性の問題が社会の中で気軽に語られるようになる一方、タブー視されがちな障害者の性。
去年、AbemaTV「AbemaPrime」では自力での射精すらできず「ただ食べて寝るだけの生き物になったみたい」と、もがき苦しむ重度の身体障害者の男性を取材し、女性スタッフによる無料の射精介助などを紹介した。作家の乙武洋匡氏が「僕も自分で自慰行為ができないので、気づくと数週間に一度は夢精をしていた。無言で母がきっと洗濯をしてくれていた…やっぱり地獄の苦しみだった」と告白する場面もみられた。
放送後、番組には女性障害者の性についても知りたいという声が多数寄せられた。スタッフが取材を続けるうちに、脳性まひの当事者で手足に障害を持つまゆみさん(36)と出会った。
■性行為が行えず、"しょせん脳性まひやな"…
「もしかしたら被害妄想なのかもしれないけれど、私が恋愛の話をすると、ちょっと空気が変わるというか、"お前が言うなよ"っていう雰囲気を感じざるを得なかった。イメージとして、私が恋愛をするということが想像できなかったのかもしれない」。
学生時代、友人との会話の中でそんな経験もしたというまゆみさんに初めて彼氏ができたのは27歳の時。相手も身体障害者だったという。「挿入となったときにやっぱりうまくいかなかった」。キスやハグで心は満たされても、挿入することは叶わず、肉体的には満たされない日々。体が不自由な者同士のセックスの困難さを痛感し、結局男性とは別れてしまった。
そして今から4年前、自分を受け入れてくれる男性と知り合った。しかし性行為中、男性が発した言葉に深く傷つくことになる。「イチャイチャしていて、じゃあちょっと挿入行為してみようかっていうようなことになった時、思いどおりにできなかった。私が体勢を取れなくて、"しょせん脳性まひやな"と言われた」。以来、なかなか恋愛に踏み込めなくなった。
「これからそういう段階を経て、交際関係になるだろうと思っていた男性だったので、その言葉をどういうふうに消化していけばいいのか分かず、ちょっとしたパニック状態になった。思春期の頃の経験で、免疫はついたつもりではいたけど、その時ばかりはちょっと堪えた。時間が解決してくれたが、傷が癒えるのには時間がかかった。今考えると、相手が理解しているだろうと安心していたので、なおさらショックだった部分もある。もしかしたら想像以上に困難だと思ったのかもしれない」。
■男性介護職員に向けられることも
そんな女性たちのやり場のない思いは、福祉の現場に向けられることもあるという。NPO法人「自立支援センターむく」の木村利信理事は、男性スタッフが女性障害者に性の介助を求められる現場を目にしてきた。日本では同性による介護が一般的だが、人手不足などで異性介護にならざるを得ない状況も日常的に生じる。そんな時、信頼関係の中で、体に触れて欲しいという要望が出るのだという。「胸を触って欲しいとか、性器を触って欲しいとなると、介助から一歩逸脱しているのかなと思う。それでも、そういうことを望んでいる方も非常に多いことは確かだし、介護職の男性職員は必ず葛藤を感じている。性介助が絶対に必要だと思う」。
木村氏は現在、TENGAと共同で手に障害がある人でも使いやすいアダルトグッズの制作を行っている。既存の製品にテープを取り付け、握力がない人でも利用できるようにしたものを開発。さらに女性が自慰行為をするためのサポートグッズはゴム状のアタッチメントをつけ、持ちやすく使いやすいものへと改良した。製品はインターネットでも販売している。
今は自分で性的欲求を満たしているまゆみさん。体調によって麻痺のある手が動かしづらい時にはローターを使う。ただ、ベッドに移るだけでも疲れてしまうため、行為は車いすの上だ。「自分の体の特性上、足がそんなに開かないので、ちょっと不完全燃焼で終わる」。股関節が固く、意図せず足が閉じてしまうため、満足感を得ることが難しいという。
