学校に通わないことを自ら決意、「不登校は不幸じゃない」とのメッセージを発信し続ける不登校のYouTuber"ゆたぼん"こと中村逞珂くん(10)。「学校に行かなくなりました。家でYouTubeアップしたり、全然不幸と思いませんでした。むしろ楽しかったです」(昨年8月の投稿)といった、大人顔負けの主張が沖縄の地元紙に取り上げられて以降、言動の是非をめぐってさまざま議論が繰り広げられ、チャンネル登録者数は5万6千人に達した。
不登校の道を選んだのは、いじめなどではなく、学校という存在そのものに対する疑問からだった。「宿題をやりたくないのでやらなかった。なんで学校があるんだろう、なんで先生がいるんだろう、なんで先生の言うことを聞いてやらないといけないのだろう、なんでやろって疑問がめっちゃ多かった」。大阪に住んでいた小学3年生の頃、決められた授業や、毎日やらされる宿題、何より周りの子どもたちと同じように行動しなければならないということに疑問を持つようになったという。「子どもは学校に行く権利はあるけど、義務はないし、大人もそう。大人も学校に行きたいって言ったら行かせる義務がある。でも、行きたくないって言ったら無理やり行かせる義務はない」と主張するゆたぼんくん。気がつけば校舎から徐々に足が遠のいていった。
母・きよみさんは「"学校行ったら"と勧めているうちに、これはゆたぼんのためにやっているのかな、世間体から見られる親の立場のためにやってたのかな、と気づいてしまった」と振り返る。
心理学を独学で学んだという父・幸也さんは「1年生、2年生の頃は休まず楽しく行っていた。でも3年生になると、"なぜ、どうして"っていうのが生まれてきた。僕はそれを大事にしてあげたい。自分の中から出てくる"なぜ、どうして"を全力で探求していくところに、学びが生まれると思っている」と話す。
「先生からの体罰があったのが原因でもあるが、学校側との話し合いの中で、なんとか給食だけでも来てくれないか、という話もあって、ゆたぼん自身も、じゃあ給食だけなら、じゃあ5時間目も、6時間目も…という流れもあった。でも、友達に"お前だけずるい。せこい"と言われたので、もう行かない、っていう選択になった。子育てには正解がないと思うし、それぞれの家庭で、自分が正しいと思った子育てをしていると思う。僕もどうしてあげるのが親として一番良いのかを考えた時、ゆたぼん自身が楽しんでるか、幸せなのかってところを大事にしてあげたいと思った。先生に叩かれたり、友達に"ずるい""せこい"って言われたりしているのに、それでも無理やり行かせてしまえば心に傷が残ってしまうかもしれない。それが大人になっても残ってしまったら、僕自身もすごい後悔すると思う。それだったらやっぱり、今のゆたぼんの幸せ、今ゆたぼんが何をしたいかっていうのを全力で応援してあげて、サポートしてあげたい」。
■「自分のしたいことを全力でやっている」
不登校になって1年。両親は生活環境を変えるため、家族で沖縄への移住を決断。それでもゆたぼんくんは学校へ行くという道を選ばなかった。「算数やってみ、ってなったら電卓で調べたらいいだけやし、漢字はググったらいいだけやろ。書くことだけが勉強じゃない。こうやって話すのも勉強やから」。
幸也さんは「匿名性の高いSNSなどでは誹謗中傷が多いかなという感じだが、不登校の子を持つ親御さんなどから"気持ちが分かる"とか"すごいことを世の中に発信してくれた"という励ましの声をいただいた。"学校がすごく楽しいから行った方がいいよ"というのも一つの意見だが、みんな嫌々学校に行ってきたから、行かないやつは許せない、そういう気持ちがあるのかな」と話す。
自宅を訪ねると、投稿用動画の撮影が行われていた。幸也さんによると、動画配信のきっかけは2年生の時。「お笑い芸人になりたいと言って、物真似を撮ってYouTubeにアップし始めたのが最初だった(幸也さん)という。
「俺は、子どもでも活躍できる世の中を作る」と語っていたゆたぼんくんに、自身への批判について聞いてみると、「色んな意見があると思うし、そんなん言う人たちはずっとそんなん言っといていいんちゃうって。俺はそんなん気にしてへん。スルーしてる」と、意に介していない様子だ。
背景には、自分の意思に反して学校に行くことが、時に自らの命を奪うことにつながるという考えがあるようだ。だからこそ、動画でも「一番大切なものは自分の命」、講演でも「死んだらあかん」、そしてパーソナリティーを務める地元のインターネットラジオでも「この番組は不登校で苦しんでいる子とか、学校が嫌で死にたいって言う子に元気と勇気を与える」と訴えてきたという。
