”9割が中絶を選択” 出生前診断を受け、「命の選択」を迫られた夫婦の苦悩
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 染色体の異常により600~800人に1人いるとされる、ダウン症候群。知的障害を抱えることが多く、身体的にゆっくりと育っていくのが特徴だ。

 去年3月に生まれたダウン症の勘介くん(1)を育てるメイミさん(38)は、今でこそ笑顔で成長を見守っているが、出産前には悩み、苦しみ、何度も夫と話し合いを続けた。理由は、妊婦が出産する前にお腹の中の赤ちゃんに異常がないかを調べる検査、「出生前診断」だ。

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 かつて、染色体異常を100%の確率で知るには「絨毛検査」や「羊水検査」という方法が用いられたが、1%未満の確率で胎児が亡くなる危険性も孕んでいた。そんな中、2013年に採血するだけで胎児の死亡リスクがない簡易な「新型出生前診断」が登場。出生前診断を受ける人は、この10年間で2倍以上まで増加、2013年4月~2018年9月の間に「新型出生前診断」を受けた人は約6万5000人に上る。

 ただし、親は医療の進歩によって"安心"を手に入れられるようになったのと同時に、"命の選別"という決断を迫られることにもなる。実は出生前診断によって胎児の染色体異常が確定した886人のうち中絶を選択したのが819人と、実に9割以上が中絶を選択しているのだ。

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 「産まないという選択をすることは、今後の自分の人生にとってすごく精神的ダメージになるし、次は考えないかなと思った。"この子はよくて、この子は産まない"。そういう考えができなかった」。エイミさんは、お腹の中の勘介くんがダウン症であることがわかってからの苦悩をそう語った。

 出生前診断をめぐっては「新型の検査は中絶を促進する検査だ」「検査を否定することは個人の権利を無視すること」「安易な検査や中絶が増えないか?」というような批判的な意見も少なくない。15日放送のAbemaTV『AbemaPrime』は、それぞれの決断を下した夫婦の話を聞いた。

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■「幸せ」と話す妻に、不安が拭えない夫

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 妊娠中に胎児に異常がある可能性を指摘されたYさん(38)は、出生前診断「羊水検査」を受けた結果、妊娠19週で胎児がダウン症だと診断された。「出生前診断の存在も知らなかった。検査した方がいいと言われて、もし異常が見つかった場合は産めないんだろうな、というくらいの軽い気持ちで考えていたので、その先にどういう未来が待っているか、全く想像ができなかった」。

 人工妊娠中絶手術が許されているのは22週未満まで。わずか3週間で、産むか、産まないかという決断を迫られた。胎動を感じ、愛情が芽生え始めていたというYさん。「自らの手で命を絶つということは考えられなかった。精神的なダメージが大きいと思ったし、罪の意識を一生背負っていくのだろうなと」。

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 しかし、夫妻の意見は異なっていた。産みたいと主張したYさんに対し、夫は医療費の問題など、経済的な理由から反対した。「奥さんは胎動を感じて母性を感じ始めていた。奥さんも産まないんだろうなと思っていたのが変わっていった。しかし、どれくらい育てにくいのか、大きくなった時に自立できるのか、全然分からなかった」(Yさんの夫)

 Yさんはそれでも諦めたくないという一心で情報を集め、夫を説得。何度も話し合い、最終的にはYさんの意見を尊重する形で出産を決断した。しかしYさんの夫は「カウンセラーの方の話を聞きに行ったり、ダウン症の子どもを育てている方の話を聞いたりした。それでも平行線が続いていた。奥さんが頑なに中絶することは考えられないというので、さすがに無理強いできない。結局、男性側が意見を突っぱねたら悪者になるだけなので、選択肢はない。離婚するか、産むかの二択だと思った。それくらい覚悟を決めていると言われてしまうと、もう選択肢がないというのが正直なところで、不安が払拭されたわけではなかった」。

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 「今は幸せ?」という問いに対し、「私は幸せ。かわいくて、我が子の笑顔を見ると本当に産んで良かったと心から思う。理想を言えば、何か就労できればいいと思っている。なるべく自立できるように今から養育を頑張って、サポートしながら育てていって、グループホームに入って、親元を巣立っていければと思っている」と話すYさん。

 しかし夫は「かわいいと思っているのは間違いないが、100%幸せかと言われると、考えてしまうところはある。健常の子どもたちと同じ支援が受けられるものだと思っていたが、自治体によっても違うし、現実的にはそうではなかった。例えば健常な子だったら長い時間保育園に預けられたのにとか、病児保育も預けられるのに、というところで、仕事に直撃した。想定していなかった。幸い2人とも会社の理解もあり、月に2~3日程度、突発的に休むことも理解してもらえている。ただ、実際に全ての方々が同じような境遇かといえばそうではないと思う。障害を持っているかどうかにかかわらず、シンプルに子育てのしやすい環境を整えることが優先だと思っている」と話した。

