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 棚橋弘至、42歳。名実ともに新日本プロレスの“エース”として、リング以外でも精力的に活動をしてきた。団体の顔としてプロレス復興も牽引してきた棚橋だけに、幾多の栄光の陰で乗り越えてきた苦難の数も多いはずだ。そんな彼に、人気プロレスラーとして、一人の男としての本音、仕事に対する考え方を聞いた。

――40代は世間的に働き盛りと言われる一方で、厄年というものもありますよね。体に気をつけなくてはいけない時期でもあります。

棚橋 確かにそうですよね。僕はもう前厄、本厄、後厄抜けたんですけど、これから厄年の人はしっかり厄払いしたほうがいいです。僕は(厄払いは)後厄だけだったんですけど、前厄の年に左腕の二頭筋を切って、本厄で右の二頭筋を切ってるので。後厄の時はもう切れる箇所がなかった(笑)。「あぁ、厄払いしなきゃなぁ」というスッキリしない気持ちが、ケガだったり悪い流れにつながっていくのかもしれない。厄払いもそうですけど、やるべきことをしっかりやっておけば「俺は大丈夫」となる。無駄な心配がなくなるんですよね。厄を信じるか信じないかというより、できることは全部やっておくっていうのが大事なのかなと思いますね。

――体力的な面はどうでしょう

棚橋 僕もそうですけど一般の方もトレーニング次第だと思います。「学生時代は部活をやってたけど」という方も多いと思うんですけど、40代からトレーニングを始めるっていうのもアリだと思いますね。今は24時間営業のフィットネスジムも増えてますし。なので、時間を言い訳にできなくなってるんですよ。筋肉はトレーニングをやったらやった分だけついてくれますから。40代から体力をつけていくっていうのもアリだと思いますね。

――「もう若くないし」も言い訳にできないと。特に「こういうトレーニングがオススメ」、「ここを鍛えるといい」というものはありますか?

棚橋 大人に限らずですけど、姿勢を良くしてほしいですね。立ち姿だったり、デスクで仕事してる姿もそうですけど、何気ない姿に品が出ると思うんですよ。姿勢を保つには、腹筋と背筋のバランス、体幹が大事。そこを鍛えておくのが第一歩だと思います。子供の時は姿勢が悪いと注意されたりしますけど、大人になったら「背中が丸まってるよ」なんて言ってくれる人もいないじゃないですか。だけど姿勢を良くしていれば、どんな気持ちで仕事に臨んでいるのかも周りに伝わる。メッセージになるんですよ。

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(6月に発売された著書『カウント2.9から立ち上がれ 逆境からの「復活力」(マガジンハウス)』。『水道橋博士のメルマ旬報』で連載している『逸材逸話』をもとにまとめられた一冊。約20年に及ぶプロレス人生を振り返り苦悩や挫折を乗り切る方法が綴られている

――ここ数年の棚橋さんは、映画出演だったりメルマガの連載をまとめた本を出版されたり、新しいチャレンジもされていますよね。

棚橋 自分は運がいいなと思うのは、プロレスのためにプロモーションをやってきたことで、棚橋個人にも還元されてくる。そして、映画に出たり本を出すことが、またプロレスのプロモーションにもなっていく。全部がうまくつながって循環している感じですね。

――プロレスではキャリアを重ねていく中で、違うジャンルで新しいチャレンジをするというのはいかがでしたか。

棚橋 映画主演は大変でしたね。でもやり遂げた時に、本当に成長できたと思いました。「自分の知らない世界がこんなにあるんだ」っていう感覚は年齢を重ねたからこそ大事だし、それが伸びしろになっていくんだなと。だから僕はどんなオファーも、僕のところまできた仕事は断らないですね、基本。タブーもないですし、ケツも出します(笑)。

――プロレスにおいて「プロとしてこういう技術がないとダメ」、「こういう肉体でないと」という基準はありますか?

棚橋 それはないですね。全部、それぞれの個性なので。トップに立つ人間というのは、トップに立つだけの肉体や技術を自ずと手に入れると思いますし。まあまあの選手でいいと思えば、そういう体形になりますしね。コメントも含めて、すべてにおいて選手の志が表れるんです。それは強制されるものではないので。今の新日本プロレスでは、チャンピオンとしてオカダ(・カズチカ)がいて、G1では飯伏(幸太)が優勝。目には見えないけどファンが感じる番付みたいなものがあると思います。その番付の差というのは、選手がどうありたいかという熱量の差なんだと思います。

――エースとして新日本を引っ張ってきた棚橋さんですが、藤波辰爾選手が憧れだったり、もともと渋好みな面もありますよね。

棚橋 そうなんです。僕はもっといぶし銀の選手になる予定だったんですけどね。「いつのまにか藤波ペース」みたいな試合が好きで。

――でも実際には、団体を背負ってキラキラしたエースになるという。

棚橋 予想と現実がだいぶ乖離してますね。これはどんな仕事もそうだと思うんですが、本来やりたいわけではない仕事にどれだけ本腰を入れられるか、集中できるかっていうところに真価が出るんだと思います。好きなこと、やりたいことっていうのは本領を発揮できますけど、得意じゃないことにどれだけ熱量が出せるか。そこで仕事人やプロとしての価値が決まると思いますね。

文・橋本宗洋

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