西の花道にひと際大きな体を見せただけで序二段の取組には珍しく、まだ観客がまばらな客席の四方八方から拍手と歓声が上がった。そして、呼出しが「照ノ富士」の四股名を呼び上げると声援はさらにボルテージを増した。
元大関照ノ富士が5場所ぶりに本場所の土俵に登場した。久々に見る体つきは一回り太った印象を受けるが、鍛え抜かれた肉体とは言い難かった。両膝のケガ、内臓疾患などに苦しんだ元大関は、右四つに組み止めて胸を合わせて前に攻める本来の相撲とは程遠かったが、若野口を叩き込んで1年前の春場所12日目以来、354日ぶりに勝ち名乗りを受けた。
2015年夏場所、関脇で初賜盃を抱くと翌場所は大関に昇進。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。大関在位は14場所。ちょうど2年前の春場所は横綱稀勢の里と優勝決定戦を戦い、日本中が注目する渦中のど真ん中に身を置き、綱取りも話題に上るほどだった。
2017年秋場所を最後に大関から陥落。その後も番付は急降下し、史上初めて大関経験者が幕下以下の番付に名を残すことになった。元大関がまだ午前10時前の序二段の土俵で相撲を取るのは、もちろん前例がない。場所前は幕下クラスの力士に胸を出す程度で、本格的に相撲を取る稽古はまだできず、現在は治療中心の日々を送り、最近になってようやく筋トレに着手した状況だ。
白星発進としたが序二段優勝は視野に入っておらず、先を見据えて今できることをしっかりこなすだけだ。異例の大復活を目指す元大関だが、いばらの道はまだまだ続く。
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