アジア王者まで、あと2勝――。王座奪還に向けて好調を維持する森保ジャパンは、昨年9月の発足以来、あらゆるメンバー、組み合わせを試して、1つずつ力をつけながら勝ち進んできた。その中でも、まるで天秤のように釣り合いの取れた柴崎岳と遠藤航のダブルボランチが際立つが、とりわけ守備力の高い遠藤の貢献度は計り知れない。
一目で分かる派手なプレーヤーではないが、そういう選手こそ、指揮官は重宝しているはずだ。
日本最高峰のフットサルリーグにおいて、11シーズン中10回の優勝を誇る王者・名古屋オーシャンズにもそんな選手がいる。球際で厳しく戦い、相手の攻撃の芽を摘み、自分たちの攻撃の起点となる選手、安藤良平だ。
負けた時の恐怖感と向き合い続ける
安藤は3年前、ペドロ・コスタ監督の熱烈なオファーを受けて、湘南ベルマーレからやって来た。しかし、移籍に疑問を抱く人は少なくなかった。安藤自身は、前線やサイドなど特に攻撃面で存在感を増していたが、下位が定位置のチームと常勝軍団とのギャップは大きく、彼の名古屋での役割がどこにあるのか疑問視されていたからだ。
「チームも勝てていないし、僕自身が日本代表ということでもない。『なんで安藤が名古屋に?』と思われているだろうなと、僕自身も感じていました。でもその印象を覆したかった。やってやるぞと」
それから3年が経った今、コスタ監督の狙いはみんなが知るところとなった。
安藤のプレーを見れば、名古屋の目指すスタイルを理解できる。守備から攻撃につなげることを第一に据えて、球際で勝ち、相手ボールを奪って一気に攻撃へとつなげていく。守備でも攻撃でも“攻撃的”な戦いを、誰よりも安藤がピッチで表現しているのだ。「この3年で守備に自信を持つことができていますが、理想はそれが攻撃のスタートになること。その流れを作れるように、味方にも声をかけながらやっています」と、後方からチームを鼓舞している。
安藤はフィクソという、フットサルにおける守備職人のポジションを与えられ、結果を残してきた。
ただし、彼は名古屋の主役ではない。Fリーグで唯一のプロクラブには、各ポジションのスペシャリストがそろうだけに、安藤はどちらかといえば目立たない選手だ。それでも愚直に、チームのオーダーを遂行している。
安藤は神奈川大時代、サッカー部で佐々木翔と一緒にプレーしていた。「両足が使えるし、対人がめっちゃ強かった」。4年生の安藤が左サイドハーフ、1年生ながらレギュラーを手にした佐々木が左サイドバック。左サイドでコンビを組んだ後輩は、日本代表へと駆け上がった。神奈川大といえば、時期は被っていないが伊東純也も後輩だ。彼らのアジアカップでの活躍は「シンプルに刺激になっています」という。
そして安藤もまた、日の丸の重みとはまた違った重圧と戦いながらプレーしている。
「名古屋というチームは、1試合に対するモチベーションが違うんです。負けた時の恐怖感がある。そうなりたくないからこそ、練習からバチバチとやり合う。1試合の重みがあるからこそ、負けられない」
3年前の安藤が名古屋に来たシーズンに、彼らはリーグ10連覇の大記録をつかみ損ねた。コスタ監督が指揮をとり始めて1年目、ベテランが引退や退団で抜けて再スタートを切ったシーズンでもあった。安藤はもちろんのこと、すべての選手が屈辱を味わい、責任を背負い、敗戦への恐怖を痛感した。だから安藤は、もう二度と負けないために戦い、負けられないプレッシャーと向き合いながらピッチに立っている。
昨シーズン、王座を取り戻した名古屋は今年もう一度、連覇の歴史を築き始めようとしている。このチームにキーマンは多い。でもあえて一人だけ挙げるとすれば、今ならこう答える。それは安藤良平だ、と。
文・本田好伸(SAL編集部)
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