海外に比べ料金が高く、内訳が複雑で分かりにくいといった国民の声に応えて発足した総務省の有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」。19日にまとめた中間報告では、端末代と通信料金の分離、"2年縛り"契約などの是正、料金形態の明確化といった提案が盛り込まれた。
同日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演したITジャーナリストの三上洋氏は「これまでは端末を安く、代わりに通信料をたくさん取る、という"セット販売"のような仕組みでやってきた。しかしこれでは大手ばかり有利になってしまうので、総務省が"端末は定価で売って、料金はその分下げなさい"と旗を振ってきた。また、オプションの"抱き合わせ販売"も問題視されているが、販売店が売上を作るためにオプションを抱き合わせで売ることでお金をもらう仕組みになっている、その構造にも原因がある。さらに"2年縛り"が良くないという指摘も出ているが、結論はまだ出ていない」と話す。
また、テレビ朝日政治部の総務省担当・小野孝記者も「オプションの問題については書面で丁寧に説明しろといった細かい規制を入れて行政指導はしている。また、大手キャリアが販売店に"販売奨励金"というものを出し、"これで売れと"けしかけていることが問題となっている。"２年縛り"についても、結局は長く使っている人からお金を集め、その分をばら撒くというやり方。総務省としても良いとは思っていない」と説明した。
こうした流れを受け、NTTドコモは15日、中間報告を先取りする形で新料金プランを発表した。「最大４割の値下げを実現した」（吉澤和弘社長）というプランだが、"最大４割値下げ"のためには２年以上の継続契約、３人以上の家族の加入が条件になっていることもあり、ネット上には「どう計算しても安くならない。なんなら高くなる。なんなん…」「値下げの仕組みも複雑であり、手続きが大変」といった否定的な声も見られる。
小野氏は「確かに、ある一定の条件の下で最大4割安くなるという方向に行った。ただ、通信料金が安くなってもその分だけ端末が高くなる可能性もあるため、どのくらいの人にどのくらいのメリットがあるのか、かえって分かりにくくなった」と指摘。三上氏も「端末代を含めると高くなってしまうパターンの方が多いと思う。ドコモは端末代について現時点では濁しているが、たとえば3GBや5GBといった中間クラスのプランでは、１か月あたりこれまでよりも1300円くらい安くなる一方、59000円くらい値引きされていたiPhoneの最新のモデルの場合、元を取るのに45か月かかる計算になる。つまり、４年間使わないと安くならないという困ったプランだ」とした。
■菅官房長官がドコモの新プランにも素っ気ない理由
８か月前には「４割程度は値下げできる余地があるのではないか」と発言し、料金値下げへの旗振り役として注目を集めた菅官房長官は「政府として個別の企業の経営方針については、コメントは差し控えたいと思う」と、ドコモの新プラン発表にも素っ気ない反応を見せている。
小野氏は「菅官房長官も石田真敏総務大臣も、一般論での評価はするものの、コメントをすり合わせたかのように"個別の案件に対してはコメントしない"と、同じことを言った。ちょうど統一地方選の時期で、夏には参院選もある。その先には消費税増税があるので、そのあたりを考えて慎重になっているのではないか。結局、どれだけの人にどのくらいのメリットがあるのかわからない状況になってくると、これを考えたのは誰だ、という話になり、自分の立場が危なくなる。その辺りも考えているのではないか」との見方を示す。
また、元経産官僚の宇佐美典也氏は「そもそも政府に料金を下げる権限がないのに、あの発言が出てきたことが異例。背景には、電波オークションが議論されていたことがあると思う。菅官房長官が通信業界に不利になるようなことを言ったようにも見えるが、総務大臣も務めた人なので、どちらかといえば通信業者寄り。"そうでもしないと制度的に危ないよ。電波オークションが始まっちゃうよ"というメッセージだったのだろう」と推測。
その上で「携帯電話業界には決められたプレイヤーがいて、外から入って来にくいからシェアを奪われるわけでもないので、根本的な構造として安くなるはずがない。それこそ総務省OBが通信会社に定期的に天下りするなど、電波行政は役所と企業がガッチリだ。この構造を崩さない限り、抜本的には安くならない」と指摘した。
■中古市場の未来は明るい？
そんな中、バブルが訪れる可能性があるとの見方もあるのが中古スマホ業界だ。"２年縛り"が解け、機種変更のタイミングで高価な新機種に買い替えるよりも、使い勝手が分かる中古の同一機種のを買えばいい。そうした考えの人も一定数いることから、中古スマホ市場はさらなる拡大が見込まれているという。総務省の有識者会議でも、中古端末の流通促進に前向きだ。
ゲオモバイル運営２課マネージャーの杉村秀樹氏によると、最も売れているのはおよそ４年前に発売されたiPhone6sと、３年前に発売されたiPhone7だという。「スペック的にも最新機種とそんなに差がないこともあって、人気が高いのだと思う」と話す。
三上氏は「一時的に中古市場は非常に賑やかになるかもしれないが、新品が売れなくなり、みんなが長く使うようになれば、それだけ供給する中古もなくなる。そういう心配もある」と指摘。小野氏は「大手キャリアは困るだろうが、どれだけ安全な中古端末が出てくるのかということも懸念材料だ。業界で統一基準を決めて、どのくらいの傷なら"新品同様"、あるいは"美品"と呼ぶかなど、ランクを決めている。また、個人情報保護対策としても、中の情報を消去することなどの基準を決め、販売店に徹底するようにしている」と解説した。
宇佐美氏は「個人的にはこれから大きい変化が来ると思う。携帯端末の重要な部品の技術進化はほぼ止まり、設備投資のサイクルから、新規参入しやすい状況になってきた。日本でも安い端末を作るベンチャー出てくると思う」と期待を寄せていた。一方、自分が使用していたスマートフォンを売却することについて、作家の乙武洋匡氏は「高度な技術を持った人が、とくに僕なんか復元されると困るデータがあるから…（笑）」と苦笑していた。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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