今、名古屋オーシャンズが新たな歴史を築き上げようとしている。
2シーズン前、“キング・オブ・Fリーグ”と称された森岡薫の退団や、初年度からキャプテンを務め、長い間リーダーシップを発揮してきた北原亘が引退。新たに星龍太が主将に指名された。
しかしその年、10連覇を懸けた彼らは、優勝を逃した。2007年から積み上げてきたクラブの歴史があの時、途絶えてしまった。その中心にいた選手こそが、星龍太だった。
体育会系からファミリーへ。王者の新スタイル
「その時はなんで調子が悪くなってしまったのか、その理由が全然わからなくてもがいていたというか、『俺がなんとかなしなければ』と強く思っていたシーズンでした。『キャプテン』っていうと響きはいいかもしれないですが、チームをまとめることは、一人ではできないものだなと」
本人が「チームを引っ張るタイプではない」と自覚するように、新キャプテンは経験したことのない重役を任されながら、どうすればいいかも分からずに苦しんでいた。
「自分の考えるキャプテン像は世間一般が考えるようなものだったし、ほかのキャプテンと同じことをしようとしてもダメなんだなと。自分なりのスタイルを見つけられたのは昨シーズン。それからうまくいった」
新しく見出したキャプテン像とは「チームの雰囲気を重視する」というものだった。
今までの名古屋は、体育会系のような上下関係がはっきりしたチーム。しかし星がキャプテンになって2年目の昨シーズンは、そういう壁を取り払った「家族」のような関係性を築き上げることを意識した。
「オーシャンズは全員がプロ選手なので、チームスポーツですけど、個人で自分のことをやっていれば契約はしてもらえるし、ボーナスがもらえる。そんな考え方だと“仕事の関係”になってしまうので、どちらかといえば家族みたいに。そういう一体感が生きているからこそ、プレーでお互いを助け合えていると感じます」
助け合いが増え、年齢の壁もなくなったことで、意見交換が活発になった。そして昨シーズンは国内のタイトルをすべて獲得し3冠を達成。成果を実感するには十分な成績を残した。今シーズンもその土台に積み重ねるチーム作りを進め、リーグ戦はレギュラーシーズン33試合を無敗という、驚異的な記録をマークした。
「昨シーズンのベースに、経験のあるペピータや兄の翔太が入って、新しい攻守の形もできました。同じメンツだったら、(相手にも分析されてしまうため)ここまでいい成績を残せていなかったと思います」
名古屋は再び、追われる立場になった。それこそが彼らのいつもの姿でもある。
「僕たちは追われてナンボです。その立場にいることで、本来の力を出せるのかなと。そういう意味でも、プレッシャーの掛かり方は、昨シーズンとはまったく違ったものです」
無念と失意、絶望の1年目。希望が見えた2年目。革新の3年目。かつて名古屋は、一度だけ無敗優勝を達成したことがある。当時は歴代最強といわれていたが、今もまた、歴代最強といわれている。あと2試合で、彼らは再び無敗優勝を達成して、王座を確実なものにできるか。その担い手は、星龍太だ。
新生・名古屋は今、新しい歴史を築き始める、その入り口に立っている――。
文・舞野隼大(SAL編集部)
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