2018年7月26日の監督就任から194日――森保ジャパンは最大の試練を迎える。
アジアカップの優勝候補筆頭といわれてきたイランと、決勝進出をかけて戦うのだ。ベスト4までの日本とイランの道のりは対照的といっていい。
3-2、1-0、2-1、1-0、1-0。日本は今大会ここまで全て1点差ゲームを制してきた。しかも、オマーン戦、準々決勝のベトナム戦ではPKによる1点、サウジアラビア戦ではセットプレーからの1点しか挙げられず、流れからの得点が極端に少ないのが特徴だ。
イラン戦の前日監督会見では、外国人記者から「日本の戦いぶりは2004年のギリシャのようだ」と質問が飛んだ。2004年のユーロで優勝したギリシャは、セットプレーで取った1点を守り抜く、よく言えば堅実、悪くいえばつまらないサッカーで頂点に立った。
暗に「日本のサッカーはつまらない」とも言われているようなものだが、森保監督は「どんなゲームでも勝つのは大事なことなので、選手たちはよくやっている」と表情を変えずに答えた。
とはいえ、アジアカップの日本が持ち味を発揮できていないのは確かだ。中島翔哉が大会前に怪我で離脱し、攻撃の起点役となる大迫勇也が万全の状態ではないことが大きな影を落としている。エース候補として期待された南野拓実に至っては未だ無得点だ。
イランは違う。盤石の強さは、5試合で12得点無失点というスコアにも表れている。立役者はFWのサルダル・アズモン。24歳の若さながら、今大会はここまで4ゴールを挙げている若きエースだ。
186センチの長身、爆発的なスピード、繊細なテクニック。早くから天才と呼ばれたアズモンは、18歳でロシア1部リーグのルビン・カザンに引き抜かれた。2016年にUEFAチャンピオンズリーグに出場するとアトレティコ・マドリード、バイエルン・ミュンヘンからゴールを挙げる大活躍。ビッグクラブへの移籍が噂されている。
イラン代表では3トップの中央、センターフォワードのポジションを任されている。そのプレースタイルはまさしく変幻自在。DFラインの背後に飛び出して自ら得点を狙ったと思えば、前線でボールをキープして攻撃の組み立て役にもなるし、サイドに流れてのドリブル突破も驚異的だ。大迫勇也と南野拓実と堂安律の特徴を併せ持っているといえばわかりやすいかもしれない。
ちょっとでも目を離したら決定的な仕事をされてしまうので、日本としては90分間を通じて最大級に警戒する必要がある。
長友佑都はアズモンについて「足も速くて、ゴールも狙える。そしてパスも出せる。素晴らしく危険な選手」と分析した上で、「彼を止められるかどうかが、僕らが上に行けるかどうかのポイントになる」と語っている。
プレー面はほとんど穴がないが、弱点を探すとすれば、メンタル面か。決勝トーナメント1回戦のオマーン戦では、自分にパスを出さない味方に不満をあらわにしたり、シュートを止められた後にがっくりとうなだれたりする場面が目立った。
また、無得点で終わったロシアW杯後にSNSで自身への批判が殺到すると、23歳でイラン代表からの引退を表明。イラン協会から説得に応じて代表復帰を果たしたものの、繊細な性格であることがうかがえる。
アズモンをどうやって試合から消すか――。これがイラン戦で勝つための重要なポイントになるだろう。
ここまで1試合1試合、苦しみながらも勝利をつかんできた森保ジャパン。アジア最強国との準決勝という、最大の修羅場をくぐり抜けられるか。真価が問われる一戦が始まる。
文・北健一郎(SAL編集部)