講談社の女性ファッション誌『ViVi』のウェブ版が掲載した、自民党との広告企画記事。同誌の公式ツイッターは「みんなはどんな世の中にしたい?自分の想いを #自民党2019 #メッセージTシャツプレゼント のハッシュタグ2つをつけてツイートすると、メッセージTシャツがもらえるよ!ViVi公式Twitter(@vivi_magazine )からDMにて当選連絡をするのでフォローをお忘れなく #PR 詳しくは」とツイートしている。
さまざまな議論を呼んだこの企画について、首都大学東京の木村草太教授(憲法学)は プレゼント企画である点に着目し、「”違法性はない”と断言できる段階ではないと思う」と話す。参院選前に物議を醸しているこの問題について、憲法学者の視点から特別に寄稿してもらった。
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あまり注目されてはいないが、この問題を議論する方は、プレゼントを贈るという行為の意味についてきちんと理解をしておく必要がある。公職選挙法は「買収」(お金やプレゼントの見返りに票を買うこと)だけでなく、選挙期間かどうかにかかわらず候補者あるいはその後援団体が「寄附」(お金やプレゼントを贈ること)することも禁止している(公職選挙法199条の2~199条の5)。
政治活動や選挙運動のための言論は、表現の自由として憲法上も手厚い保護を受けるので、それを法律で制約するには、よほどの重要な目的が必要だ。しかし、物やお金を寄付することは、表現の自由の範囲には含まれていないので、合理的な理由があれば制限が認められる。
では、なぜ、公職選挙法は寄付を禁止しているのか。物やお金を配ることが許されると、選挙にかかる費用が膨れ上がり、歯止めがかからなくなる。それを防ぐため、選挙区内で寄附をするのはお互いやめようよ、というこのルールが作られた。以前、選挙区内でうちわを配布した法務大臣がいた。このケースでは、起訴はされなかったものの、責任を取って大臣を辞任している。
では、今回のケースについて、どう考えるべきか。違法な寄付に当たるかどうかを検討するには、「Tシャツを贈る主体が誰なのか」がポイントになる。しかし、自民党も講談社も、そのお金の出所の情報を公開していない。そこで、資金提供者が誰であるか、場合を分けて考えてみよう。
まず、資金が、公職の候補者等から出されていたら、公職選挙法199条の2で禁じられた「候補者等による寄附」ということになってしまう。
次に、資金が政党から出ていたらどうだろうか。同法199条の5は、「後援団体」の寄附も禁じている。一般的に政党は、候補者支援だけを目的とする団体ではないので、「後援団体」に当たらないとされている。しかし、今回のプロジェクトは2019年限定のもののようだ。そうすると、自民党そのものは「後援団体」でないとしても、プロジェクトチームは、2019年参院選の候補者の「後援団体」とされる可能性が出てくる。相澤冬樹氏(元NHK記者・大阪日日新聞論説委員)の取材に対し、今回のプロジェクトの事務局は、責任者は自民党の選対委員長だと答えている。「後援団体」による寄付だとの疑念なきようにするには、選挙対策の部局とは切り離された、広報部などの名義にすべきだっただろう。
最後に、考えにくいことだが、講談社が全て自腹でやったと仮定してみよう。そうなると、講談社の自民党PRチームが「後援団体」とみなされる可能性もある。あるいは、講談社が広告枠を自民党に寄附したものとみなされ、政治資金規正法上の扱いが問題になる可能性もある。さらに、なぜ、会社の資源を特定政党の応援に使うのか、について株主に対する説明責任も生じるだろう。
このように考えると、今回のプレゼントの違法性の有無を判断するには、資金の出どころや、選対委員長が責任者となった理由などの情報が必要になる。ところが、これらの情報は今のところ公開されていない。
この点、今回のキャンペーンは過去の判例等に照らし「違法でない」と断言する識者もいる。しかし、こんなに堂々と選挙直前に政党がプレゼントキャンペーンをやった事例は、過去に思い当たらない。各政党は、疑念を招かないように控えてきたのだろう。
そのためか、私が検索した限りでは、政党によるプレゼントを違法だとした判例もないが、逆に、適法と断言した判例も見当たらない。違法でないと断言する人も、やはり具体的な判例は挙げていない。現段階では、違法性の判断のための材料が出揃っていないのだから、軽々しく「違法でない」と断言するのは無責任だ。有識者は、まず、自民党と講談社に情報公開を促すべきだろう。(AbemaTV/『AbemaPrime』の議論を元に木村教授が寄稿)
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