(6月11日のDDT定例会見で独立を発表したイサミとDDTの高木社長)
プロレスリングBASARA(木高イサミ代表)がDDTから独立することになった。これまではDDT系列の一ブランドとして活動してきたが、新会社を設立。今年10月には事務所を構え、来年から完全独立という形になる。
「独立、起業はかねてからの希望でした」とイサミ。サイバーエージェント傘下のDDTから離れるだけに「豪華客船からボートで漕ぎ出す感覚」と決意を語った。しかし最大の財産である選手、スタッフが足並みを揃えての独立で、“笑いと熱血”の少年マンガ的世界観は変わらなそうだ。
DDTの高木三四郎社長も「(独立の希望は)もともと聞いていたので、本人がやりたいタイミングでやるのが一番」とコメント。またDDTとBASARAは差別化もあって一線を引いた活動をしてきたが、2020年からは交流も行なっていきたいという。
「面白いことやりたいですね」と言うイサミに、高木はさっそく対戦を打診。11月3日のビッグマッチ、DDT両国国技館でのシングルマッチだ。しかも高木は現在「いつでもどこでも挑戦権」を保持しており、現王者の遠藤哲哉に勝ってベルトを巻き、7.15大田区総合体育館大会では竹下幸之介の挑戦を退けて、チャンピオンとしてイサミと闘おうと目論んでいる。
(準決勝進出を決めた藤田。阿部戦を天王山と捉える嗅覚もさすがと言える)
イサミも大日本プロレスのデスマッチヘビー級王者であり、可能性としては“DDTvs大日本・王者対決”もありうるわけだ。
「さすがにそれは先を見すぎじゃないですか」と苦笑したイサミだったが、高木は「プロレス界に絶対はないから。それを君に教えたい、経営者として」。5ヶ月先のカードではあるが“大社長イズム伝承マッチ”として期待したい。
イサミが独立を決めた理由には、BASARAの充実ぶりがある。
「若い選手が頑張ってて、レギュラー参戦している方々(フリー選手)もそうなんですけど、理想の形ができつつある。そこで僕ができるのは、自分がもうワンステップ進むことだと」
最近のBASARAでは、中津良太がシングル王座・ユニオンMAXの最多防衛記録タイに並び新エースとして確立。その中津を元タッグパートナーの関根龍一が下して初戴冠というドラマもあった。
この動きに刺激されてか、恒例のシングルトーナメント「頂天~itadaki~」ではSAGATがベスト4に進んでいる。1回戦で関根に勝ってのものだけに値千金と言っていい。
(イサミは5.5大日本プロレスでデスマッチヘビー級王座を獲得し絶好調。初防衛戦を控えつつBASARAのトーナメントに臨んでいる)
もう一人、すでに準決勝進出を決めているのが藤田ミノルだ。キャリア22年のベテラン。フリーとしてさまざまなリングで存在感を発揮し、今年は葛西純とのデスマッチ王座戦も名勝負となった。
BASARAは藤田の主戦場の一つ。イサミと同じユニット「戦闘民族」にも所属している。トーナメント1回戦では、若く勢いのある阿部史典との闘いを「天王山だと思っていた」と藤田。その一戦をクリアして「BASARAもそんなニュースターいらないでしょう。飽和状態になっても困るんで、今年は僕がいきますよ」と優勝宣言してみせた。
またイサミも初戦突破、6.16王子大会での2回戦はツトム・オースギ(withバナナ千賀)との対戦に。ユニオンMAX王座戦でも激突した両者だけに、トーナメント屈指の好カードだ。
ベテランが若手に“フタ”をしてしまっては団体の未来は遠のく。しかし中津が新時代のBASARAを確立した今は、ベテランの活躍が“逆襲”としての意味を持つ。イサミが所属選手たちに「もっと自由にやっていいんだ」とハッパをかけていたのは、すでに過去のことだ。
ベテランから若手まで、いわゆる「やりすぎくらいがちょうどいい」自己主張を全員が繰り広げるのがBASARAのリング。独立を控え、今からその魅力を味わっておくことをお勧めしたい。
文・橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング