
7月5日アメリカ・テキサス州ダラスでひと足早く開幕した今年の新日本プロレス『G1 CLIMAX 29』開幕戦。Aブロック公式戦でIWGPヘビー級王者オカダ・カヅチカが棚橋弘至に勝利。自ら掲げた「IWGP王者にしてG1覇者」という完全制覇に向けて重要な1勝をあげた。
「オカダvs棚橋」は現在の新日本プロレスが誇る黄金のカードのひとつ。アメリカン・プロレスのメッカであるダラスでこの日本人対決が観客の熱狂とともに受け入れられたことに隔世の感がある。インターネットの普及によりリアルタイムで日本の試合がアクセスできる時代になったことで、現地の観客がレインメーカー・ポーズに歓声をあげ、棚橋には「GO ACE!」のコールが巻き起こる。新日本プロレスが世界戦略を口にしてから、いつかそのような日が来ると頭に描いていたもののMSG大会に続き、このダラスでのメインはその認知度の高さをより実感する一戦となった。
オカダと棚橋、ユニット間での共闘を経た2人ならではの磨きが掛かったハイレベルな攻防。序盤のロックアップから、オカダのドロップキック~レインメーカー、棚橋のドラゴン・スープレックスと互いの得意技の封じ合い、一見地味に見える古典的な技の一つひとつに声があがった。
日本とアメリカ、同じリングで、同じ選手の戦いが繰り広げられる中で大きな違いを感じさせたのは、やはり観客の反応だ。観客の心を奪うパフォーマンスという意味では、エアギターなど棚橋に一日の長があるように思われたが、この日のオカダは終始“アメリカ流”のノリに適応してみせる。倒れ込んだ棚橋を踏みつけ腕を広げてアピールしてみせたり、いち早く棚橋の十八番である掟破りのドラゴンスクリューを決めた。まるでライブのMCのように「ダラス!」の掛け声と、大勝負のなかで冷静に観客の心を掴むパフォーマーとしてのオカダを体現してみせた。なかでも不発に終わったが、お約束ともいえるレインメーカー・ポーズをダラスの観客が立ち上がって真似する姿は、この日のハイライトといえる感動的なシーンだった。
一方、コンディション的にはベストではないと言われてきた棚橋も、現状で最高の戦いをみせた。怪我の影響から封印してきたハイフライフローも解禁し高さはないが魂のこもったスリングブレイドで、次々と降り注ぐ危機を回避。2度のレインメーカーを丸め込み、ドラゴン・スープレックスでオカダを追い詰めた。最後はレインメーカーを狙い、強く右手を握るオカダに強烈な左手の張り手という泥臭い攻撃で観客の心を掴んだ。
最後は旋回式のツームストン・パイルドライバー、レインメーカーからのレインメーカーでオカダが激闘を制したが、両選手がアメリカの地で余すことなく「新日本らしさ」を体現してみせた。
試合もさることながら、令和時代のオカダはひと味もふた味も違うと感じさせたのは、リング上でのパフォーマンスだ。試合後スタンディング・オベーションのダラスの観客に「一勝目!」と日本語で叫んだオカダは英語で「つい日本語で話しちゃったよ」と笑顔を見せる。その後、「ダラース!」とシャウトして大歓声を巻き起こした。「アメリカでの最初のG1クライマックスはどうでしたか? これが最後じゃない、俺たちは必ず戻ってくる。ダラスにはG1勝者、そしてIWGP王者として戻ってくるから」と今大会での勝利と、IWGP王者としての長期政権も宣言した。
すっかり忘れてしまった人も多いと思うが、9カ月前、オカダの脇には常に外道の姿があった。その強気な姿勢や言葉は本人の口よりも参謀の口から語られることが少なくなかった。強いオカダに唯一物足りなさを感じさせのが、自らメッセージを発する発信力だったが、そんな口下手だった面影は今はもう感じられない。
参謀との裏切りと決別、本人にとって最も厳しいスランプ期だったジェイ・ホワイトとの約半年間の抗争に勝利し、個のレスラーとしてひと回りもふた回りもたくましくなったオカダ。新日本プロレスの中心としての確固たる決意は、ダラスのリングでの威風堂々としたマイクパフォーマンスに集約されていたのだ。
試合後オカダが語ったとおり「このような闘いがあと18試合、1カ月のうちにおこなわれる『G1 CLIMAX29』を“まだ1試合”終えたばかり」。この地獄の総当たり戦を制し史上3人目の「IWGP王者でGI覇者」という称号を手にすることで、IWGPヘビー級王者史上最長記録保持者の平成時代のオカダを名実ともに上回る「令和時代の絶対王者」が誕生する。
写真/新日本プロレスリング
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