「清々しさしかない。これで、プロボクサー・亀田興毅を完全に終わらせることができる」
22日にキックボクシング界の“神童”でRISE世界フェザー級王者・那須川天心とのスペシャルマッチを戦った元ボクシング世界三階級王者の亀田興毅が都内でインタビューに応じ、話題、さらに賛否を呼んだ一戦から一週間が経過した現在の心境について「2015年10月の引退時は世間的には引退だったけど、自分としては『まだできる』という思いがあった。1ミリでもそういう気持ちが心の中にあったので、2018年に復帰、さらに今回リングに上がることを決意した。その一方、今回は『頑張ってもどうにもならない』衰えを実感した。その現実を知ることができて素直に嬉しい」と本音を語った。
衰えというのは、年齢と共に低下していく反応や動体視力のこと。筋力はやった分だけ大きくなっていくが、こればかりは抗うことが難しく「もう無理だ」と感じたという。そのうえで「最後の相手が、これから格闘界を背負っていくであろう天心くんでよかった。彼は格闘技の枠を超えて活躍している選手ですから」と続けた。
しかし「清々しい」という本人とは対照的に気になることもあるという。それは、周囲の気遣いだ。そのことについて亀田は次のように説明する。
「応援してくれていた人は、自分がピークの時の姿を知っている。それと比較すると今回は『やられている』ように見えたかもしれない。そのこともあってか、どこか触れないようにしている」
26日には「てんしん」とひらがなで書かれた酒処の提灯をツイッターでアップすると、その動画の再生回数は瞬く間に200万回を超えた。この珍現象には本人も驚いたようで「ネタにできるくらい本人が気にもしていないことに対して、『大人ですね』みたいな反応がたくさん寄せられて、逆にこんなに気を遣っていたんやなと。でも考えてみてくださいよ、もともと引退していて、棺桶に半分以上入っていた人間が、もう1度、棺桶から出てきただけの話。たかが4文字で200万回再生っていうのは、さすがに異常ですよ」と笑顔を浮かべた。しかし、戦前の最終勝敗予想で55%対45%と10%のリードを奪っていたことからも、期待を集めていたことは確かだ。そのことについては「期待していただくのは自由。試合までの見せ方、持って行き方もエンターテインメントの一つ。そこも含めて、過程が大事。それが亀田興毅劇場」。
ボクシング界の主張に要望「厳しい現実を受け入れ、批判より打開策を」
この一戦の前日、21日には日本ボクシングコミッション(JBC)と日本プロボクシング協会(JPBA)が「ボクシングと銘打つ興行」に対する共同声明を発表したことでも話題になった。「その主張は十分に理解している。ボクシング協会と敵対しているわけではない」と話す亀田は、本件については「反対を押し切ってでもやる価値はあったと思っている」と言い切る。
ボクシングは伝統的なスポーツであり、歴史のある競技。オリンピックの正式種目にもなっている。タイトルマッチが行われれば、一般紙はもちろん、NHKや民放各社だって結果を取り上げる。扱いは日本の国技である相撲と一緒。片やキックボクシングは格闘技。競技人口を見てもボクシングのそれは世界規模で、比較にならない。「その両者を一緒に論じることも、上から押さえつけることもよくない」というのが亀田の基本的な考えだ。
「他の格闘技と交わるな。それがわかっているからこそ、ヘッドギアをつけてリングに立った。これは試合ではなく、いわばスパーリング。それに新しいファンを獲得しなければ、ファンも競技人口も減り続け、ジムは軒並み潰れているボクシング業界は大変なことになる。今回の戦いを見て、ボクシングやキックボクシグに興味を持った人は少なからずいるはずなので受け皿も大事。その上で現状をしっかり捉え、批判だけではなくボクシングの権威を守るための打開策や対案を示して欲しいと願っています」
そう訴えるのも、「ボクシングがあってこその自分」という感謝の念が強いから。だからこそ、自分にできることを実践したのだ。
兄弟は「猛反対」 三男の和毅「今のお兄ちゃん、メチャクチャ弱いで」
この企画を受けると決まった際の兄弟は「アホか」「せんでええやん」「いつまでやるの?」など“猛反対”だった。とくに厳しかったのは三男の和毅で「やめとけ、今のお兄ちゃん、メチャクチャ弱いで」と辛らつな意見もあったという。それでも、自分が決めたら納得するまでやる興毅の性格を熟知している父・史郎だけは「お前がそう言うなら」と応援してくれた。そんな父の様子を見て、当初「頼むからやめてくれ」と反対していた次男の大毅は「倒れんかったら、お兄ちゃんの勝ちやで」とエールを送ったという。
そんな大毅の心境について興毅は「最初は、何言うてんのやと思った」と前置きしながらも「大毅は網膜剥離でパンチが見えんようになってからリングに上がったことで『ボクシングが怖い』と初めて感じた。自分は現役を退いて月日が経ち、『もう無理かな』と感じていた。大毅は同じような困難を先に経験している」と話し、「言うてる意味もわかる」と大毅の優しさに理解を示した。
亀田は冒頭、那須川天心と拳を交えたことで「現実を知ることができて嬉しい」と話している。その理由はボクシングの魅力、さらに中毒性にある。現役引退後も体重をキープし続けていたのは「もしかしたら」という思いがどこかにあったからだ。
「ボクシングには中毒性がある。その魅力を知ってしまうと忘れることができず、次の夢を見つけることの妨げになる。そうしてボクシングにしがみついてしまう」
那須川天心という若き才能と対峙して現実を知ったことで、15年のボクシング人生にようやく区切りをつけることができると亀田は笑う。「老兵は去りゆき、セカンドキャリアの道へと突き進む」と自身のツイッターで記したが、「あっという間だった」という15年を振り返って次のように締めくくった。
「ようやってきたと思いますよ。なんか皆は今回引退みたいに言うてるけど、自分の中では3年半前(1度目の引退)で終わっている。今回は引退試合ちゃうから。それが2回も3回も“おつかれさん”みたいなお祝いムード。幸せ者ですね。人生、お祝いみたいなもんです。それもこれも、ボクシングのおかげ。心からボクシングに感謝」
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