「ハギさん、競輪やりませんか?」
そんな誘いを中川さんからうけた。だが申し訳ない。妻に叱られるので、競馬や競輪の類はやらないことにしているのだ。
“飲む、打つ、買うは芸の肥やし”といわれた時代があった。私は元お笑い芸人で、妻は元ファンである。彼女は私が芸人だった頃をバリバリに知っている。二人が付き合いだした頃、彼女の姉に心配された。
「遊ばれてるんじゃないの?」
そんな心配はご無用。モテナイ男はお笑い芸人だってモテナイ。彼女をつくることに全力だ。たしかに昭和の時代に、“飲む、打つ、買う”を嗜んだこともある。だがしかし! 令和になってからは、“飲まない、打たない、買わない”をモットーにしている。
そんなわけで、ここは中川さんからのお誘いでもお断りすることにする。
そもそも、競輪は初心者にはわかりづらい競技だ。「よ~い、ドン!」と、号砲が鳴っても、いきなり全力は出さない。まずは様子見とばかり、グルグルとコースを周回している。しかも聞くところによれば、このとき一番先頭を走っているのはレースの着順とは無関係な人だそうな。この人、風よけらしい。そして、この先頭の人がいなくなってからが、いよいよレース本番となる。それを知らせるのが、ジャンと呼ばれる鐘だ。だったら最初から1周のスプリントで競えばいいじゃないかと、素人考えをしてしまうところだが、そんな簡単な話ではないようだ。
「競輪は、ジャンが鳴るまでに選手同士の駆け引きがあって、そこがほかの公営競技にはない奥深くさであり、おもしろさらしいんですよ」
中川さんも語尾に“らしいんですよ”と付けるくらいだから、競輪には素人みたいだ。そうそう、中川さんとは、WEB編集者の中川淳一郎氏のことである。
「毎月1万円縛りで車券を買って、素人3人の中で、誰が一番的中するか競いましょう」
と、嬉しそうに中川さんはいう。そしてそれを週1程度で記事にしてくださいと。『WinTicket』というインターネットで競輪の車券を買えるサービスがあるそうだ。
仕事であるならば、負けた車券代は経費として請求すればいい。手元のお金が減らないのであれば、なんとか妻を説得できるかも知れない。これはギャンブルではない。仕事だ!
「いえ、これは自腹勝負になります。じゃなきゃおもしろくありませんから」
自腹か……。そうなると話は変わる。まず妻の説得が必要だ。私は元お笑い芸人で、1987年から2006年まで、キリングセンスというコンビ名で活動していた。コンビ解散を機に、貧乏芸人から、極貧ライターへと転身をした。キリングセンス時代、TVブロスで連載を持っていたのだが、その時の担当編集者が中川淳一郎氏であった。
そんな極貧ライターの私にとって、奥様の財布から1万円を捻出してもらうことが、どれほど困難なことか……。
ここはひたすら土下座。頼み倒し、拝み倒す。
妻との土下座交渉の末、以下のルールが決定され、競輪素人が『WinTicket』で1万円チャレンジへの参加が許可された。
ルール1で、レースは週に一度と決めたが、ここに「原則」という文言を勝ち取ったことは大きい。あくまで原則だ。例外もありえるってことだ。
【萩原家が定めた競輪ルール】
ルール1 レースは、原則週に一度
ルール2 情報収集を怠るな。穴は狙わず、手堅くいけ
ルール3 熱くなるな! チャージは月に1万ポイント(円)まで
ということで、負けられない勝負が始まった。
それにしても、あまりにも競輪を知らなすぎるため敵情視察へと向かうことにする。調布市にある京王閣競輪場だ。
場内に出走表があったので、1枚もらう。これだけを見ても、いったいどの車券を買えばいいのか皆目検討もつかない。
せっかく競輪場まできたのだから、少しくらい遊んで帰りたいが、ここは「ルール2」の情報収集が先決だ。
まずは、競輪のレースを生で観戦しよう。車券は、自宅に帰ってから情報収集につとめ、後日のレースを『WinTicket』で楽しめばいい。
『WinTicket』で車券を購入すれば、ポイント還元が3%つくのだ。だったら今この場でスマホで登録をして、競輪場で車券を買わず、『WinTicket』経由で投票すればいいのだが、まず待て。私には秘策がある。そう、秘策があるのだ。ガッハハハハ!
競輪場でもらった出走表を見ると、9台が出走している。ところが、競輪レースにはミッドナイト競輪というものがあって、このレースは7台しか走らないのだ。母数が少ない! ということは、当たる確率がそれだけ増えるということだ。ガッハハハハ!