ラジオ番組でゆたぼんくんに相談を持ちかけた9歳の女の子は、「うざいとか、気持ち悪いとか言われたりして、一人ぼっちになって、声をかけても無視される」。ゆたぼんくんは「(彼女は)"死にたい、死にたい"って言っていたけど、俺のYouTubeを見て元気をもらったらしい」と明かした。
そんな中、ゆたぼんくんに新たな動きが見られた。先月6日の投稿で、「今日は学校に行きたいと思う」と、方針転換とも取れる発言が飛び出したのだ。「俺は自由登校やから、学校行くわ。学校行きたいときに行く。給食の時間だけ行って、5時間目受けて帰る。そのパターンが多いし、プールの時間とか、俺が好きな図工の時間とかやったら行くし」。
幸也さんは「もう本当に自分のしたいことを全力でやっているという感じなので、何をするかも本人自身が決めている。土日とかに学校の友達が遊びに来たりもする。平日には同じように不登校の子たちが集まって、親も含めてみんなでどこかに遊びに行ったり。パソコンいじるのか、動画を撮るのか、あるいは勉強をするのか、基本的には自分で決めて、自分でやっている。本人がやりたくないことは手がつかないし、知識としても身につかないので、勉強しろということは言わない。学校に行っていてもニートになる可能性はあると思うし、あとで後悔するのも人生。過去には戻れないんだから、今できることを今やれば良いんじゃないかと思う」(幸也さん)。
■カンニング竹山、箕輪厚介氏、夏野剛氏の意見は?
教育ジャーナリストの松本肇氏は「社会人として杓子定規なことを言えば、日本に住むなら日本語が必要だし、買い物ならちょっとした算数はできた方がいい。そうした子ども時代に学ぶべき必要なことを究極の形にしたのが義務教育だと思う。だから学ばなくてもいいじゃんというふうに思ってしまうのは非常にもったいない。スポーツ選手になるにしても、やはり基礎体力を鍛えるために走るのは必要でしょ、と。料理に例えると、カレーばかり食べている子どもには、"実はスパゲティーもおいしいよ。ハンバーグもおいしいよ"と言ってちょっとでも食べさせてあげないと、他の料理のおいしさはなかなか分からない。YouTubeにも色んな世界があって楽しいけれども、人と人とのつながりの中で色んなことを学ぶ機会を自らなくしてしまっているのはとてももったいないと僕は思う。ただ、行きたくないのに無理やり行かせるのは違うと思うし、こういう生き方もありかなとは思う」とコメント。
カンニング竹山は「それぞれの考えがあっていが、人生80年くらいと考えると、おとなになってからの時間は60年もあって、もちろんお金も稼がないといけないけれど、色々なことができる。それに対して、未成年は20年、生まれて3年くらいは記憶がないとすれば、17年間くらい。友達の関係のなかで傷ついたり、恋愛もあったり、学ぶことも多いと思う。いじめなどがないのであれば、ゆたぼんくんはあんなに明るい子だし、学校に行ってもいいのかなと思う」。
幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏は「"みんな違ってみんないい"、だと思う。僕が嫌だなと思うのは、うだつの上がらないおっさんたちが、自分たちは頑張って学校に行ったんだから、お前も行けよと言い、同質であれということで小学生をこぞって叩くこと。そんなおっさんになるくらいなら、学校なんか行かない方がマシだと思う。それくらい情けない」。
慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「子どもをバカにしすぎだと思う。ものすごく才能を発揮する早熟な子達がいるということは、すでにスポーツの世界が証明している。そういう子たちにとって、中学校の体育の授業はバカバカしくて受けていられないと思う。僕は大人たちが苦手なプログラミングのコンテストの審査員をやっているが、実際に小4の子がアプリを作って賞を取ったりしている。一律な事にはまらない子に強制するのではなく、必要な知識を得られる環境を整えてあげる方法を考えた方がいいと思う」。
それぞれの意見を聞いた幸也さんは「どれが正解とか不正解はないと思うし、我が家ではこういう生き方でやっているが、別に皆さんの家族にやってくれって言っているわけでは全然ない。一つの生き方ということで見守ってもらえればと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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