国民民主党による「動画政党」宣言、日本共産党のTikTok開設、そして自民党による「2019」キャンペーンと、インターネット、とりわけSNSを活用した広報宣伝活動が様々な形で試みられている。参院選を夏に控える中、ジャーナリストの堀潤氏は、「1930年代の再来だと感じている」と話す。
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当時の日本は重工業を中心とした近代国家として欧米列強に伍していくアジアの一等国なんだ、それでいて深い文化に支えられた国家なんだと世界に発信しようとしていたわけです。そんな、国の生き残りをかけた時代に成功させようとしたのが、幻となった1940年の東京オリンピックでした。
そして、そこに駆り出されていたのが、戦後の日本のジャーナリズムを牽引することになる写真家たちでした。フォトジャーナリズムというものが現れた1933年は、まさにナチス・ドイツが政権を取った年でした。彼らが外国人ジャーナリストたちを国外に追放する中、名取洋之助も日本に帰国、「報道写真」というものを開花させていきました。
1938年には内閣情報部が「映画を宣伝戦の機関銃とするならば、写真は短刀よく人の心に直入する銃剣でもあり、何十何萬と印刷されて撒布される毒瓦斯」であると言っている。土門拳さんも1940年、「僕たちは、いわばカメラを持った憂国の志士として立つのである。その報道写真家としての技能を国家へ奉仕せしめんとするのである」と書いている。
そういう過去の歴史を知っていると、政治とアートの親和性の高さや、情報の危うさに対して警戒もできますが、知らず知らずのうちに"かっこいいよね、美しいよね"と感性を刺激し、高揚感を与えていくもの。
そこで昨今の政治の動きを見てみると、国民民主党は「動画政党」を目指すとしてYouTubeに様々な動画をアップしていますし、日本共産党がTikTokのアカウントを開設したことも話題になりました。若い世代の社会運動の現場でも、世界が認めるトップクリエイターがバックヤードでサポートをしていました。
ただ、意味合いがやや違うのは、政権与党。野党などのバックヤードで義憤にかられたクリエイターたちが若者やお年寄りたちと一緒にボランティアでコツコツやっているのとはわけが違います。莫大な政党助成金を背景に、圧倒的な物量でやってくる。
改元に合わせて自民党が打ち出してきた、アニメ的なデザイン、写真、映像、それらをSNSで拡散させるキャンペーンを見ると、まさに政治とアート、スポーツなどが総動員された過去を思いだしてしまいます。イラストを手がけた天野喜孝さんは、インタビューで「オファーを聞いたときは、ビックリしましたよね。ただ実際にこうやって仕事をしてみると、やはり政治とアートは繋がっているのかなと、客観的にではなく、素朴に思いました」と答えています。なにか無防備さも感じます。
選挙の前になると、政党による、かっこいい、優しい写真がSNS上に溢れるようになりました。ちゃんと政策訴えてよ、と思う。でも後ろを振り返ると、「いいよね」という声が聞こえてくる。六本木の街を行く人々が、「へ~」とつぶやきながら写真に撮って去っていくのを見ると、政治家は"よく知っている"と思います。
自治体も同様です。ゆるキャラやピントはずれなイメージ戦略には税金を使ってほしくない。本来発信すべき情報にキラキラは要らないはずです。
東京オリンピック・パラリンピック、そして大阪万博などの国家的プロジェクト。さらに参院選、その結果によっては憲法改正の国民投票も行われるかもしれません。大阪維新の会が大阪都構想の住民投票のときには広報宣伝にかなりの額のお金を突っ込んだそうですが、公選法の縛りを受けない国民投票も、物量作戦になってしまう可能性が高いと思います。そこでは再び「政治とアート」の力が活用されるかもしれません。
そのときには政策を議論する上では役に立たない広告はやめて、場を設けてほしいと思います。そして、ポジティブ・ネガティブにかかわらず、自分の心が揺さぶられたときには、きっと何かが侵入してきているのではないか、そんな風に距離を取って、疑ってみることを忘れないでください。
■プロフィール
1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』(水曜レギュラー)などに出演中。
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