U-18ベースボールワールドカップに臨む高校日本代表メンバーを発表した際、指揮を執る永田裕治監督はこうコメントした。
「今年4月に行った研修合宿が大変参考となり、選考委員の方々には走攻守バランスの取れた選考をしていただいた。短期間でチーム力を上げるため、国内合宿では選手、スタッフ全員の【力の結集、心の結束】をテーマに臨みたい。ワールドカップでは厳しい戦いになることは必至ですが、全国の高校球児の代表という誇りを胸に、国際舞台でもフェアプレーを体現し、一戦必勝の姿勢でチーム一丸となり初の世界一を目指します」
カナダで行われた2年前の前回大会。テレビ中継の解説で東京からアメリカvs韓国の決勝を見守った永田氏は優勝したアメリカに対してまともに力で挑んでは勝負にならないことを話していた。
翌年、高校日本代表監督に就任すると、自らの足で全国各地の高校球児を見て回った。昨年の甲子園準優勝の金足農・吉田輝星投手(日本ハム)を早い段階で発掘したのも永田監督だった。その行動力と情報網にはプロ野球のスカウトも驚いていたほどである。
思い返せば、2年前に大活躍した田浦文丸投手(ソフトバンク)の「チェンジアップが有効なのでは」とプッシュしていたのも永田監督だった。
しかし昨年のアジア選手権は3位。韓国、チャイニーズ・タイペイにも敗れ、監督として結果が伴わなかった。起用法、特に投手が一部選手に偏ったため、采配に疑問を呈す声も多かった。
このままではいけない。何かを変えなければ―――
アジア選手権後、1年後の世界を見据え、日本高等学校野球連盟では《国際大会対策プロジェクト》を新設。横浜前監督の渡辺元智氏、大阪桐蔭監督の西谷浩一氏ら代表監督経験者をメンバーに加えて、国際大会で勝つには何が必要かを検討した。
導き出した答えの一つが、センバツ大会直後の4月に行われた日本代表研修合宿。秋季大会、センバツ大会を視察して選んだ一次候補31名が参加した。
これまで一次候補選手が発表されることがあったが、高校野球の日程の過密さや地域の違いなどもあり、合宿をすることはなかった。高校野球として画期的な行事だった。
この研修合宿では、1.木製バットへの対応、2.国際試合での戦い方(国際審判員からのルール解説など)、3.ドーピング検査について、4.日本代表に求められるもの(国際大会対策プロジェクトメンバー)などを学んだ、
「日本一の先にある世界一」。日本の高校球児の大きな目標である夏の甲子園出場や優勝を尊重しながらも、そこで燃え尽きることにないように選手たちに意識づけた。
センバツを制しながら、夏は愛知大会2回戦で敗れた東邦の石川昂弥選手が「高校日本代表に選ばれたい」と敗戦直後にコメントしたのは、こういった目標の植え付けがあったからだろう。『高校野球=甲子園』ではなく、『甲子園から世界へ』。全国約15万人の高校球児がこの意識を持つことが将来的な理想でもある。
研修合宿が終わってからも、永田監督は春季大会、夏の地方大会と甲子園大会を視察してまわった。距離にすると、日本列島何往復分だろうか…。
8月16日の選考会議で決まり、20日の甲子園準決勝後に発表された20人の日本代表メンバー。そこには全国を視察してまわった眼が反映されている。
投手は9人。内野手兼任を含めると、過去最多の11人が投手をすることができる。投球数制限、10日間で最大9試合という日程を考慮したものだ。逆に20人という枠の都合上、外野手として選ばれたのは2人。投手、あるいは内野手に外野を守ってもらうことは、4月の研修合宿でも実践していた。
内野手もポジションを固定しない。これも去年の反省点を踏まえてのものである。外野手で2年生の横山陽樹(作新学院)を選出したのも、3番目の捕手ができる選手というのが理由の一つである。そんな選手枠のバランスもあって、決定後に日本一になった履正社からの選出はなかった。選考委員会に出席した関係者の1人は「外野手では最後まで履正社の選手も候補だった」と選手枠との絡みで苦渋の決断だったことを話している。
直接見て回った永田監督を中心に、選考委員の総意として選んだ20人。このメンバーをどう采配するかは、指揮官にかかっていると言えるだろう。
今回の20人の中で、夏の甲子園に出場できなかったのは7人。この7人は全て研修合宿参加者だ。代表選出をにらんで、夏休みの練習が不足しないように、大学や社会人の練習に参加できる形も整えた。浅田将汰投手(有明)も、「(自校の)新チームに混ぜてもらうだけでなく、色んな所で練習に参加させてもらった」と合宿時に話している。
さらに対戦相手に分析担当として、高知前監督の島田達二氏が日本代表に加わった。《国際大会対策》で練ってきた新たな代表の形が随所で見られる。
世界一になれるかどうかはやってみないとわからない。野球は相手と戦うスポーツ。対策をどれだけしても相手が上回ることがある。
でも1年間、これがいいと信じてやってきたことを発揮できての結果ならば、それでいいのではないだろうか。
私たちができることは一つ。高校日本代表を応援することである! 【松倉雄太】