Jリーグの最終節、ロスタイムにまさかの逆転弾を許したジュビロ磐田は翌週のJ1参入プレーオフに回ることとなり、降格の瀬戸際に立たされた。東京ヴェルディに勝ってJ1残留を果たしたものの、ジュビロのサポーターにとって胃の痛い日々だっただろう。
そして今、同じ静岡で降格の危機に瀕しているクラブがある。Fリーグのディヴィジョン1に所属するアグレミーナ浜松だ。浜松が磐田のように、降格から逃れるためには何が必要なのだろうか。一昨シーズンまで“銀河帝国”名古屋オーシャンズ一筋でプレーしてきた浜松のエース・前鈍内(まえどんち)マティアスエルナンに、勢いを取り戻して残留するために必要なヒントを聞いた。
ようやく覚醒した浜松のエース
「勝つ秘訣というのは練習にあると思います。試合のために練習でどれだけ準備するかということが重要。苦しい時でも練習して、いい流れになるようにやるしかないです」
今シーズンのアグレミーナ浜松は第29節終了時点での平均ゴール数は1.3点。チャンスメイクはできるが最後のところで決め切ることができない試合が続いた。昨シーズン、チームトップの14ゴールを挙げた前鈍内自身も、29節終了時点でわずか5ゴールと苦しんでいた。
「チームが勝てていないイコール、自分の(力を)100%を出せていないことだと思います」
うつむきながらそう答えた前鈍内は、その後も自分の言葉通り愚直に練習し、勝つための準備をし続けた。
そして1月20日に行われたFリーグ第30節、相手は既にリーグ1位通過を決めた古巣の名古屋オーシャンズ。今までの浜松なら惨敗も十分にあり得る対戦だった。
しかし、その日の浜松は違った――。
開始2分に左サイドから前鈍内がニアサイドにミドルシュートを突き刺して先制する。そして10分には相手GKを引き付けて味方のゴールをお膳立て。18分には右サイドからGKのギリギリ届かないところにシュートを流し込み、前半だけで3ゴールに絡む大仕事をやってのけた。
だが相手はFリーグの絶対王者。点を取っては取り返されるシーソーゲームが続いた。試合は残り3分の時点で5-6の1点ビハインドの状態。浜松はGKをフィールドプレイヤーに代えてパワープレーを仕掛ける。すると前鈍内のシュートが呼び水となり同点弾が生まれた。
試合はこの後、名古屋のパワープレーで勝ち越されてしまい6-7で惜敗。それでも、今季最多のゴール数を叩き出した浜松の快進撃は前鈍内がもたらした“勢い”によるものが大きいはずだ。
この次のヴォスクオーレ仙台戦では残り1分で2点差を3-3に追いつく粘り強さも見せた。そこに、ずっと決定力不足を嘆いていたかつての面影はもうなかった。
Fリーグは残り2節。11位・エスポラーダ北海道との勝ち点差は6だ。F1参入プレーオフを回避するためには北海道が2連敗した上、浜松が2連勝しなければいけない厳しい状況となっている。
残留のために浜松は可能性を信じてこの勢いのまま2連勝するしかない。もし仮にF1参入プレーオフに回ってしまったとしても、今の浜松なら相手がF2で一番勢いに乗るチームでも問題はないはずだ。
覚醒したエースをきっかけに、勢いを取り戻した浜松の意地とプライドを懸けた戦いが、間もなく幕を開ける――。
文・舞野隼大(SAL編集部)
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