日本時間の６日午前、就任３年目に突入するトランプ大統領の一般教書演説が行われた。
一般教書演説は年の初めに上下両院の合同会議で国の現状を報告して、施政方針を表明するもので，大統領が議会で演説する機会は少ないこともあり、国民は生中継に大きな注目を寄せる。同日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、１時間20分にわたった演説を、国際ジャーナリストの小西克哉氏とともに読み解いた。
■アドリブの上手い"テレビ芸人"
小西氏はまず、演説全体の印象について「長い！」とコメント。
「去年はもっと長かったがオバマだったら60分で終わったかもしれない。最初の"溜め"も長すぎる。スティーブン・ミラーという若いスピーチライターが作った草稿に対して"これじゃ甘い"ということで、民主党に牙をむくようなところも入れた。だから玉石混交で、結構グダグダになった感じもする。しかしそこはアドリブの上手い"テレビ芸人"トランプの面目躍如たるところ。テレプロンプターを使って原稿をそのまま読むのではなく、自分のプラスになることも入れていた。さらに"ゲストいじり"をする。これも超一流だし、うまいこと内容をカバーしていると感じた」。
小西氏が指摘するように、全体として演説は和やかなムードの中で行われ、ゲストで来ていたジュダ・サメット氏に誕生日のお祝いの歌が贈られる一幕もあった。サメット氏は第２次世界大戦中のホロコーストを生き延びた人物で、さらに去年10月にピッツバーグで発生した銃撃事件の現場に居合わせたことから、"奇跡の人"とも言われている。トランプ大統領は「私だったら歌ってくれないよ」とアドリブで自虐ネタを交え、議場を湧かせていた。
■トランプ大統領を見下ろす下院議長の挙動に注目
また、演説を行うトランプ大統領の背後に座っていた下院議長のナンシー・ペロシ下院議長の挙動もポイントだったという。去年は与党・共和党のライアン氏が座っていたが、ペロシ氏は野党・民主党の議員だ。つまりトランプ大統領にとっては、その視線が気になる存在だ。
小西氏も、「下院議長が上から大統領を見下ろす構図になるが、ペロシさんと大統領はずっと戦ってきた人。注目されるのが好きなトランプ大統領だが、かなりのプレッシャーがあったと思う」と話す。
実際、トランプ大統領が不法移民の問題に言及し「私は壁を建設させる」と語った時には、スタンディングオベーションをする議員もいる中、ペロシ氏は立ち上がるどころか拍手を送ることすらしなかった。
その一方、ペロシ氏が立ち上がって拍手を促したのが、トランプ大統領が「経済発展の恩恵を最も受けるのは女性だ。去年新しく生まれた雇用についた人のうち58%が女性だ。国会が100年前、女性に参政権を与える憲法改正案を通して以来、国会にはかつてないほど多くの女性議員がいる」と語った場面だった。これには女性の政治参加を象徴する白色のスーツに身を包んだ女性議員たちがハイタッチをするなど、議場は大きな拍手に包まれていた。これにはトランプ大統領も「拍手してくれるとは思わなかったよ。どうもありがとう」と応じたが、小西氏は「女性議員たちが自分たちを指差すようなジェスチャーをしていたが、私には"ほとんど民主党の議員じゃないですか"と言っていたように見えた」と指摘した。
■首脳会談を前に、中国・北朝鮮批判を封印？
今回の演説は（1）米国の偉大な業績・9分、（2）好調な経済・10分、（3）司法制度改革・6分、（4）移民・国境の壁問題・14分、（5）女性の活躍・3分、（6）貿易不均衡の是正・5分、（7）医療制度、中絶問題・10分、（8）安全保障・ロシア・3分、（9）米朝首脳会談の日程・1分、（10）ベネズエラの混乱・2分、（11）中東・イスラエル問題・5分、（12）イラン制裁の正当性・1分、（13）ユダヤ人を救った米国・8分、（14）米国は団結して前進・5分という構成だった。
小西氏は「外国から見ると、国際関係・政治が少ないという感じがするし、日本については言及ゼロ。ただ、いつもこんなものだ。アメリカ国民は基本的に他国のことにはあまり興味がないので、国内問題が中心になる。イギリスやフランス、ドイツという言葉も出ない。日本が出ている・出ていないということを考えるのは、日本の官邸詰めの記者のメンタリティだ」と説明。対北朝鮮・対中国についても自らの外交手腕だとアピールしつつ言及は１分程度だったことについては「北朝鮮の非核化は進んでいないが、核実験を止めているとか、ミサイルは発射されていないこと、いいことだけを強調している。中国についても関税を上げるとは言っているが、支持層に"やっぱりトランプはアメリカを豊かにしてくれているんだ"と思わせる仕掛けに使って、あまり非難をしなかった。両国とは首脳会談を控えているので、悪いことは言わないようにしている」との見方を示した。
■好調な経済をロシア疑惑批判に、ベネズエラ問題を野党批判につなげる？
さらに小西氏によると、国内経済の好調ぶりやベネズエラへの批判を通して、別のことをアピールしている箇所があるのだという。
「好調な経済について一通り成果を訴えた後、トランプ大統領は"アメリカで経済の奇跡が起きている。唯一それを阻止できるのは、戦争、政策、あるいは馬鹿げた極端な捜査だけだ"と言った。ロシア疑惑や特別検察官による捜査のことを直接は言っていないが、２月中旬にも出ると言われている報告に対し、"そんな馬鹿げたことをやっていると、順調な経済を台無しにしてしまうんじゃないの"と牽制している。また、ベネズエラについて言及した後、"我々は米国で社会主義体制の導入を求める新たな声を憂慮している"と述べているが、これはベネズエラのことではなく、民主党左派、つまりはバーニー・サンダースやオカシオコルテスのことだ。ヨーロッパや日本では社会民主的な考えを持った人がいるのは自然なことだが、アメリカでは伝統的に"ソーシャリズム"という言葉を警戒する人は多い。トランプのコアな支持層は"やっぱりトランプは左派と戦っている"というイメージになる。よくできている」。
これにはパックンも「上手い。"ベネズエラのようにはなりたくない"という国民の気持ちを、うまく民主党批判に向けようとしている。バーニー・サンダースやオカシオコルテスが言っているのは格差是正や累進課税の導入だが、そこを"マデュロ（ベネズエラ大統領）と一緒だよ"という風に見せている」とコメントした。
■国境の壁は「鉄鋼、スチール製でいい」?!
また、小西氏が「ワシントン特派員だったらニュースにする」と指摘したのが、国境の壁建設に伴う発言だ。
トランプ大統領は「これは、インテリジェントで戦略的なシースルーの鋼鉄製の壁で、単なるコンクリートの壁ではない。国境警備によって必要性が高いと認められた場所に展開され、彼らが言う通り、壁が建設された場所では、違法な侵入は大幅に減るだろう」と述べている。
小西氏は「これはすごく大事なところだ。国境をちゃんと守る手段として壁を作るのは分かるが、壁を作ることが目的になっているのはおかしいと保守の人も言ってきたし、まさにペロシ議長が妥協しなかったように、壁を作るというのは共和党に不評だった。これに対して、鉄鋼、スチール製でいいと言っている。つまりプライドを満足させてくれるなら妥協できるというメッセージだ」と分析した。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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