DEEPを主戦場に、長く日本のフライ級トップを走ってきた和田竜光は、ONE Championshipに出場することでキャリアの新局面を迎えた。
「ONEにキャリアを助けられたところはありますね。新しいモードになった。ONEと契約してなかったら(キャリアが)続いてなかった可能性もあります。少なくとも今のモチベーションではできてないでしょうね。僕はUFC出場をアピールしてたけど出られなかった。UFCフライ級が盛り上がってなかったですし。逆にフライ級が盛り上がってきたONEに今、必要とされて。今はアジアの選手が強くなってますし、今まで知らなかったけど強い選手がいるんだなと実感してます。世界で闘ってる感があって楽しいですね」
ONEではこれまで4戦し、2勝2敗。前回の試合でフライ級トーナメント1回戦を突破。8月2日のマニラ大会では、準決勝でDJことデメトリアス・ジョンソンと闘うことになった。元UFCフライ級の絶対王者、この階級トップ中のトップだ。
「本当に感慨深いですね。DJとはずっと闘いたいと思って、口にもしてきましたから。実現できるかどうかは分からなかったですけど、でも結果として僕がONEと契約して、DJも来ることになって、トーナメントがあってお互い1回戦に勝った。掴み取った対戦という感じです。勝手に運命を感じてますね。向こうは何も感じてないでしょうけど(笑)」
3月の両国国技館大会、DJは和田とも練習している若松佑弥と対戦、ギロチンチョークで勝っているが手こずる場面もあった。
「底力あるな、強いなっていうのと、DJもやっぱり人間なんだなっていうのと。両方感じましたね。DJだってパンチ食らうし嫌な顔もするんですよ。結局、同じ体重の同じ人間と闘うっていうのはどの試合も同じで。もしかしたらその日、体調が悪いかもしれない。ケガしてるかもしれない。試合ってそういうもんですから」
和田の強みはこの冷静さ、それに試合での引き出しの多さだ。若松は「僕は特攻するしかなかったけど、和田さんはキャリアが違う。僕にはできない闘い方ができると思います」と語っている。対する和田は「試合前になると自信がバンバン出てくるタイプなんですよ」と言う。
「DJ、本当に俺のことコントロールできるのか? 俺にパンチ当てれる? どうなったら負けるんだ俺? そういう変な自信がついてきて。どの試合でもそうなんです。で、今回もそうなった。だから楽しみだし、その上でDJを体感してみたい」
客観的に見たら、そりゃDJが勝つでしょう、と和田は笑った。「こういうこと言ったら盛り上がらないかもしれないけど、でもそうですよね(笑)」。それを認めてなお、自分に何ができるかが大事なのだ。
「さっき言ったみたいに自信もあるので。縮こまった試合だけはしたくないですね。自分が持っているスキルを全部出して、結果はどうであれDJにすべてをぶつけたい」
最強の相手との大一番に「やるだけやる」という心境で臨む和田。ただそれは「ダメもと」という感覚でもない。あくまで勝ちにいくし、「やるだけやる」とは「勝つためにありとあらゆる手を使う」ということだ。
かつて“なんでもあり”とも呼ばれたMMAは、攻撃にせよ防御にせよ数多くの要素で成り立っている。打撃、組技、立ち技、寝技、それぞれに移行する“際(きわ)”も重要だ。「DJはそのトータルが強い選手」と和田。「でも、MMAだからこそ僕が勝つチャンスもある」とも考えている。
「MMAにはいろんな要素があるから、そのどこかで強い選手を攻略することもできる。僕はMMAだから強くなれた選手なんです。柔道や空手も弱かったですからね。たとえば(フロイド・)メイウェザーと僕がボクシングでやったら絶対勝てない。でもMMAならパンチで倒せるかもしれない。向こうが蹴りやテイクダウンを警戒しますからね。そこにMMAの面白さがあるんです」
MMAの達人DJに、MMAで挑む。そこにこそチャンスが生まれる。和田竜光が30歳で迎えた人生最大の大一番、期待するしかないだろう。
文・橋本宗洋