ということで、『WinTicket』に登録する。すると早速、1000ポイントが付与されたではないか(※)。この瞬間で1000円ゲットだぜ! しかも今なら、初回チャージ限定のポイント増量キャンペーンが行われていて、チャージした金額の10%が増量されるという。
※同キャンペーンは原稿執筆時点のもの
「えいっ! それならばいっそ10万円チャージだ!」と思ったが、奥さんが鬼の形相でこちらを見ている。ここはおとなしく1万ポイントのみチャージずることにする。それでも、この時点で、2000円ゲットだ。
というわけで、まずは小手調べにチャレンジしたのが、7月4日に開催された松坂の『ミッドナイト競輪』だ。
まずは第1レース、『ミッドナイト競輪』というくらいだから、発走時間は21時と遅い。奥さんがテレビを見ている横で、ソファーに寝そべりながらスマホを使って、予想表を眺める。『WinTicket』のAI予想では、下記の写真のようになっていた。
的中率55%、回収率112%。まったくのど素人である私にとって、予想の手がかりなどない。まずはこのAI予想屋を信じて以下のように投票した。
『松阪 初日 1R F2 万協フィギュア博物館杯』
【3連複】
2=3=4(3.8倍)200pt
【ワイド】
3=4(1.8~2.2倍)500pt
このワイドという車券であるが『WinTicket』の用語集にこう書いてある。「1~3着までの2選手を当てる賭け式です。」
確率でいえば、7台から2台を当てる。しかも今回、本命と対抗の2台をワイドで購入した。配当は低いが、それでいいのだ。ここでもルール2が適用される。本来は、この車券にだけ投票してもよかったのだ。よかったのだが、欲が出る。これぞ、THE人間。あわよくば、3連複も当たれば配当は3倍だ。もっとも、200円しか賭けてないけどネ。
そして結果はといえば、350円のプラス収支!
【結果】
3連複 3=4=5 2590円
ワイド 3=4 210円(的中)
普段ギャンブルをやらないので、これだけでもドキドキする。幸先の良いスタートを切ったところで、お風呂の時間。隣の妻が“風呂に入れ光線”を照射してくる。
そしてひと風呂浴びて、第6レース。買い目は以下にした。
【3連単】
3-7-2(9.0倍)100pt
【2車複】
3=4(5.9倍)100pt
3=5(17.9倍)100pt
AI予想は本命3番、対抗を4番としていた。そして穴が2番だ。
ところがオッズを見てみると、無印の7番が絡んだ3-7が一番人気。では、この人気にあやかって3連単を購入することにしよう。3-7-4にするか迷ったのだが、一番人気で配当が4.2倍。それで少し色気を出して、二番人気の3-7-2に投票した。
この色気が邪魔だった。結果は、3-7-4の一番人気。
【結果】
3連単 3-7-4 420円
2車複 3=7 260円
こうした鉄板レースを確実にとっていかないと、私の場合はダメなのだ。このレース、マイナス300ptとなってしまった。でも、第1レースで350pt買っているので、本日は、プラス50ptの収支。
本日の格言:50円でも勝ちは勝ち。まずは勝ち癖をつけよう。そして色気を出すな!
文・写真/ハギワラマサヒト
ハギワラマサヒト●1967年生まれの臓器移植芸人兼ライター。人生で二度の臓器移植を体験し、移植医療普及の活動をしている。2000年に日本人初の肝腎同時移植をアメリカで、2015年に国内で妻より生体腎臓移植。タイタン所属。2019年春より、りんご農家芸人・松尾アトム前派出所と、コントユニット「子鹿ズ」を結成。
■ミッドナイト競輪
2011年から始まった深夜の時間帯に開催されている競輪の競走。全国の競輪場のうち小倉(北九州メディアドーム)、前橋(ヤマダグリーンドーム前橋)、青森、高知、佐世保、玉野、奈良、武雄、西武園、大垣、弥彦、別府、宇都宮、松阪、豊橋、松戸、川崎、伊東温泉、松山、函館、四日市の計21場で開催されている。基本的に各レース7車立ての7レース制で、第1競走の選手紹介は20時50分、最終第7競走は23時19分発走(一部の場で違いあり)。開催が深夜のため無観客で行われるが、ネット投票を中心に売上が年々伸びている。
■WinTicket
株式会社WinTicketが運営する競輪投票サービスで、2019年4月にスタート。各競輪場でおこなわれる競争に投票が可能のほか、レースのライブ映像、AbemaTV競輪チャンネルで放送されるミッドナイト競輪にフォーカスしたオリジナル番組「WinTicket ミッドナイト競輪」も視聴することができる。各種ポイントキャンペーンや、AI予想などもある。