KNOCK OUTやRISEといった立ち技の双方でベルトを巻き、投げとサブミッションも認めたシュートボクシングにも参戦経験のある不可思がK-1のリングへの参戦を表明したのは、5・18KRUSH FIGHT(後楽園ホール)だった。「K-1の外からケンカを売りに来た」と不敵な笑みを浮かべた不可思の相手に選ばれたのは、武尊や卜部兄弟をはじめ数々のチャンピオンを輩出してきたKRESTに所属し、KRUSHの元王者でもある佐々木大蔵だ。
「これまで佐々木選手が積み上げてきたものを全部奪う」
ギラギラした不可思とは対照的に、静かな闘志を燃やした佐々木。そんな対照的な両者がリングでアツい戦いを繰り広げたのは、6・30の「K-1 WORLD GP(両国大会)」。3R途中、佐々木のバックブローが不可思の右目上部を捉えると、不可思は大量の出血。その後、レフリーストップで佐々木のTKO勝利となった。
この試合、不可思の顔面を滴った大量の鮮血、赤鬼のような形相もさることながら、突如陥った不利な戦況の中で観客を煽り、味方につけ、会場を一つにした不可思のカリスマ性が改めて印象に残る試合でもあった。試合後、AbemaTVで解説を務めていたK-1のレジェンド・魔裟斗が「こんなに血の似合う選手はいない」と独特な言い回しで賛辞を送っている。
まだ右瞼の傷跡が残る頃、そんな不可思に都内でインタビューを行った。自らが欲し、大きな決断を下して乗り込んできたK-1の舞台について「華やかさはズバ抜けていた」と興奮気味に振り返った不可思が今、K-1デビューを経て思うことは何か。
■ベルトを捨て、シンプルに“ワクワクする”道を選んだ
「8末ですよね? 普通にイケますよ。思ったよりも治りも早いし、K-1のリングはヒジもないから、問題ありません」
席に着くなり、ケガの具合を問われた不可思が捲くし立てた。8末が指すものはもちろん、8月24日に大阪のエディオンアリーナで行われる「K-1 WORLD GP 2019 JAPAN」のことだ。自らのSNSでは参戦の意思を表明している不可思だが、K-1サイドはケガのこともあって慎重だ。「選手を大切にしてくれるのは有難い」と話す不可思だが、出場への思いは捨てきれていないようだ。
あえて少し話を戻し、K-1参戦について話を聞くと「考え始めたのは3、4カ月前」だという。その理由について不可思は「燃えている感覚が無くなって、モチベーションが低下した。そんなとき、K-1に出たらワクワクするのではと思えた。そうと決めたらベルトを捨て、1からシンプルに再出発」と話す一方「ジムの代表は大変だったと思いますが」と付け加えた。 不可思は上京後から現在に至るまで、東京にあるクロスポイント吉祥寺に所属している。山口元気代表とは5年の間、苦楽を共にしてきたこともあり、感謝の念は強い。
実際に立ったK-1のリングは「華やか」だったという。格闘技のコアファンというより、一般的な格闘技好きが多いという印象を受けたらしいが「もちろんコア層に認められる選手になりたいが、そこばかり見ていては広く届かなくなってしまう。キックボクシングはスポーツであり、ショーでもある。いかに興味のない人に見てもらうか、ファンになってもらうかが重要」と考える不可思にとって、K-1のリングはなおさら魅力的に感じられたようだ。
■「負け」がついたことは悔しいが、お披露目としては大成功
K-1デビュー戦は無念のTKO負けとなった。パンチとキックをバランスよく繰り出す似たタイプの戦いについては「イメージどおりで驚きは無かったが、1R、2Rは自分がカタかった」と振り返る。その一方、「(眉が)切れたことで吹っ切れた」と笑顔を見せた。
吹っ切れたことで「不可思劇場」が開演したのは、ドクターチェックからの再開直後だ。両手を大きく、数度上げて観客を煽った。そのとき不可思は「いつ止められてもおかしくない。自分が行くしかない。3Rまではカタく自分らしさを全く出せておらず、『このままでは最悪のデビュー戦になる』と思った」という。
鮮血を滴らせながら真っ向から殴り合う不可思の姿に、観客が沸いた。前述した魔裟斗のコメントについては「自分も解説をすることがあるのでわかるが、考えてしたコメントというよりも、直感的に出た心の声。仕事ではなく、一人の格闘家として魔裟斗さんが自分の試合を見て、何か感じ取ってくれたと思うと嬉しい」と笑顔を見せた。ただし、結果自体には悔しさを滲ませる。
「ノーコンテストだったらよかったけど、負けがついた。記録的には負けがついたけど、記憶的には佐々木選手よりインパクトを残すことはできた。選手として負けは悔しいけど、お披露目としては大成功ですかね」
■感情を“むき出し”で戦い続ける。それが不可思のスタイル
試合直後、佐々木に「今度、KRESTの練習に行ってもいいかな?」と声をかけたという不可思。具体的な返事はもらえていないらしいが、一部ファンの間で残った遺恨めいたものは、本人たちの間には一切存在しない。この試合を見たファンからは不可思のカリスマ性について指摘する声が上がった。カリスマ性に関する自覚について本人にぶつけると「アツさでは?」という推測が返ってきた。
「アツさは誰にも負けない。好きで始めて、今はこれで飯を食っている。だから自分自身が常にワクワクしていたいし、楽しくない試合はしたくない。格闘技はアートとどこか似ている。アートと呼ばれるものは誰かにオーダーを受けて作品を作っているわけじゃない。格闘技も目の前の試合に感情や生き様を精一杯ぶつけて、それが観客に響くか、評価してもらえるか。反応を狙って試合をしても、ワクワクすることはできない」
そんな不可思の今後は、やはりシンプルだ。
「1年前には自分がK-1のリングに立つことは想像もしていなかった。格闘家になって人生計画みたいなことを考えたこともあったけど、この業界は変化も早いためか、思った通りに進んだことはほぼ無い(笑)。だから具体的なゴールは設けず、自分の中のK-1における楽しさ、ワクワクをもっと大きく膨らませていきたい。その結果をファンが楽しんでくれるなら、それが自分にとってのベストです」
次にK-1のリングに立った不可思が、どのようなアートを見せてくれるのか注目しよう。
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