警視庁は3日、農林水産省の元事務次官・熊沢英昭容疑者を殺人の疑いで送検した。同居する長男・英一郎さんの胸などを包丁で複数回刺し、殺害した疑いが持たれている。
犯行の動機について熊沢容疑者は「川崎の事件が頭をよぎり、周囲に迷惑がかかると思った」と供述。神奈川県川崎市で小学生ら20人が殺傷された事件が、なぜ熊沢容疑者の脳裏をよぎったのか。
殺害された英一郎さんは、東大への進学実績が高い都内の中高一貫校に進学するが、中学2年生でいじめにあい、この頃から家庭内で暴力を振るうようになったという。英一郎さんのものとみられるTwitterにも「中2の時、初めて愚母を殴り倒した時の快感は今でも覚えている」と投稿されている。
その後、日本大学に進学し、流通経済大学へと転籍したという英一郎さん。供述によると、英一郎さんは十数年間、都内で一人暮らしをしていたというが、その間、熊沢容疑者が部屋を訪れ片付けなどを行っていたという。
そうした中、5月下旬に英一郎さんから「戻りたい」と1本の連絡が。英一郎さんは事件の10日ほど前に、両親が住む自宅に戻ってきた。しかし、別居中も戻ってきてからも“ひきこもりがち”だったという。
熊沢容疑者は警視庁の取り調べに「(長男が)家に戻ってから再び家庭内暴力が始まった」「身の危険を感じていた」と話している。実際に熊沢容疑者の体には、日常的に暴力を受けていたとみられるあざがあったということだが、警察に相談はしていなかった。
そして事件当日、英一郎さんは近くの小学校が行っていた運動会について「小学校の音がうるさい。ぶっ殺す」と発言したという。この時、熊沢容疑者の脳裏に浮かんだのが川崎市で小学生ら20人が殺傷された事件だった。
その後事件は起き、室内には熊沢容疑者が記した「長男を殺す」という書き置きが残されていたということだ。
朝日新聞によると、熊沢容疑者から練馬区にひきこもりや家庭内暴力に関する相談はなかったというが、練馬の地域家族会「灯火」の共同代表でひきこもりピアサポーターの大橋史信氏は「とにかく家族会など第三者に相談してほしい。親が孤立から解放されることがまず大事。世間体を気にしたり恥ずかしさを抱えている」「『変わりたくない、面倒くさい』という思いを持つ親もいる。子どもはそれが嫌で向き合ってほしいと思っている」と見解。また、第三者に相談する時は「あんたのために行っている」と言うのはNGで、「勉強のために行っている」という伝え方がいいという。
内閣府によると、40~64歳の中高年で“ひきこもり状態”にいる人は全国で61万人。15~39歳も合わせれば100万人を超えるともみられている。BuzzFeed Japan記者の神庭亮介氏は「よくある問題だと思った方がいいと思う。介護などと同様、身近な問題で恥ずかしいことではないんだと。熊沢容疑者は元事務次官で行政のエキスパート。家庭内暴力などがあった時、どこに相談すればいいかわかっていたはず。それができなかったのは、ひきこもりを『恥』だと考え、世間の目を気にしてしまったのでは。ひきこもりが犯罪者予備軍や危険分子のようにみられてしまうと、なおさら家族は隠して言えなくなってしまう」との見方を示す。
特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会は1日、川崎市殺傷事件について声明文を出した。これには「ひきこもり状態にある人が、このような事件を引き起こすわけではない」「『ひきこもり』は家族が非難されることが多い。現実は家族や本人の受け皿がなく相談も困難」と、ひきこもりへの偏見を助長する懸念や本人が受け入れられる居場所を得る必要などが記されている。
神庭氏は「報じる側もそうだが、ひきこもりが犯罪者予備軍なんだというような見え方は変えていかないといけない。それが家族にとってもオープンに、相談しやすい環境づくりになると思う」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)











