先月23日、新宿FACE大会で東京女子プロレスの人気覆面レスラー・ハイパーミサヲの“闇堕ち”がファンに衝撃を与えた。
この日、ハイパミは長期の負傷欠場から復帰した辰巳リカとシングルマッチ。辰巳とは自身の復帰戦でも対戦、個人的にも思い入れがあるだけに、特別な試合だった。ゴング前にマイクを握ると、いつものような変則ルール要求や握手からの騙し討ちではなく、ストレートに「もうすぐキャリア4年、私はまだベルトに挑戦したことすらない。リカさんと組んでタッグベルトに挑戦したいんです。今日、私が勝ったら組んでほしい」とアピールしている。
辰巳もタッグ結成を断る理由はなかったが、といって試合で負けるわけにもいかない。ハイパミの徹底した腕攻めに耐え抜き、胴絞め式のドラゴンスリーパーでフィニッシュ。試合後は拳を合わせて健闘を讃え合った。
しかしその後、事件が起きる。今大会、おフランスから久々の来日を果たした沙希様(様までがリングネーム)が渡辺未詩を下し、試合後も痛ぶっていたところに割って入ったのが辰巳。そこにハイパミもリングイン、辰巳に加勢するかと思われたが、イス攻撃を加えてしまう。
タッグ結成を望んでいた相手に、決別の一撃。辰巳に勝てなかったという事実は、それだけ重かったということか。沙希様に「私はもう、地べたを這いずり回って笑われるのは嫌なんです。強くなるためだったらすべて捨ててもいい。あなたの強さを教えてください」と語りかけたハイパミは、「覚悟を見せろ」と言われると、マスクを脱いでハサミで切り裂いた。
(ファンに衝撃をもたらした沙希様とハイパミの結託)
沙希様とともにリングを降りたハイパミは、素顔のまま2人でインタビュースペースにも。「何もないです」とコメントはしなかったが、沙希様は「もともと持っているものを引き出してあげる。団体への不満、自分のあり方、わたくしが解放してさしあげるわ」と共闘受け入れを宣言した。
かつてアズサ・クリスティの潜在能力を引き出し、タッグ王座を獲得している沙希様。ハイパミと本格的にタッグを組むことになれば、やはり東京女子プロレス屈指の強力チームとなるだろう。沙希様から学ぶことで、ハイパミはシングルプレイヤーとしても成長するはずだ。
「東京女子プロレスの愛と平和を守るヒーロー」を自称しつつ、独自のルールや企画でリングを盛り上げてきたハイパミ。DA PUMPの「USA」で踊り狂ったら勝ちという「クイーン・オブ・USA決定戦」、日本語禁止マッチ、“デスマッチのカリスマ”葛西純とのエニウェアフォールマッチなど、常に独自の闘いで“東京女子プロレスらしさ”を表現してきた。しかしキャリアを重ねる中で「勝っても負けても面白い」では満足ができなくなってきたのだろう。
トーナメントでは現シングル王者・山下実優を下しており、昨年は頭脳プレーで沙希様に反則勝ち。他の選手にはないポテンシャルが、これからさらに開花する可能性は充分にある。ハイパミが実力者としてタイトル戦線に絡んでくるのであれば、ファンも歓迎するに違いない。
ただ、沙希様との共闘で東京女子プロレスの人間模様、全員がライバルでありながらも平和で微笑ましい独特の雰囲気に亀裂が入りそうでもある。3月2日の大阪大会、3月3日のファンクラブ限定大会には出場していないハイパミ。次にリングに上がる時はどんな姿で、どんな闘いを見せるのか。
文・橋本宗洋
写真:DDTプロレスリング
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