動画の時代と言われる中、ラジオ人気復活の立役者と言われるスマートフォンアプリ「radiko」など、音声メディアの逆襲が始まっている。
若い人たちも、「YouTubeよりラジオを聴く。見る"拘束時間"があまりとられないので」「ラジオは耳から入るので、どんなものなのかっていうのもいろいろ膨らんだりする」「人の声がダイレクトに聴けるかなっていうのがあって、耳に直接入ってくる感じがすごく好きだ」と、音声メディアのメリットに注目しはじめているようだ。
起業家やインフルエンサーが音声で情報発信する"声のブログ"として、ニュースを手軽に聞くことができるメディアとして、昨年1年間でユーザーを30倍に伸ばしたのが「Voicy」だ。運営するVoicy代表取締役の緒方憲太郎氏は「3年前に起業した時は、"今は動画の時代、VRの時代なのに、音声なんかやって、アホちゃうか?"と、それこそボロカスに言われた。でも、動画に比べて数十分の一のコストで、思った時に声で入れられるので、プロではない人たちも参加できる」と話す。
また、緒方氏は「言葉、声というのは身体性があると言われていて、人をそのまま表すことができる。個人が活躍する社会や人が寂しくなってくる社会の中で、心と心で繋がりあいやすい。これはラジオをやっている人なら分かると思う。実は音声が最もデジタルロスが少ないと言われていて、そのままの情報量で届く。緊張感やその人の健康状態まで分かる」と、音声の優位性について説明した。
実際、音声でやりとりをするタイプの新しいSNSで交際に至った男女もいる。60秒以内の音声で発信するSNS「PitPa」ユーザーのコーネルさんは、交際相手のかのなさんについて「声には感情というか、色がある。最初、声の感じが好みだなと感じた」、かのなさんも「はじめての投稿にコメントしてくれて、なんか優しそうだなと思って。声もすごくいい印象だったので、会ってみたいなと思った。Twitterのような文字とは温かみが全然違って、ほっこりするなと思う。感情がより伝わりやすいというか、テキストで何回もやりとりをするよりは、音声で1回やりとりをした方が近づくなと思う」と話した。
また、動画全盛の今、むしろ視聴者の目に疲れが生じているとの見方もある。
ミレニアル世代をターゲットに動画表現を追求する「ONE MEDIA」を運営するワンメディア代表取締役の明石ガクト氏は「正直それはあると思うし、動画のトレンドもちょっと変わってきていて、ASMRといって、物を食べるときの音も含めて楽しめるようなチャンネルや、かつてのような原色バリバリのYouTuberの世界観ではなく、一眼レフで撮ったような、ちょっとボケ味があってほっこりしたチャンネルが人気になってきている。そういう揺り戻しは常にあると思っているし、その世間のモードと音声が合致しているということは認めざるを得ない」と分析しつつ、「ラジオ番組で強くエンゲージされたファンが実際に観に来るように、声をきっかけに交際したカップルも結局は会って話をするし、最終的には姿を見たくなる。だから最終的にはビジュアルじゃんと思う」と冗談交じりに指摘する。
「僕はプロフィール写真が若干強面というか、宗教家めいているので(笑)、講演会などに出させてもらうと"実際は笑顔がチャーミングな人なんですね"と言われる。いわば最も誤解を生みやすいのが写真とテキストだし、声だけで全て伝わるのかというとそうではない。また、シャープにその人を感じるという意味で音声メディアはいいのかもしれないが、実際は"ながら"で消費されるわけだし、聞くロケーションも限られる。やはりテレビやスマートフォンで動画を見る機会の方が圧倒的に多いし、そういう部分が映像や動画との違いだと思う」。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「音声か映像かではなく、五感にピンとくることが大事ではないか。インターネットはテキストでスタートしていて、Twitterのように炎上もしやすい。それに疲れてインスタグラムのような画像に流れていった。それと同じように今度は映像や音声がきている。映像でも最近は完璧に編集しきったNHKスペシャルみたいなものよりも、アメリカのVICEがやっているような、レポーターとカメラマンが一緒に走り回って撮るような生々しい作品の方が好まれる感覚もある。VRが入り始めたのもそこだと思うそこに生身の人間がいる感覚が求められているので、Voicyのような音声メディアや最近の新しい動画のスタイルが受け入れられているんじゃないかと思う」と話す。
緒方氏は「使い分けながら、生活をより豊かにするということだと思う。音声は生理的にセクシーですごく強いので、あまり合わないものは聞けない一方、合った人のものは長く聞けて、好きになる。一方、動画の方がわかりやすいとか、多くの人に伝わるとか、そういうところは動画を使った方がいいと思っている。また、今後はコンテンツとしての進化が必要だと思う。動画であれば映画があってテレビがあってYouTubeがあってTikTokがある。文字もブログがあってTwitterがある。音声だけがラジオのフォーマットなので、変化の可能性がある。僕たちのところにもユーザーデータが溜まっているので、何分くらいで離脱するとか、出だしはどういうコンテンツがいいか、といったことが結構分かってきている」と今後の展開を示唆した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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