Appleが日本時間の26日未明に開催したスペシャルイベントは、これまで先進的なデバイスを生み出してきた同社にとっての"新時代の幕開け宣言"ともいえる内容となった。
その中心となるのが、定額で商品やサービスを使い放題にするサブスクリプションモデル、"サブスク"のサービス群だ。今回Appleは有名監督や俳優を起用した独自コンテンツを世界100以上の国や地域に提供する動画配信サービス「Apple TV+」、あえて追加課金なしで100以上の新作タイトルを用意する有料のゲームサービス「Apple Arcade」、そして300以上の新聞や雑誌を月額9.99ドルで読み放題にする「Apple News+」を発表。登壇したティム・クックCEOが「ユーザーは楽しみ、啓発され、情報を与え、人生を豊かにできる。我々がすることの全ての中心はユーザーだ」と訴えた。
ITジャーナリストの三上洋氏は「毎年9月の新型iPhone発表会と同じくらい大規模な発表会だった。日本からも第一線のITジャーナリストたちが20人ほど招待されていた。今までのAppleの発表会は"こんなすごいハードウェアだ!"と自慢げにやるのがメインだったが、それをやめ、3日前からWebで発表するだけ。発表会は全てサービスの紹介に充てた。すごく大きなシフトチェンジをしたなという感じだ。もともとはiPhoneもスティーブ・ジョブズによる電話の"再発明"。声の情報ツールだった電話を、全ての情報ツールになる手のひらの端末という形に再発明した。Appleは今回、テレビ、ゲーム、ニュース、こういったものの配信自体を作り直すんだという意気込みだろう」と話す。
その上で、それぞれのサービスの懸念点を指摘する。
「『Apple TV+』では、Apple本体がコンテンツ制作にまで踏み込んたということで、スピルバーグ監督やアメリカの有名司会者、俳優、アーティストがどんどん登壇した。ただ、アメリカ人にとってはセレブな有名人でも、日本人は"きょとん"だろう。中身がまだ分かっていないのではっきりしないが、そもそもオリジナルコンテンツを作るというのは博打に近い。例えばAbemaTVだって24時間、色々なチャンネルで色々なコンテンツを作っているけれど、いつお金になるか分からない。それをAppleはNetflixをライバルに始めようという。オリジナルコンテンツの制作に米三大ネットワークを超える年間1兆円と、世界で一番コンテンツにお金をかけているNetFlixに今から太刀打ちできるか微妙な線だ。『Apple Arcade』については、Googleが"ゲーム機はいりません"ということで、サーバーで動かして、どんな端末からでもすごいゲームができるシステムを始めたように、Appleもゲーム機に乗り出してきた、という感じではある。ただ、これまでスマホゲームのほとんどが、最初は無料だが、追加でアイテムを買うために課金させるというやり方でお金を使わせていたが、最初の料金だけでいいのだろうか」。
さらに三上氏は『Apple News+』についても「日本で言えばdocomoがさんざんやってきた『dマガジン』。Appleは何を、何ページを見たか情報収集しないのが安心とアピールしているが、新聞などの有料コンテンツも全部見られるのかといったら、かなり疑問は残る。日本に上陸した場合、"朝毎読"が全て共通の金額で見られるとなったら絶対入るだろうが、そこまではできないのではないか」と、日本国内での普及には課題も残るとの見方を示した。
モバイルゲームを開発する株式会社gumiの国光宏尚代表は、自身のTwitterで「Appleの発表、新規性は全くない。iPhoneのイノベーションは終わった。圧倒的なプラットフォーマーが垂直統合のサービスを展開することの問題は議論されるべき。そりゃ、SpotifyもNetflixも怒る。サードパーティと公正な競争になっているかの監視は必須。これは国にしか出来ない」と疑問を呈している。
三上氏は「今までAppleはコンテンツに直接手を下してこなかったので良かった。しかし『Apple TV+』をやりますと言った時に、たとえばAppStore内でNetflixの検索順を下げるのだろうか。ハードウェア、ソフトウェアだけではなく、コンテンツまでやるようになると、"それはずるくないか"という見方も出てくるだろう。ただ、まさにHUAWEIがP30という新しいスマホをパリで発表した。こちらも日本からは25人のジャーナリストが呼ばれているし、他のメーカーにもそのくらいの力強さもある。Appleとしてもハードウェアだけでは商売にならないということも明らかだ」と指摘した。
その一方、発表会場を最も驚かせたのが、Appleによるクレジットカードの発表だった。サービス名は「Apple Card」で、決済アプリのApple Payに対応したバーチャルカードとなっており、地図アプリと連携させることで、どこで何を買ったのかを後々確認でき、支出の内訳をわかりやすく表示することもできるという。また、使うたびに2%のキャッシュバック、Apple製品を買えば3%キャッシュバックされるのも魅力だ。
そしてApple Payが使えない時のために発行されるチタン製のリアルなカードはAppleらしい美しいデザインで、カード番号や署名欄も存在せず、これまでにない高いセキュリティを誇るのだという。
クレジットカード専門家・菊地崇仁氏は、「米国なら還元率がもう少し高くてもおかしくない。クレカはハードウェアよりも囲い込める(他社切り替えが難しい)。キャッシュバックに使うiMessageでの個人間決済が日本ではできない(日本上陸にはしばらくかかる)」との見方を示す。
昨年からAppleのクレジットカード進出を予想していた三上氏は「もともとAppleは新しいことを真っ先にやるというよりも、他所がすでにやってるものをApple流にスマートにかっこよく、使いやすくしてきた。その意味で、今までのクレジットカードの常識からしたら出せるわけがないものを作ったという感じだ。また、完全に金融のサービスだから、これまでのAppleのビジネスと全くかけ離れたところにある。ただ、すでにiPhoneでApple Payによる決済をやっているので、だったら自分でクレカ持っちゃえばいいんじゃない、ということ。そこが今までの常識をぶっ潰している。今まで個人用のクレカなんてやったことのない投資銀行のゴールドマン・サックスと手を組んだ。そしてポイントを2%、毎日返す。そして、クレジットカードは個人情報がいっぱい詰まっていて、それをビジネスにするものだが、Appleはそれをビジネスにはしないと言っている。プライバシーを守るというAppleの姿勢が出ていると思う。ただ、アメリカの場合はリボ払いが一般的なので還元率を高くできるが、日本は少し事情が違う。また、個人間送金なども含め、日本上陸には制度面でも課題が残る。それでも頑張って日本に入ってきて、日本の業界に刺激を与えて便利にしてほしい」と期待を寄せていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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