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 昨年9月に中津良太がユニオンMAX王座を戴冠し、新エースとして長期政権を築いたプロレスリングBASARAだが、現在は“揺り戻し”のような状態になっている。

 5月に中津の元タッグパートナー・関根龍一が30歳で王座獲得。その月に始まった恒例のトーナメント『頂天~itadaki~』では、関根よりさらにキャリアの長い木高イサミと藤田ミノルが7月7日、両国KFCホール大会の決勝戦に進出した。

 BASARA代表を務めるイサミはもうすぐデビュー17年になる37歳。準決勝では中津を下している。決勝直前には大日本プロレスでデスマッチヘビー級王座を防衛。絶好調と言っていい。

 藤田は41歳。キャリアは22年になるが、昨年から今年にかけフリーとしてさらに存在感を増した。12月のガンバレ☆プロレス後楽園ホール大会でメインを張り、5月にはFREEDOMSで葛西純とエモーショナルなデスマッチ。そして今回はBASARAでトーナメント決勝進出である。天王山と捉えていた成長株・阿部史典との1回戦を制すと、藤田は言った。

「(中津に続いて阿部と)BASARAもそんなにニュースターいらないでしょう。飽和状態になっても困るんで、今年は僕がいきますよ」

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 阿部の実力を認める的確な現状認識、それに抗おうとするベテランの意地と心意気。そうした藤田の魅力を、イサミもよく知っていた。イサミにとって藤田は、右も左も分からない時代に教えを受けた「本当の師匠」だった。

 そんな藤田が、今は自分の団体にレギュラー参戦している。ユニット・戦闘民族にも加わってくれた。そして今度はトーナメント決勝での対戦。これ以上感慨深い試合もないが、イサミは「挑ませてもらうという気持ちじゃダメ」と気を引き締めた。藤田はイサミを「俺が勝てるところはもうないかもしれない」と最大級に称えつつ、それでも「またロックアップからプロレス教えてやる!」と突き放した。

 決勝戦は、実際にロックアップから始まった。コーナーに押し込んだ藤田は、そこから見事な“藤田ミノルのプロレス”を展開した。序盤の腕の取り合いから妥協せず、リング内外で徹底した足攻め。イサミがトペを放つとお返しとばかり自分も飛んでみせる。終盤にはコーナーからの雪崩式ツームストーン・パイルドライバーなど非情な大技も。

 藤田の実力について、試合後のイサミは「一言で言えば器」なのだと語っている。

「空間把握能力、それと受けることにも攻めることにも何も怯えがないんですよ」

 それは、ファンの多くがイサミに感じている要素でもあるだろう。イサミも言った。「それは俺の中にも宿っている部分なんですけど」。まさに藤田はイサミの師匠だった。

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 それでも最後の最後、弟子が師匠を上回ったのは必殺技「勇脚・斬」につなげる打撃のラッシュだった。イサミが最も得意とするフィニッシュ技のつばぜり合い、畳みかけだ。

 DDTグループのブランドとして立ち上げられたBASARAだが今年いっぱいで独立、単独の団体として活動していく。イサミは代表から「社長」になるわけだ。そんな節目を控えてのトーナメントで師匠に勝って初優勝を決めたイサミは、超満員の客席を見渡してこう言った。

「正直、独立を決めたはいいけど不安な夜もありました。でも今、レスラーたちの顔とお客さんの顔を見たら大丈夫だって思えました」

 大好きなプロレスを思い切り浴びて「“プロレス酔い”しましたね」とイサミ。ただ「これで藤田ミノルを超えたことにはならないっていうのが率直な気持ち」だと言う。

「1勝はしたけど超えてない。あとはプロレス人生で競うしかないんですよ。藤田さんはずっとトップを狙ってくる人間だし、俺もそこで退くつもりはない。(どちらが上か)結論が出るのはプロレス人生を終えた時。この(コメント)映像を見てる人は、それまでプロレスファンを続けてください。(取材の)みなさんはプロレスマスコミでいてください。僕らはみなさんが“取材したいな”って思い続けるようなプロレスラーとして生き抜いていきます」

 藤田ミノルを超えてはいない。1つの勝ち星でしかない。しかしそれは、木高イサミのキャリアに大きく刻まれる1勝だった。敗れた藤田はこう語っている。

「(イサミとの)空白を埋めるためにもう1時間でも2時間でもやりたかったけど、そうもいかないんでね。また修行し直して、最高の師匠になりますよ。惜しい負けは完敗なんだって誰かが言ってました。今日は完敗です」

 コメントの熱と巧みさまでそっくりな師弟の闘いは続く。藤田が「優勝して実現させる」と語っていたプロデュース興行をイサミが認め、7月24日の新木場1st RING大会は「藤田興行」として開催されることになった。「愛とは言わないけど、俺もBASARAに恋してる人間なんでね」と藤田。これも“プロレス酔い”する闘いになりそうだ。 

文・橋本宗洋

写真/DDTプロレスリング

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