豊富な運動量でピッチを縦横無尽に走り、攻守を支える選手。彼らは時に「ダイナモ」と呼ばれ、ピッチになくてはならないキーマンとして勝敗を左右するほどの重要な役割を担っている。
例えばフランス代表には、マンチェスター・ユナイテッドに所属して、自身がスコアラーにもなれる攻撃的なMFポール・ポグバがいる。チームを縁の下で支えながら、勝負どころで決定的な仕事ができる彼の存在なしに、20年ぶりのW杯優勝はありえなかっただろう。
頂点を目指す時に欠かせないのがダイナモであり、その選手は必ずしもチームのエースではない。日本最高峰のフットサルリーグで、2シーズンぶり2度目の頂点を狙うチーム、シュライカー大阪にもそんな選手がいる。守備的な選手でありながら、今シーズンは得点も量産する27歳の中堅、田村友貴だ。
フットサル歴半年で大抜擢されたシンデレラボーイ
大阪は2016シーズンに圧倒的な強さでリーグ制覇を成し遂げた。過去9シーズンで9連覇中だった王者・名古屋オーシャンズを相手に3回対戦するリーグ戦で3連勝して、プレーオフでも盤石の強さを見せた。
誰も破れないと思われた名古屋を、大阪はどうして倒せたのか。理由はその3年前にあった。
2014シーズン、大阪は木暮賢一郎監督を招へいして、リーグ制覇への3カ年計画を立てた。チームマネジメントに優れる木暮監督は就任当時、選手に「歴史を変えよう」と伝えたという。チームに着実にプロイズムを浸透させながら、3年で名古屋を倒すと心に決めたのだ。その1年目に早速、真価が発揮された。
上位5チームによるプレーオフにギリギリで進んだ大阪は、経験の浅い若手を抜擢したのだ。
フットサルを始めてからわずか半年しか経っていない田村は大舞台でいきなり大活躍。プレーオフ1stラウンドで2得点を挙げて逆転勝ちを呼び込むと、続く2ndラウンドも開始6秒で先制点を奪取。名古屋とのFinalラウンドでもゴールを挙げた。リーグ1位の名古屋に1勝が与えられ、2戦先勝で争う圧倒的に不利な戦いの中、大阪は第1戦で引き分け、第2戦でも王者を追い詰めた。田村は、プレッシャーが最高潮に達する緊迫のゲームを肌で味わった。当時の彼は、シンデレラボーイと呼ばれ話題を集めた。
2年後の2016シーズン、リーグ制覇を達成したチームの中で、田村は主軸を任されるまでになっていた。この年の大阪は、交代が自由のフットサルにおいては“異例”となる、能力の高い選手を長時間登用し続ける戦略で連戦連勝。田村は“主力6人”の一角として、シーズンを通して大車輪の活躍を見せたのだ。
それからさらに2年。大阪は監督も選手も入れ替わり、名古屋に再び覇権を譲ってしまった。しかし田村はもう一度、高みへ上り詰めるために、あの頃にはなかった攻撃性を見せるようになった。
「中堅からベテランと呼ばれる年齢になって、チームを引っ張らないといけないと強く思うようになった」
もともと、守備力が求められるフィクソとしての能力には定評があったが、今シーズンは得点力を発揮。33試合で16得点を挙げて、並みいるスコアラーを押しのけてランキング上位に食い込んだのだ。「自分のセットには相井忍という強いピヴォがいるので、そこに入れてしまえば、多少のリスクを犯してでも前に上がっていける。味方に預けてシュートにいくという、本来の自分の持ち味が出せるようになった」と、後方から一気にゴールへと絡んでいくシーンは、今シーズンの大阪を象徴する攻撃パターンだといえる。
大阪は上位3チームで戦うプレーオフに2位で進み、今週末、プレーオフ準決勝を戦う。田村がブレイクするきっかけとなった舞台。だが、あの頃の自分とは経験も技術も、背負っているものも違う。
「優勝した年は、みんなが100パーセントを出せれば勝てるだろうと思っていた。今は、一人ひとりが120パーセントの力を出せないと可能性は低いと思う。それでも、優勝のイメージはできている」
フットサル界の歴史を変えたチームで、競技のイロハを学んだ男。シンデレラボーイはいつしか、チームを縁の下で支える選手になった。豊富な運動量でピッチを縦横無尽に走り、攻守を支える姿はまさにダイナモだ。しかし彼は現状に満足していない。「今週末に勝って、次も勝って、優勝します」。もう一度、自分の力でチームを頂点へと押し上げられた時、田村は大阪の“真のエース”と呼ばれるのかもしれない――。
文・本田好伸(SAL編集部)
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