それでも都内で1人暮らしをし、食事やトイレも一人で行えることから、「はっきり言って自分は恵まれていると思う。これまで自慰行為ができない人を間近で見てきたので、日常の中で性的欲求が解消されることが当たり前にならなければいけないと思っている」と話し、女性障害者への性介助の必要性を訴える。
■「性介助と性風俗店は違う」
性的な仕事への興味から、障害者専用デリヘルで働いた経験もあるまゆみさんは、性介助と性風俗店の違いを強調する。
「風俗を否定しているわけではないし、絶対必要なものだと思っている。でも風俗はあくまでも娯楽、エンタメ。お金を払って非日常を演出するものだと思う。そうではなく、日常の自慰行為のベースが確立されてはじめて遊びにつながる。そこを理解してほしい。私も風俗をやるまでは風俗があれば解決すると思っていたが、そうではなかった。やはり家の中でできる性介助の支援を受けたいし、そういうサービスが整備されれば良いと思うようになった。ここが一般の人たちには理解されないし、浸透しないので、風俗という非日常のカテゴリーの中で解釈されてしまう。辻褄が合わないと思われるかもしれないが、私は風俗に行くのは死ぬほど恥ずかしい(笑)」。
射精介助も含めた障害者の性の問題に取り組む一般社団法人ホワイトハンズ代表の坂爪真吾氏は、障害者専用デリヘルについて「数自体は多くはないが、20年くらい前から存在はしている」と話す。その一方、女性障害者向けの性サービスは、数少ない男性用障害者専用デリヘル等と比べてもさらに少ないのだという。「男性は射精という明確なゴールがあるが、女性はゴールがわかりづらい。そのへんの曖昧さも背景にはあると思う。欲求はみなさんあると思うが、どうやって発散すればいいのか分からなず、言える相手や場所がないことが問題だ。もっと声をあげやすい環境や社会を作っていく。まずはそこからだと思うし、風俗は娯楽、エンタメという分野でもある。介護は健康、権利を守るという視点なので、文脈の違いはあると思う。そこを分けた上で、両方必要で色々な選択肢を増やす必要もあると思う」。
■カンニング竹山「健常者だろうが障害者だろうが、頭の中は一緒」
編集者・ライターの速水健朗氏は「1960年代に男女平等を実現するために教育制度を変えたスウェーデンでは、女性にも男性と同じように性欲があるということを教科書に載せるところから始めた。黙っていても変わっていく部分もあるし、民間のニーズを吸い上げる資本主義の論理の中から変わっていく部分もあるが、やはり教育制度から変えていくというもの大事だと思う」と指摘。
介護福祉士の資格を持つモデルの松下サニーは「女性が風俗店を利用するのが当たり前にならないのは、やはり性の問題を口に出しにくいからだと思う。私も異性介護をした時に"触れてほしい"と言われたこともある。でも申し訳ないが、やはりできない。そこを介護士に求めるのは違うと思うので、そこは政府がお金を出すなりしていく必要があると思う」と訴えた。
まゆみさんは「性はいかがわしいことでも、汚いことでも、ダメなことでもないという意識改革が必要。それができれば現場の考えも変わってくる。介護士が性に触れるようなことはするべきではない、分けて考えないといけないという意見もあるが、他の身体介護と同じ枠組みで性介助もできないかとも思う。なぜかというと、日常生活の中で、いきなり知らない人が性の場面だけ入ってくるのがダメな人もいる。私はできる、私はできないと言える環境を作れれば良いと思う」と話した。
カンニング竹山は「健常者だろうが障害者だろうが、頭の中は一緒だし、性欲があるのは当たり前。でも、女性は男性よりも出て来づらいと思う。そんな中でまゆみさんは代表して出てくれた。健常者にとっても考える機会を与えてくれることになったと思う。ありがとうと言いたい。真剣に考えないといけないことではあるけれど、できるだけ朗らかに話して、問題を解決しないといけないと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)