「目が開かない」「動く光で激痛」ドライアイ患者の中にも”予備軍”?眼科医も知らない「眼球使用困難症」
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 2年前まで名前も付いておらず、専門医の間でも知られていない目の病気がある。視力はあるのに見ることが困難になる、「眼球使用困難症」だ。治療法も確立されておらず、生活に困難が伴うにもかかわらず障害者として認定されず、サポートも受けられない状態が続いている。

 22日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、国も今年度から実態調査を始めたばかりの眼球使用困難症の当事者に話を聞いた。

■半日間、目が開かない日も

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 「瞼に神経が通っていないような状態になってしまう。下に閉じる強い力との戦い」。

 約1年前に眼球使用困難症だと診断された渡部まりなさん(28)は、半日にわたって目が開かなくなることもある。病気のことを多くの人に知ってもらいたいと、漫画をTwitterに投稿、5万リツイートを超える反響を呼んだ。

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 症状はいつ現れるかわからず、外出時は危険と隣り合わせ。歩いているときに瞼が閉じてしまい、車道にはみ出してしまったこともあるという。

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 治療のため、3か月に1度のペースで通院、美容整形でシワ取りにも使われる「ボトックス注射」(保険適用で1万8000円)を打ってもらい、閉じようとする筋肉の力を弱めている。渡部さんの治療に当たる若倉雅登医師(井上眼科病院名誉院長)は20年間にわたって眼球使用困難症を研究している権威だが、それでも「今のところ、医学的に根拠のある治療法としてはこれしかない」と話す。

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 若倉医師によると、渡部さんも含め、患者の3分の1は向精神薬の副作用による機能低下によるもので、残りはまだ不明だという。「ドライアイだと診断されている人の10人に1人か2人はこの病気を隠しているのではないかなという気がしている。実際には低く見積もって10~20万人はいるのではないか」。

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■「湯気を見るのも辛い」

 テレビやパソコンの画面など、動く光に苦痛を感じるという重度の光過敏を抱えるのが立川くるみさん(42)だ。発症したのは8年前。初期症状は「疲れ目」で、ドライアイだと診断されたが、瞼が突然開かなくなった。眼球使用困難症という病名がなかったため、「眼瞼痙攣」との診断を受けたのも、本格的に発症してから2年後のことだった。

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 日常生活で浴びるレベルの光に対しても脳が過剰に反応、目の周りの筋肉が収縮してしまうことで、痛みや不快感を引き起こしてしまう。家電のランプも気になってしまうためシールを貼って遮光、さらに目を閉じたまま生活しているが、瞼を通して光の動きを感じてしまうので、遮光性が高い電気溶接ゴーグルが手放せない。もともと飲食店で働いていたが、今は湯気を見るのも辛い状況だ。

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 「ボトックス注射」のほか、鍼灸やマッサージ、漢方も試してきたが、回復のめどは立っていない。立川さんの場合、国の基準では視力そのものに問題はないとみなされるため、「健常者」として扱われる。そのため障害者手帳の交付を受けることができず、必要な福祉サービスの支援を得ることもできないのだ。仕事も辞め、貯金を切り崩す日々、実家にも迷惑がかかってしまうと、一人暮らしを続けざるを得ないのが現状なのだ。

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 「私にとって、パソコンは福祉機器。手紙や書類を読むのもスキャナーで取り込んで音に変換して読んでいる」。服はネットショッピングで購入しているが、パソコンの画面は非表示のまま。短い間、動かないものなら見ることができるので、商品確認の時だけ表示させる。入力した文章や検索結果は、読み上げ機能を駆使して確認する。

 「初めての場所に行きたいと思っても、一緒に行ってくれる人がいないと行けないことが一番つらい」。外出時はゴーグルの他にも日傘で遮光、1年ほど前からは視覚障害者が使っている白杖を持って歩く。「白杖の使い方を習おうすると、障害者手帳がないことを理由に断られてしまった」。そんな経験から、「みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会」の代表として、障害者認定を求める活動を続けている。

■障害者認定基準の問題点も浮き彫りに

 視覚障害者の特別支援教育が専門の柏倉秀克・日本福祉大学教授は「病名がついたのも2017年の話で、実は眼科の医師でも知らない人が多い。世界的にも同様だ」と話す。治療法の開発や制度が追いついていないのも、そのためだ。

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 「視覚障害の認定というのは、視力・視野が全てになっているので、眼球が常に動いてしまう眼球振盪という病気や、眩しさに関する病気については障害から外れてしまっている。しかし眼球使用困難症の患者さんはたくさん出てきているし、世界的にも"共存・共生"と言っている時代なのに、それに合わない認定基準になっていると言える。障害者の人口は、日本が7%なのに対し、先進国は15%以上。これはお医者さんが決めた細かなベースが基本になっている日本と、"本人が困っている"というところで障害を捉え、支援を組み立てている国の違いによるものだ」。

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 その上で柏倉氏は、立川さんについて「目を開けることができないような状態で暮らさないといけないので、基本的にほぼ見えない方と同じだと言っていい。1~6級が存在する視覚障害のうち、間違いなく"重度"の1・2級としても言い過ぎではない。このままでは障害者基礎年金も全く受けられない」と語る。仮に1級の認定が下りていれば、「就労支援」「医療費補助」「公共料金の割引」「公共交通機関の割引」「外出補助」「介護サービス」といったサポートを受けることができるのだ。

■国も実態調査をスタート

 一方、国としても、今年度は「視機能障害認定のあり方に関する研究」に1456万円を交付、実態調査を始めている。

 柏倉氏は「まずはここで実態をきちんと明らかにしてもらう。3年間くらいの研究になると思うが、その間にこの病気の認知度を上げていくことを、厚生労働省の調査研究に合わせて、民間レベルでも患者会を中心に、マスコミでも取り上げてもらって理解を深めていきながらやっていかなければいけない。そして認定基準を変えていくことになるが、調査を行い、客観的なデータを集めて見直しを行っていくことになる。そして研究が進み、医師の間でも確認が取れて初めて認定を下すことになるので、一定の時間がかかる。それまでの間、患者の方々がどういう生活をすることになるのか、それをしっかりと考えなければならない」と訴えた。

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 番組放送中には、視聴者から「私も局所性ジストニアといって、進行すれば機能的失明になり、全く目が開かなくなります。希少な病気なので、十分な知識を持ってほしいと思っています」とのコメントが寄せられた。立川さんは「眼球使用困難症だけではない。他にも"制度の谷間"に落ちて、障害者手帳がなかなか手に入らない、障害年金が思うように手に入らないという方は大勢いる。そういうことを多くの人に知ってほしい」と呼びかけていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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