■自分の判断に今も悩む人、離婚を選んだ人…

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 1年半ほど前に出生前診断を受けたLさん(31)と夫は、"陽性だったら諦めよう"と決めていたという。しかし、一生懸命に生きようと大きくなっていく赤ちゃんの姿をエコーで目にし、お腹の中で動く赤ちゃんを感じると、"命の選別"をすることに気持ちが揺れ動いたという。話し合いを重ねたが、夫は「生まれてきた赤ちゃんをかわいいと思える自信がない。小さいうちは可愛いけれど、大人になった時のことを考えると、産む幸せよりも怖さの方が大きい」と打ち明けた。最終的にLさん夫妻は中絶という決断を下す。

 今もどうすれば良かったのかと悩む日々。「旦那さんを説得して、障害のある赤ちゃんを産むことを選べるほど強い母にはなれなかった。一生、罪を背負って生きていく覚悟だ」。

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 出産か中絶かという二択は、夫婦の形を壊してしまうこともある。3年前の妊娠中に出生前診断を受け、お腹の子がダウン症だとわかったSさん(36)は、胎動を感じ始めた頃から一時は諦めていた出産への思いが募るようになっていった。

 しかし赤ちゃんは心臓の異常も持っており、死産になってしまった。亡くなった赤ちゃんに対する夫の態度が、夫婦間に大きな溝を生む。「火葬してから2、3日、寝室で泣いていた。すると夫に"いい加減、元気出したら?"ぐらいのことを言われて。命を見ていないというか、自分都合で考えているというか…」。絶望したSさんは夫との離婚を決意する。「"命の価値観"が違っていることがわかったら、次の子どもを作るという話になったときにもしんどくなるのが予想できた。とてもではないがこの人と一緒には歩めないと思った」。

■産婦人科医「ダウン症のことを知ってから決断を」

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 こうした悩みを抱える夫婦のサポートを行ってきた林伸彦医師は、「9割と聞くと、直感的に高いと思われると思うが、妊婦さんの総意というわけではないと思う。新型出生前検査を受ける方が増えているとはいえ、年間1万人くらいなので、全体から見ると1%以下だ。多くの方は今も出生前検査を受けないという決断をしている。また、日本には母体保護法という、どんな赤ちゃんでも産みましょうという法律があるので、僕たち医療者から出生前検査を受けないかと勧めることも基本的にはない」と話す。

 その上で、「夫婦で意見が違うというケースは多い。ただ、私は、産む・産まないという二択ではないという話をするようにしているダウン症以外にも、生まれてすぐに亡くなるようなご病気の場合には産まない選択をすることもあれば、産んでお看取りをする方もいらっしゃる。あるいは産んでから養子に出すという方もいらっしゃる。ダウン症であればダウン症の方と触れ合うことで色々な未来が見えるようになるので、家族会に繋いでリアルな生活を見てもらうようにもしている。そうすると、産まないという考えを変える方もいらっしゃるし、逆に障害のリアルを知って、"やっぱり私たちには無理だ"と考えるようになる方もいる。そもそも医療にかかるお金は基本的には無料ないしは自治体から助成があるので、それほど負担はないと思う。ただ、直接の医療費ではないところでお金がかかってくることもあるので、勇気が持てないというのはあると思うし、やはり本人が成人した後のことを考えると、不安になるとも思う」とした。

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 そこで林氏のNPO法人では、「胎児ホットライン」の設立を目指しているという。電話・LINEの相談窓口や情報冊子を、夫向けには妊婦の支え方、祖父母向けには知識、中絶する人向けには次の妊娠に向けて情報を提供。また、仲間と繋がるためのプラットフォームを作り、関係団体(ダウン症協会や自助会など)への仲介、同じ境遇の人との会話(オンライン掲示板)も設置するという。

 「今の日本では妊娠するまでダウン症などの病気と触れ合うことのない方が多い。辛いなと思うのは、産まない選択をした後でダウン症の方を見て"こんなにかわいいんだ。私はなんてことをしてしまったんだ"と思う方がいること。そういう後悔をしてほしくない。色々な方と会って、リアルを知って、納得した上で決めてほしいと思っている」。

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 それぞれの夫婦の話を聞いたカンニング竹山は苦渋の表情で「うちの場合は産むという決断になると思う」としつつ、「そのときの状況にもよるし、どういう家族かにもよるので、いずれの考え方も、僕には正解だと思える。でも、僕はNHKの『バリバラ』という番組で学ばせてもらっているので、ダウン症の子どものお父さん・お母さんとお話をする機会もある。もちろん産む決断をして育てているからだとは思うが、"正直、後悔もありますか"と聞いても、100%の方が"ない"と答える。"怖さはありました。でも、私たちも子どもと一緒に親として成長するんですよ"と。そういうことかと思った。健常者の親御さんだってそうだと思う」と話した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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