「VR」＝バーチャルリアリティの技術を使い、出勤先のオフィスを仮想空間に建設する企業が生まれている。満員電車に押し込まれて出勤……そんな毎日が革命的に変化するかもしれない。
アメリカの不動産仲介業者「expREALTY」のオフィス。存在するのは現実世界ではなく仮想空間で、出勤するのは自分の“分身”だ。スタッフは自宅にいながら出社でき、会議室では複数の人が集まって話し合いが行われている。大勢の人にプレゼンしたい時はホールを使い、オフィスでよくある「会議室足りない問題」もない。
バーチャルオフィスを導入したexpREALTYのビジネスに参加する事業者の数（2019年第1四半期）は、前年同期比で約2倍の約1万8000社。売り上げは約2.5倍と急成長している。
これまでビジネスに使用されるVR技術といえば、ほとんどが「体験型」。仮想空間の中での体験そのものが商品だった。しかし今後は、仮想空間の中で人とつながり取引が行われる時代になるかもしれない。
そこで、都内でバーチャルオフィスの構築を進めている会社「ティーアイ」の今川哲矢社長の協力の下、AbemaNewsの楪望レポーターが未来の“バーチャル出社”を体験した。
体験したのは、オンラインチャットのVR版「VRChat」を使って再現したオフィス。楪リポーターは「イス、テーブルが目の前にありますね。天井も高い」「実際に自分が歩くと、デスクが目の前に近づきました」「書類の棚ですかね。手を伸ばして取りたくなるような」と次々に感想を口にする。
VRの画面上で部屋を選ぶことができ、次は会議室に移動。今度は今川社長に「バーチャルオフィスでできること」を実演してもらうと、ホワイトボードに字を書いたり、空中に球を書いたりとバーチャル空間ならではの手法も。
しかしながら、バーチャルオフィスの問題点も浮かんでくる。手元の資料などを見たい時にはヘッドセットを外さなければならず、「それがVR会議の一番の課題だと思う」と今川社長。
そして、最大の疑問はそもそも会議にVRの技術まで必要なのかということ。今回のように、VR機材を使わないパソコン画面でも会議としては成り立ちそうだ。「2Dではダメなのか？」との問いに今川社長は「新製品、モノをつくっている会社で、3Dのオブジェクトを見ながら話し合う時には非常にマッチしている」と回答。実はexpREALTYでも、多くのスタッフはVRではなくパソコンからの“アバター出社”で済ませているという。
また、今回のバーチャルオフィスの費用は、パソコンと機材を合わせて最低40万円ほど。さらに、使用する従業員や取引先の数だけ費用がかかる。今後のビジネスの可能性に今川社長は「普及さえすればがっちりハマる用途はあるので。それを待ちつつ、そういう流れを作るのに貢献できたらいいなと思っている」と話した。
現在までバーチャルオフィスについて実際に検討した企業は１社のみ。しかも結局、導入は見送られてしまった。しかし、VRが普及すればどこかで技術のブレイクスルーが起き、多くの人が仮想空間のなかで出勤する日が来るかもしれない。
そうした中、さらにその先をいく「ミラーワールド」を提唱するのは『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏。ミラーワールドについて「VRがバーチャル世界に入るのに対し、AR（＝拡張現実）で僕らがいる場所にアニメーションやあらゆるモノがミックスされていく世界」だと説明し、「バーチャルオフィスは現実のオフィスに似せた物を作っていたと思うが、ミラーワールドでは現実のオフィスをデジタル化して、情報にした上で現実と重ね合わせていく」という。
ARとして流行したのが、スマートフォンアプリの「ポケモンGO」。松島氏はそれと同様、「会議で人の名前が上に出てきたり、画像や動画、メモなどを現実世界に重ね合わることができるというのが、これからやってくる新しい世界」だとの考えを述べる。
『WIRED』ではこのミラーワールドの特集を組んでおり、WEB、SNSに続く“第3のプラットフォーム”になると指摘。エグゼクティブエディターのケヴィン・ケリー氏は「やがて、地球と同じサイズの、現実とバーチャルが融合した世界が完成するだろう。それは人類の最も偉大な功績となり、何十億という人々にとって新しいレヴェルの富、新しい社会問題、数えきれないほどの新しい機会を生み出すはずだ」と解説している。
松島氏はそうした技術がスポーツ、例えばオリンピックなどに応用できるとし、「人が走る時やジャンプした時にデータを重ね合わせる。スタジアムやスクリーンで見るだけではなく、地面のアングルからの映像を間近に見られたり、アスリートが街中の歩道橋を棒高跳びで飛び越えたりするような話も、ミラーワールドの中にはある。スポーツを再定義できる可能性があるもの」と指摘。続けて、「世界そのものが全てデジタル情報の双子を持つようになると、僕らがインターネットで25～30年経験してきた様々な世界や社会問題を、今度はミラーワールドで経験するようになると思う」との展望を示した。
（AbemaTV／『けやきヒルズ』より）
▶【映像】“分身”が出社するバーチャルオフィス
この記事の画像一覧
