きのう、第198通常国会が開幕した。4月に退位を控え、開会式に臨まれるのは今回が最後となる天皇陛下がお言葉を述べられ、午後には安倍総理が40分間にわたる施政方針演説を行った。
本会議終了後、自民党の岸田政調会長は安倍総理の演説について「経済・社会保障・農業・観光・国土強靭化、さらには外交・憲法にも触れられていた。大変幅広い課題に対して、バランスよく触れられていた」と歓迎。一方、石破元幹事長は「随分トーンが落ちたなと思った。非常にそっけないというのか、あっさりしたというのか、そういう表現であったなというのは非常に印象に残った」と苦言も。
野党・立憲民主党の枝野代表は「何か箇条書きを朗読されていたというような印象」、国民民主党の玉木代表も「生活保護受給世帯が増えている所に全く言及せずに、都合のいい所だけをつまみ食いして話をするというのはまさに安倍さんのいいとこ取り。不都合な真実には目を背ける、そういうことが色濃く出た演説ではなかったかなと思う」とコメント。さらに共産党の志位委員長は「一億総活躍社会・全世代型社会保障、戦後外交の総決算など、使い古された、ボロボロになった政策スローガンの羅列で全く新味がない」と厳しく批判した。
AbemaTV『AbemaPrime』では、そんな安倍総理の施政方針演説を読み解いた。
■そもそも「施政方針演説」って?
施政方針演説とは、毎年1月に召集される通常国会の冒頭、総理大臣が衆参両院本会議で行う演説のことで、内閣の基本方針や1年間の重点施策などを説明するものだ。これに対し、臨時国会や特別国会の冒頭の演説は「所信表明演説」といい、全体のボリュームは3割ほど少ないのだという。
テレビ朝日政治部の吉野真太郎・官邸キャップは「安倍総理、日本政府がこの1年間に何をやりたいかを言うダイジェスト版。だからこそ総花的になるところもあるし、総理自身の色は出にくい演説ではある。それぞれの役所が政策のプレゼンテーションをしてくるのを、官邸の総理秘書官が中心になってまとめあげ、総理や他の人がチェックする。いわばポジション争いに勝ったスタメンのようなものが文章並んでいる。政策は継続していくものなので、"ああ、知ってる"というものが大半になってくるが、冒頭や外交に関する箇所は、比較的目新しいと思うものがある」と話す。
演説を傍聴したというタレントの井上咲楽は「去年の臨時国会での所信表明とそんなに変わらないように感じた。総裁選のときに感じた憲法への熱が現れていないのを疑問に思った」と話す。これについて吉野氏は「安倍総理は憲法に熱が入りすぎて、野党の反発を招いたので、今回はよりトーンダウンした上で、皆さんの意見を伺いたいということだ。昨年の施政方針演説では演説が聞こえないくらい怒号が飛び交うような所があったが、今回は非常にヤジが少なかった。今年は参議院議員選挙があるので、もっとガツガツ攻めてくると思っていたが、引くべき所は引いている内容だったので、野党も批判しにくい所があったのではないか」と分析。作家の乙武洋匡氏は「選挙を睨んで、引くべきところは引く、という駆け引きができるからこそ、長期政権が続いているんだと思う」と感想を漏らした。
■韓国へ"言及しないという"メッセージ
そんな吉野氏が、目新しいポイント、注目すべきポイントだと指摘するのが、沖縄に関する記述の変化、そして韓国への言及がなかった点だ。
「昨年は多くの分量を割いて、沖縄振興策や基地負担軽減策をやってきたことを述べた上で、普天間基地の辺野古移設問題を進めさせてほしいと説明していた。今回はそのエッセンスだけという具合だ。すでに決めてしまったことでもあり、ブレずに進めるということだろう。29日以降には代表質問や委員会審議があるので、そこで野党側からも詰められると思うし、土砂投入についての説明をせざるを得ない状況になると思う」(吉野氏)。
さらに中国やロシア、北朝鮮といった国々の名が挙がる中、これまで「基本的価値と利益を共有する最も重要な隣国」(2013・2014年)、「戦略的利益を共有する最も重要な隣国」(2016・2017年)としていた韓国についての言及がなかったことについては「これまで韓国については1段落、2、3行は入っていたのが、今年はなくなった。韓国について話す場合、去年と同じようにはいかないし、きつめのトーンで言わざるを得なくなる。今の状態でそれを言えば、韓国の反発を招くし、反論もしなければならなくなる。そこで今年はやめようとなったのだと思う。言わないことでのメッセージもある」とコメントした。
また、日ロ関係、北方領土問題について注目したという井上が「安倍政権がラスト3年で残せる現実的なレガシーは北方領土問題だと思う。父・晋太郎さんもかなり力を入れていた問題なので、その思いも受け継いでいると思う」と指摘すると、吉野氏も「昨年も今年もロシアにはかなりの分量を割いているし、"北方領土問題を絶対解決する"という強い思いはあると思う。ただ、取材すれば取材するほど、安倍さんがこの問題に難しさを感じていることがわかる。道は果てしなく遠く、向こう岸が霞んで見えないくらいだ。スタート地点には立ったかもしれないが、今の状況では3年で結果が出せるかはまだわからない」と説明した。
■おなじみの"偉人"が消えた
加えて吉野氏が着目したのが、"偉人が消えた"という点だ。「これまでの施政方針演説では昔あるいは最近の偉い人を引用し、"こういう風にしたい"というような締め方をしていた」と話すとおり、これまで様々な人物の発言が登場してきたが、今回はそれがない代わりに,天皇皇后両陛下、そして明治天皇の御製に言及している。
「安倍総理は今年が平成最後であるということ、来年以降は新たな時代の始まりだということを強く意識したようで、"平成の、その先の時代に向かって"という表現が7回も登場する。そこで天皇皇后両陛下のこれまでの足跡を紹介し、明治天皇の御製を引用した。天皇陛下に登場して頂いた以上、他の偉い人は入れづらい、ということがあったのだろう」と推測した。
6月26日まで開かれる予定の通常国会。「2月、3月は予算委員会で終わり、4月は統一地方選挙があるので、国会議員は選挙区の応援などで会議はしづらい状況になる。そして5月は皇位継承ということで、ゆとりを持って議論する時間が少ないのが今国会の特徴」(吉野氏)。審議される主な法案(予定)には「幼児教育・高等教育の無償化」「税制改正関連(自動車税の減税・住宅ローン減税)」「放送法改正(NHKのネット同時配信)」「電気通信事業法改正(販売店の届け出制)」といったものがある。いよいよ始まる国会論戦に注目だ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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