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(4月13日の新木場大会。メイン後に挑戦表明した中島。緊張からか決意の重さからか声を震わせていた)

東京女子プロレスのビッグマッチ、5.3後楽園ホール大会のメインイベントは、山下実優vs中島翔子のTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座戦だ。王者・山下は団体の1期生で、唯一プロレスを続けて2度の戴冠。最多防衛記録を持つ絶対王者である。対する中島は山下のすぐ下の“1.5期”的なポジション。団体最古参の2人がタイトルを争うことになる。

2人は団体初期、ライブハウスにマットを敷いて闘う「プレ旗揚げ戦」から試合を始め、DDT両国大会(2013年)のリングデビュー戦ではタッグを組んでいる。2016年1月4日、東京女子プロレス初の後楽園大会で初代王座を争ったのも山下と中島だった(山下が勝利)。

翌年の1.4では優宇が保持していたベルトに中島が挑戦。2年連続でのメイン登場だったが、タイトル獲得はならず。それ以降、中島はシングル王座に挑戦していない。山下とのシングルマッチも初代王座決定戦以来となる。

タッグ王座戴冠はあったものの、このところシングル戦線では一歩引いていた感があった中島。しかし5.3後楽園を前に、山下に対戦を要求した。山下は3.31福岡大会で坂崎ユカを退け、その後のアメリカ遠征ではアウェーでV10達成とともにSHINE王座を獲得。キャリア最高潮の状態にある。そういう山下だから、中島は挑戦しようと決意したのだろう。

「旗揚げメンバーの山下実優、坂崎ユカ、中島翔子で東京女子プロレスを長い間引っ張ってきたと思ってたんですけど、いつからか私は引っ張られる側になってたんじゃないかと思うようになって。去年の8月、3人でアメリカに行ったけど、私だけ結果を何も残せなかったし。その時にチカラプロ(出場した団体)の代表に“山下はキックが得意で、坂崎はハイフライヤー。君は何が得意なの?”って聞かれて。私、答えられなかったんですよ」

格闘技のベースや華麗な技、飛び抜けた能力がない自分を「怪獣でいうとアンギラス」だと中島は言う。山下はゴジラ、坂崎はモスラ。しかし「私はアンギラスがゴジラに勝つところが見たいんです」。

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(板橋大会での前哨戦も激しい攻防。山下の蹴りの迫力が目立った)

山下はアメリカでベルトを獲って帰ってきた。坂崎はケニー・オメガの誘いを受け、アメリカの新団体AEWの旗揚げ戦に参戦する。一方、中島には2度目のアメリカ遠征の機会が訪れていない。

「私だけ海を越えられないんですよ。嫌じゃないですか。悔しいに決まってるんですよ」

だから結果を出すしかない。蹴れなくても飛べなくても、勝ってベルトを巻けばいい。中島はそう考えたのだ。悔しさを晴らすには、それしかない。

「この時を待っていた」という中島ファン、東京女子ファンは多いのではないか。自分のことを取り立てて得意なものがないと思っている中島だが、実は「プロレスが得意」なのだ。シングルマッチもタッグマッチも、シリアスもコミカルもなんでもできる。後輩と闘えば、その長所をうまく引き出してみせる。ただ、なんでもできるタイプは“器用貧乏”や“便利屋”になってしまう危険性もある。楽しそうではあるが自己主張をしない中島は“番付”を下げているように見えた。

昨年12月、1.4後楽園での山下への挑戦権をかけたバトルロイヤルでは、丸め込みとはいえ伊藤麻希から3カウントを奪われた。実力上位の中島を下した伊藤は、その勢いで挑戦権を獲得している。その1.4以来となるビッグマッチで、中島はようやくトップ獲りへの野望を口にした。以前、「やっぱりエースは山下なんですよ。私はエースになりたいとは思わない。でもベルトはほしいんです」と語ったことがある中島。常に自己主張して団体の中心に取るタイプではない。

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(現在、2冠を保持する山下。5.6札幌大会ではSHINE王座の防衛戦を行なう)

だから余計にファンはヤキモキしていたはずだ。自己主張しなくていいのか。このままトップ戦線から離れて生きていくのか。新人が次々とデビューし、選手層が厚くなっていく東京女子の中で“そこそこ”の位置に埋もれてしまうのか。現状をすべてひっくり返すべく、中島は動いた。今なら、初代王座決定戦の時とは違う闘いができるという自負もある。身長147cmの中島は“全長1.47mの大怪獣”を名乗る。蹴れなくても飛べなくても小さくても勝てるのがプロレスだ。

山下も中島の力を認めているだけに、前哨戦から手を抜かなかった。4.29板橋大会。6人タッグで対戦すると中島の必殺技であるノーザンライト・スープレックスを切り返し、容赦のない攻撃を叩き込む。最後はバックスピンキックで中島をKO、レフェリーストップで試合を制した。

「強さを分かってるからこそ、今日の中島は甘いと思いましたね。気持ちだけじゃ勝てないんですよ。それが現実だから」(山下)

中島が自己主張していなかった期間に、山下はベルトを取り戻し、防衛を重ねながら風格を増して団体を引っ張ってきた。誰よりもプレッシャーと闘い、それに打ち勝ってきたからこそ、今の独走状態がある。まさに現実、現状を叩きつけるような前哨戦だった。苦楽を共にしてきたプレ旗揚げメンバー同士、3年4ヶ月ぶりのシングル対決。団体が大きくなり続けている今だからこそ、闘う意味も重い。前哨戦の中島は、自分が持っていない武器=蹴りで負けた。本番では自分が得意なもの=プロレスで上回るしかない。

文・橋本宗洋

写真:(C)DDTプロレスリング

(C)AbemaTV

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