新日本プロレスの真夏の最強戦士決定戦「G1クライマックス」を終えたばかりの棚橋弘至にインタビューを行なった。1976年生まれの42歳。気づけばベテランと言われる年代となったが、キラキラとしたエースという魅力だけでなく、ケガと向き合いながら闘う姿がファンの共感を呼んでいる。ベテランとしての棚橋が語るプロレスとは、いったいどんなものなのか。

――今年もG1クライマックスを終えられました。以前と比べて闘い方や“乗り切り方”に変化はありますか?

棚橋 これはプロレスに限らず、心拍数の平均値や筋持久力は20代がピークなんです。僕は40代なので当然、下がっていく段階にある。それでもテクニックはキャリアを重ねるにつれて上がっていく。これは新日本プロレスのトレーナーの先生に言われたんですが、体力が下がっていくのとテクニックが上がっていく両方の線が交わったところ、そこが選手の「一番いい時期」なんだと。

――プロレスは単に体力でやるものでもないと。

棚橋 ただ体力のほうも、トレーニングのやり方を変えたらまた上がっていってるんですよ。なので、まだ技術の線と体力の線が交わるタイミングが来てない。つまり、僕のピークはまだ先みたいです。

――技術に関しては、キャリアを重ねた実感をどの辺に感じますか。

棚橋 若い頃は自分が凄い動きをして、新しい技を出して、そうすることで盛り上げなければという思いだったんです。ですが、キャリアを重ねると「プロレスは1人じゃできないな。対戦相手と2人で盛り上げていくものだな」ということがよく分かってくる。たとえば飛び技が得意だったり華麗な動きをする選手との試合であれば、その選手に盛り上げてもらえばいい。で、最後に自分が勝てばいいじゃないかと。それでも試合全体として盛り上がっている。そういうズルさも身についてくるんですよ。

――すべて自分で盛り上げなくてもいいと。

棚橋 なので(アントニオ)猪木さんの「風車の理論」というのは今でも通用する考え方なんだなって思いますね。相手の力を9引き出して10の力で勝つ。時々、9引き出して8で負ける時もあるので難しいんですが。

――棚橋選手はケガにも悩まされてきました。それを隠さず、認めた上で向き合って闘ってますよね。

棚橋 これまで両腕の二頭筋、左膝前十字靭帯、右後十字靭帯、両内側副靭帯を切ってますね。ケガだと、どうしても休まざるをえない状況があるんです。休む以上は、ファンのみなさんになぜ休むのかをきちんと伝えなくてはいけない。僕のケガは、克服できる(完治する)類のものではないんです。だから余計に、受け入れた上で自分に何ができるかを考えなければいけない。それが最近、ようやくできるようになってきましたね。30代後半から40代になりたてくらいの時期は本当に苦しみましたけど。弱い部分も含めての棚橋弘至だと思ってるので。人間らしさというか、プロレスをしていて、今までできていたことが急にできなくなる瞬間っていうのがあるんですよ。当然「なんでできないんだ」という苦悩がある。ただ、その苦悩の期間を経ないと受け入れることもできない。苦悩するのも必要な時間なんじゃないかと思いますね。

――その一方で、棚橋さんには「俺は疲れたことがないんだ」という名フレーズもありますね。

棚橋 それは自分の生き方を示す言葉ですね。自分を鼓舞する。最近はネタっぽくなってますけど……(笑)。

――毎年、エイプリルフールの「疲れた」というツイートもおなじみです。

棚橋 1年に1回だけ。もう日付変わるのを待って「疲れた」って。誰よりもエイプリルフールを楽しみにしてるのが僕かもしれない。

――棚橋さんには旧来の新日本プロレスのイメージを変えた選手でありつつ、試合スタイルとしては昔ながらの組み立てを大事にしている印象もあります。ご自身では革新、保守どちらだと思われますか?

棚橋 僕は基本的には保守だと思います。僕が変えたのは、プロレスの外見(そとみ)だけ。昔ながらのおいしい和菓子屋さんが、洋菓子に押されているという時に「じゃあラッピングを変えてみよう」と。僕がやったのはそれで、伝統的な技術とか和菓子の味は変えてないんです。手に取りやすくした感じですね。

――プロレスの中の「レスリング」の部分に関しては、棚橋さんはどう捉えていますか。テイクダウン、バックを取る、あるいは絞め・関節技も含めた「レスリング」。

棚橋 これは難しいですけど、映画でいう伏線でしょうね。大事なのは最後に回収できるかどうか。僕の場合は、相手のヒザをよく攻める。それが試合の後半でテキサスクローバーホールドにつながったり、相手を動けなくさせて必殺技のハイフライフローにつながったりする。試合序盤のレスリングの攻防は、レスラー同士のマウンティングでもあります。選手それぞれでしょうね。武藤(敬司)さんはよく試合を「作品」と言いますけど、何を提供するか、どんな作品を作るかは選手次第なので。

――では、棚橋さんの中でプロレスのここは変えちゃいけないとか「これができるのがプロなんだ」という基準はありますか。

棚橋 当たり前ですけど、相手にケガをさせずに勝つというのがプロの仕事だと思いますね。相手を痛めつけるのがプロレスなんですけど、ケガをさせる必要はない。年間約150試合あるわけで、試合が終わっても、また次の日にどこかで自分たちの試合を楽しみにしてくれている人がいるわけです。だから「ぶっ殺すぞこの野郎!」と言いながら殺しはしない(笑)。でもギリギリのところまで追い詰めて勝つ。そして、相手に自分の足で歩いて帰らせる。それがプロだと思いますね。

――自分だけじゃなく相手も歩いて家に帰るのが大事なわけですね。

棚橋 はい、家に帰るまでがプロレス。そして明日も試合をする。それがプロレスです。

文・橋本宗洋

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