東京・六本木の街がアートに染まる夜、「六本木アートナイト」が25日から26日にかけて開催された。2009年の始まりから今年で10回目を迎え、都会のアートイベントとしてお馴染みのものになっている。
中でも大勢の鑑賞者を集めたパフォーマンスがあった。開始前にも関わらず多くの人だかりができ、中央には巨大ドローンのようなものが見える。
「みなさま、東京減点女子医大へようこそ。ただいまより、私たちが作製したエリート男性ドクター第1号を発送いたします」
白衣姿の女性2人が登場し挨拶をすると、手術着の女性たちが男性を透明な箱に閉じ込める。そして、その箱の上に巨大なドローンを設置。
続いて、「裏口入学よろしくお願いしまーす!」と新聞のようなものを配り始めたが、いったいこのパフォーマンスは何を表現しているのか。手がけたのはアーティストのスプツニ子!と西澤知美。
スプツニ子!は、マサチューセッツ工科大学のメディアラボの助教を務めたこともある鬼才で、現在は東京大学生産技術研究所RCA-IISラボ特任准教授を務める。「VOGUE JAPAN ウーマン・オブ・ザ・イヤー」「今後10年に最も影響を与えるデザイナー20人」(伊Rolling Stone誌)、「第14回文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品」受賞など、数々の受賞歴を持つ日本を代表するアーティストだ。
理系やテクノロジーの分野に女性が少ないことや、女性に対する理解不足を問題視するスプツニ子!。男性しか足跡を残していない月面に女性の足跡を残すことを目的とした「ハイヒール付き月面ローバー」や、生理を疑似体験できる「生理マシーン」などをテーマに、映像作品としてまとめている。
「東京減点女子医大」と題された今回の作品も、女性が直面した問題が背景になっているという。
「去年の8月に、日本の東京医大をはじめとして様々な医大が一律に女性を減点していたというスキャンダルが世界的にもニュースになって、それをきっかけにしたプロジェクト」(スプツニ子!)
去年8月、東京医大が女子受験者の1次試験の得点を一律に減らすなどの調整を行っていた事実が発覚。医師になった後に出産や結婚で辞める人を少なくするため、女子学生の入学者数を抑えていた。
「(東京減点女子医大は)架空の大学なんですが、日本の伝統的な古い体質の医大・医療業界から排他されてしまった女性たちによって作られた大学。日本の医療業界が大好きな『男性の姿・形をしたドクター』。女子学生たちが手術して“エリート男性ドクター”を作って、彼らをドローンに乗せて日本各地の病院に送り届ける。『そんなに欲しいならくれてやるよ』という形で日本中に届ける、そういったブラックユーモア的な大学です」(スプツニ子!)
女性の憤りをアートへと昇華させる急先鋒的存在のスプツニ子!だが、世間の「フェミニスト」という言葉に対するイメージには異論があるという。
「フェミニストという言葉は日本だと実は誤解されてきた歴史があって、例えば『女性がもっと強くなるべき』とか、広辞苑だと『女権拡張論者』『女に甘い男』と書いてある。でもそんなことはなくて、フェミニストって女性でも男性でもどんな属性でも当たり前に『みんな同じような権利・可能性を持って』という人だから、女性主義というよりは『人間主義』。男性でも女性でも関係なくチャンスをください、誰でもみんな機会があるんだよっていうのがフェミニストだと思っています」(スプツニ子!)
スプツニ子!と面識があるというジーンクエスト代表取締役社長の高橋祥子氏は、こうしたアートでの表現に「女子医大の件で非常にお怒りになっていた。それを社会に発信するアートとして形にしたのはすごいことだと思う」と率直に述べる。
また、女性への理解不足は感じたことがあるといい、「例えば『リケジョ(理系女子の略)』という理系=男性を前提にしている言葉だったり、女性起業家とかもわざわざ“女性”と付けなくていいのにとはよく思う」と指摘。スプツニ子!が語ったフェミニストについては、「性別だけでなく国や地域などに関わらず、みんなに平等に可能性があるということが重要だと思う。女性が女性の権利を主張するのはひとつで、他にも女性自身が輝いて働くことで、自然と次の世代に『こうなりたい』という思いが広がると思う」との考えを述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)













