2月19日、タレントの堀ちえみさんが、自身のブログでステージIVの「舌がん」であることを公表した。
口腔がんの中でも患者の約6割を占めるという「舌がん」。舌がんの特徴について、神奈川県立がんセンター頭頸部外科部長の久保田彰医師は「舌の側面、ちょうど歯の内側が当たる場所に潰瘍やびらんを形成することが多い。入れ歯や口の中が不潔になることでの刺激で発生する可能性もある。特に最近は顎が小さくなっているので、歯が内側に向けて生えている方で罹患する方もいる。堀さんの場合はリウマチを抱えられていたということなので、例えば免疫抑制剤を使っている方の場合、免疫が落ちることで発生することもある」と説明する。
「次第に大きくなってくると、筋肉の方に入り込み、周りのリンパの流れに乗って首のリンパ節に転移するようになる。リンパ節転移が出るということは、転移する潜在能力を持った腫瘍という形になるので、血液の中を巡って、他のところにがんが飛び散る場合がある。最初の砦が首のリンパ節なので、ここでしっかり治療しなければいけない。目に見えないような、がんの原因になるような病巣は抗がん剤で取り除く。また、今は色々な治療法が進歩しているので、それらと組み合わせることによって転移を防ぐ集学的治療が非常に重要だ」。
■口内炎だとして見過ごされるケースも
舌がんを疑うべき症状として、2週間以上続く口内炎や白板症(舌の裏や側面に白斑)などがある。鏡で見ればすぐに気付き、違和感があるので分かると思われがちだが、初期の舌がんは見過ごされるケースもあり、分かった時には転移してしまっていることもあるという。
堀さんも「最初は昨年夏頃に、舌の裏側に小さい口内炎ができました」「治りが遅いので、病院で診ていただきまして、その時は塗り薬や貼り薬、ビタミン剤などを処方して貰いました」とブログで説明している。しかし11月になっても症状は治まらなかったため、かかりつけの歯科医院で数回レーザーで治療を受ける。それでもしこりは舌の裏側だけではなく、左側面にも現れ、年が明けた頃には、激痛が走るようになったという。そして今月4日、大学病院で口腔癌との診断を受けた。
小保田医師は「普通の口内炎と一緒なので痛みを感じる場合もあるが、外側に大きくなるような潰瘍を形成しない腫瘤型の場合は痛みを伴わない場合もある。口内炎だと1週間くらいで良くなるが、そうでない難治性のものの場合、がんを疑って、専門医にかかられた方がいい。白板症についても、罹っている方がたくさんいるし、それ自体が直ちにがんということではない。やはり胃がんや大腸がんなどに比べ、頭頸部がんは数が少ないので、一般の医師が経験する機会がどうしても少ないいし、歯科医師なので舌がんにあまり慣れてなかったということがあるかもしれない」と推測した。
VIVIA Japan代表の大山知春さんは31歳のときに舌がんに罹患、舌の3分の1を切除した後、克服したという。大山さんも、当初は口内炎のような症状が現れたというが、それまで一度もできたことがなかったため、すぐに舌がんを疑って受診、ステージIIとの診断を受けたという。「当時はアフリカで暮らしていたので、年末に帰国してから病院に行こうと思ったが、痛みが早く出てきたので早めた。人によって違うらしいが、私の場合は口内炎みたいなものができ始めてから1か月くらいで患部が痛むような状況になったので、これはちょっとおかしいなと」と振り返る。
「私も顎が小さく、歯が内向きだと言われた。確かに話をする時に、舌が歯に当たって痛いことがあったが、そういうものだと思っていた。手術後すぐは滑舌が悪かったが、今は気づかれないないくらいの感じになっている」。
■12時間以上…大手術になる理由は
舌がんの一般的な治療方法には、病巣の除去をする外科手術の他、限局した範囲にのみ放射線使用が可能な放射線治療(小線源治療)や動脈内に直接薬剤を注入するなどの化学療法がある。
久保田氏医師は「標準的な治療としては手術が推奨されている。機能障害という後遺症の問題もある。口腔以外の領域では国際的に化学療法と放射線の同時併用が標準治療の中に入ってきている。舌動脈にカテーテルを入れて抗がん剤を流し、放射線治療と同時併用すると、進行がんやステージIVでも手術をせずに良くなる患者さんもいらっしゃるので、私たちの場合も選択肢を示し、患者さんに選択してもらうようにしている。ただ、合併症があって抗がん剤を使えない患者さんの場合、手術で治すという選択肢しかない」と話す。
また、堀さんの場合、左首のリンパ節にも転移している事が判明している。今週22日には口腔外科と形成外科の合同チームによる12時間以上の手術で、舌の半分以上を切除(皮膚の一部を移植)する他、首のリンパ節に転移した腫瘍も切除するという。
「腫瘍が周囲に散っているので、だいたい1~1.5cm、場合によっては2cm程度離して切除する。そうすると舌の半分くらいを取らないといけなくなる。舌は言葉を発したり、飲み込む動作(嚥下)に関係したりしているところなので、残った舌に皮膚を持ってくる。大きく取ってくる場合は筋肉つきの皮膚を持ってくるが、半分くらいであれば皮膚が死なないように栄養を送るため、血管つきの皮膚を持ってきて、首の動脈と静脈に皮膚の血管を繋いであげる。それからリンパ節も合わせて取ってきて、それと合わせて形成外科で再建術をする。取るだけではなくて、その後舌を作らなければいけないので長時間の手術になる。味覚は舌の左右にあるので、ほとんどの場合は大丈夫だが、大きく取った場合は言葉や嚥下のリハビリテーションを行う。遺伝子レベルが原因で若くして特殊ながんになる場合は問題だが、例えば歯の刺激でがんになった場合は別だ。小さな病変であればレーザーで切り取って、放射線もかけないで良くなる方もたくさんいる。若いからダメというような決めつけはしない。克服して復帰したら、他の患者さんの勇気にも繋がってくると思うので、希望を持って頑張っていただきたい」(久保田医師)。
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