親に『金なんて一瞬でなくなる』って何度も言われているので、一応マンションだけは買うんですけど、それ以外はなるべく使わないようにしようかと。お酒は好きなんですが、高級なところとかには行かず、チェーン店に行きます(笑)今年はシャドウバースのプロとして、苦手なリーダーをなくすことが目標になっています。昔は特化型というように、得意なリーダーを作っていたんですが、幅広くやっていた方が、ゲームの調整が入った時も楽になるので。具体的な目標と言ったら、プロリーグでの優勝、世界大会の2連覇、あとは彼女を作ることですかね(笑)」
当初はイケメンゲーマーとして注目を浴び出したふぇぐ。その言葉と行動、目標は「1億円プレイヤー」「世界王者」の名にふさわしいものになっていた。
【小松正明】
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