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2016年にスタートしたキックボクシングイベント「KNOCK OUT」が、新体制で再出発することになった。

これまでは小野寺力プロデューサーが頭指揮をとってきたが、4月大会で退任。今後はクロスポイント会長でREBELSの代表でもある山口元気氏がプロデューサーとなる。その新体制発表会見が、5月20日に開催された。KNOCK OUTは新日本プロレスと同じくブシロードがバックアップ。会見には山口プロデューサー、運営会社キックスロードの原田克彦社長とともに、ブシロード創設者の木谷高明オーナーも出席。

「キックボクシングの上位概念」を目指し、大田区総合体育館や両国国技館など大会場で大会を開催してきたKNOCK OUT。K-1とは違うヒジ打ち、首相撲を認めた“純キックボクシング”のメジャーイベントとして、各団体から多くの強豪選手が出場してきた。那須川天心も、KNOCK OUTでムエタイ王者に勝利したことで大きく株を上げている。

各団体からトップ選手が参戦して夢の対決、豪華カードを実現させるのが“メジャー”たる所以だったが、これからは選手の育成に力を入れ、トライアウト企画も実施していくという。山口氏のプロデューサー就任も、育成手腕を評価されてのこと。今後はREBELSと連動し、アマチュアからプロ、後楽園ホール規模からビッグマッチへというピラミッド構造を構築していきたいとするKNOCK OUT。新体制初のイベントとなる8月18日の大田区総合体育館大会では、スーパーバンタム級のワンデートーナメントを実施。4名参加で、日本屈指の強豪である江幡塁、小笠原瑛作もエントリーしている。

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さらに日菜太vsジョムトーン・チューワッタナの日タイトップ選手対決も決定。この試合はREBELSルール、つまりヒジなしで行われる。会見に出席した日菜太は、ルールが違っても「大会名どおりノックアウトすればいい」とコメント。ジム会長、REBELS代表と同時進行で重責を担うことになった山口氏は「自分がやらないとKNOCK OUTが続かないのなら、やるしかない」と決意を語った。

このKNOCK OUT新体制は、単純なプロデューサー職の引継ぎというわけではない。木谷氏によれば、ここまでのKNOCK OUTは「そこそこ赤字」だという。「まだまだあきらめない」としているものの、経営・運営の立て直しは急務と言っていい。各団体から強豪選手が参戦してきたKNOCK OUTだが、それは裏を返せば常に“選手を借りている”状態であり“自前”の選手がいなかった。それではマッチメイクの流れが作りにくく、またファイトマネーもかさんでいく。そういった要素も含め、育成に力を入れる必要があるのだ。

旗揚げ当初に比べ「テンションが10から3くらいに落ちている」とも木谷氏は言う。テンションとは、大会にまつわる熱気、注目度、選手や関係者の意気込みのことだろう。大会場、ファイトマネー、メディア露出などの面で、KNOCK OUTは立ち技格闘技界でK-1に匹敵しうるイベントになると思われていた。しかし現在、K-1だけでなく那須川をエースにRISEがビッグマッチを連発。海外ではONE Championshipが立ち技に力を入れており、日本人選手とも次々に契約している。選手にとっては選択肢が増えた状況で、KNOCK OUTもその中の一つになった。それが「10から3」だ。「(今のKNOCK OUTは)目指すべき頂点ではなくなっている。それを一番高い山にしていきたい」(木谷氏)。

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また木谷氏は、2年半キック界に関わってきた印象として「凄いマニアとにわかしかいなくて、中間があまりいない」とコメントしている。今後は中間層を増やし「一見さんからライトユーザー、中間層、マニアになっていくようにしたい。裾野を広くして、だんだん上級者になっていくように」するのが課題だ。

かつて「すべてのジャンルはマニアが潰す」という発言も話題を呼んだ木谷氏。といってマニアの存在を否定しているわけではなく、新規ファンにとって敷居が高いジャンルではいけないという姿勢は当然のもの。マニアだけでなく、また新規だけでもなく、中間層も含めてピラミッド型の“ファンの層”を作っていく。これはKNOCK OUT旗揚げ当初からのテーマでもある。

キック界はただでさえ団体が多い。キックの歴史は離合集散の歴史だ。そんな中でKNOCK OUTは「上位概念」としてビジネス、イメージの面でも業界をリードしていくことが期待される。そのために、つまり「結果、ただ団体が増えただけ」にしないためにも、マーケットの開拓が重要なのだ。またREBELS=ヒジなしルール導入によって、競技としての価値観がブレないようにすることも求められる。

新日本プロレスをブレイクへの軌道に乗せたブシロード体制がキック界でどう生き、どう変えていくか。課題が多い中での新体制出発だけに、より注目する必要もあるだろう。

文・橋本宗洋

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