(ファンを集めての決起集会で葛西戦への思いを語った藤田。ファンが被っているのは入場コスチュームで公式グッズ、通称フジタブクロ

 フリー選手としてさまざまなインディー団体で活躍、“場末のMr.プロレス”の異名も持つ藤田ミノルが、FREEDOMSのシングル王座に挑戦する。

 舞台は5月2日の後楽園ホール大会。現チャンピオンは“デスマッチのカリスマ”葛西純だ。藤田と葛西は同じ大日本プロレスでデビュー。藤田が1年先輩となる。昨年、大日本プロレスとFREEDOMSのデスマッチ2冠を達成したのが竹田誠志。葛西はその竹田からベルトを奪い返している。2人の狂気に満ちた闘いぶりは世界中のファンを魅了しており、そのことは挑戦の名乗りをあげた藤田も認めるところ。

「FREEDOMSが旗揚げして10年。それは葛西純と竹田誠志の10年そのもの」

 そういう状況だからこそ、藤田は団体の風景を変えるべくベルトに挑む。FREEDOMSでの藤田は葛西と同じユニット・UNCHAINで活動してきたが、そこでの人気と安定に危機感を覚えるようにもなったという。

「前回ベルトに挑戦したのが2年前。それから特に何もなかった」と藤田。このところ常に「刺激を求めている」と言う葛西を引き合いに出して「一番、刺激がないのは自分でしたね。やっぱり変化を恐れてちゃいけない」とも。

 人気があって安定していても、藤田は団体に所属しないフリーのレスラーだ。フリーにとって安定は停滞につながり、停滞は後退とイコールになる。動き続け、前進し続けなければ食いっぱぐれる可能性があるのがフリー。少なくとも、その意識だけは持つ必要がある。藤田は結婚して2人の子供を授かり、福岡で生活していたことがある。「パチンコ屋でバイトしながら」専門学校に通い、試合の時は休みを取っていた。だが今は関東に拠点を戻した。離婚し、子供たちとも離れて暮らす生活。それはひたすらプロレスにのめり込む生活でもある。

 葛西と藤田は5年前にも「裸足画鋲デスマッチ」で対戦している(葛西の勝利)。公式戦で闘うのはそれ以来だそうだ。「前回は福岡にいたんですが、今はプロレスのことだけ考えてやってるんで。デスマッチの実力で葛西純に対抗しても、勝てるわけがない。でもこっちはこっちでいろんな団体でいろんな経験をしてきた。それを試合に落とし込めれば」。

 ガンバレ☆プロレス後楽園大会のメインで勝利し、プロレスリングBASARAでは6人タッグのベルトを巻いた。女子選手相手に名勝負を残し、レスラー間のツイッターでのやり取りを新イベント(興行)開催にまでもっていく発想&行動力も発揮している。今回のタイトル挑戦について「人生を投影する闘いにしたい」と藤田は言う。

「僕と葛西純は20年来の関係性があって。それを言葉で説明すると薄っぺらくなってしまう。その関係性、表面的なものじゃない部分まで試合に(投影)できればなと。いや、どうすればいいのかは分からないですけど」

 試合形式は「カミソリ十字架ボード+αデスマッチ」に決まった。藤田の提案によるものだが、これは葛西がプロレス大賞ベストバウトを受賞した伊東竜二戦と同じ形式。葛西への心理的揺さぶりもあるだろうし、伝説の死闘と比較されても構わないという覚悟の表明でもあるはずだ。4月24日にはプロレスショップ「チャンピオン」でファン参加の決起集会を開催している藤田。リング以外では饒舌なタイプではないのだが、ファンにこう語りかけている。

「フリーの選手が団体最高峰のベルトに挑戦する機会はそんなに多くない。後押しをお願いしたいなと。みなさんに媚びるのは好きじゃないですが、今回はなんとか(笑)。何かしらの私関連のシャツを着て後楽園に来てくれれば力になります。写真を撮りつつ声援を飛ばしてもらえたら、100%の力が120%にもなりますので。インディー団体では後楽園はビッグマッチ。よそ(の団体)には負けない試合にします。まあ僕はどこ行ってもよそ者ですが(笑)。みなさんが応援しても構わないような選手でい続けますので」

 葛西純と出会ってからの20年、プロレス界での20年をすべてリングに持ち込んで藤田は闘う。それはフリーのプロレスラーとして前進し続けるため、ファンが「応援しても構わない」選手であり続けるための闘いだ。「カミソリ十字架ボード+αデスマッチ」では、人生の重みもファンの声援も「+α」の武器になるだろう。

文・橋本宗洋