街全体がインターネットにつながり、人々の効率的な生活を実現する“スマートシティ”を目指し、急成長を遂げている福岡市。人口増加・増加率は政令市中1位(2010年~15年)、10代~20代の割合も22%超で政令市中1位(2015年)、地価上昇率は1位(東京の約2倍の伸び)(2018年~19年)、税収は政令市で唯一6年連続過去最高(2018年)を記録している。レンタル自転車「メルチャリ」が日本で最初に走り、おなじみの屋台でもキャッシュレス決裁が可能だ。さらにオンライン診察や自動配送ロボットの試験も進められる。
第2の拠点を福岡に構えるLINEは、粗大ゴミの回収依頼をアプリ上で可能にするなど、他の自治体では実施していない独自のサービスを提供する。「首都である東京は慎重に意思決定しなければならないというジレンマを抱えていると思う。その点、福岡では意思決定が早いし、新しいことに取り組みやすい街だ」(鈴木優輔氏・LINE Fukuoka株式会社COO)
経済特区として軽減税率や規制緩和なども実施され、新規開業率では3年連続で全国1位になった。"スタートアップ都市"として、数多くの起業家が集まる。彼らを支援しようと、起業のいろはから資金調達、採用、法律の相談までをバックアップする場所を作ったり、電源やWi-Fi、工作のためのレーザーカッターなども完全無料のコミュニティスペースを開設したりするなど、市主導で地域活性プロジェクトを展開してきた。
IoT技術を活用したスマートロックのサービスを開発する株式会社tsumug代表の牧田恵理氏は「最初は東京・秋葉原に会社を作ったが、経済特区があるので本社を福岡に移転してきた」と話す。「行政との距離が近いし、サポートしてくれる多種多様な人がいる。コミュニティや会話が多いのはシリコンバレーっぽいし、"ゼロイチ"でも、大きく展開させるのにも便利な場所なんじゃないか」。
他にも「東京は交通面でストレスがあるし、クリエイティブな発想をしたいときは福岡の方が出るんじゃないか」(株式会社nyansの谷口紗喜子代表取締役)、「都心部の成功例を地方でも実現させるのは、難しいところもあるが可能かな」(キャンプ女子株式会社の橋本華恋CEO)と、福岡に期待する声が聞かれた。
また、外国籍の人が福岡で起業をした場合、最大で1年間の滞在許可が取得できることから、海外からやってきた起業家もいる。北京から来日したSMARTI株式会社でCEOを務めるハン氏は「日本で起業したかったので、福岡に来た」と話す。
29日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、そんな福岡市の急成長の立役者・高島宗一郎市長を交え、安倍政権の掲げる「地方創生」のヒントについて議論した。
■「リスクをとってチャレンジをする人が尊敬される社会に」
元九州朝日放送アナウンサーの高島市長は、司会進行のテレビ朝日平石アナとは同期で、新人研修も一緒に受けた間柄。「高島君…高島さん(笑)」と困惑しながら、「当時からガッツがあって、只者ではないという片鱗があった。政治家になるためにアナウンサーになったんですね」と問いかけると、「学生時代に読んだ本の中に、選挙が強くないと、やりたいことができないということが書いてあった。私の場合、地盤も看板も何もない人間なので、最初にアナウンサーをして、地域の皆さんに知ってもらった上であれば、やりたいチャレンジを思い切ってできる。朝の番組を担当していたので、もっと福岡の良いところが活かせるのではないかという想いで、キャッチフレーズは"取り戻せ元気"ということで出馬した。特に九州新幹線が鹿児島まで繋がるという時だったので、福岡が終着駅ではなく途中駅になってしまうのではないかという危機感があった」と説明。
その上で、「リスクをとってチャレンジをする人が尊敬される社会にならないといけない」とし、福岡の持つ強みを伸ばすことに集中していると話す。
「シアトルにインスパイアされ、出張で行くのは楽しいが、いざビジネスとなると"支店経済"だった福岡を強みに結び付けた。まず15歳~29歳の若い人の率が政令市一。学生の数が京都に次いで多い。そして東京や大阪に比べてビジネスコストが安い。ということは、失敗してやり直すことがしやすい街だということ。そこに資源を集中させて、伸ばす政策をやっている。これから日本全体をもっと良くしなくちゃいけないという中で、成長のロールモデルが必要だ。福岡市がガンガンやることで、地方でもここまでできるんだという事例を見せたい。言えないことだらけだが、物事を決める時に100人で決めるよりは5人で決めた方が早い。だから自分が前面に立って、リスクを取ってやっていく。そうやって、どこよりも早く実証実験やチャレンジを行う」。
国の規制や様々なハードルがある中、国家戦略特区も活用する。
「その自治体に応じたチャレンジをしていくという時に、政令指定都市は基礎自治体としては県並みの権限を持っている。さらに福岡市は国家戦略特区という国の規制を緩和できるような権限も持っているので、一気通貫でやってみせるということができる。例えば福岡は空港から都心が近い。でもその分、高さに規制があった。しかしこれはプロペラ機時代にできたものだったので、国家戦略特区を使って規制緩和をした。そうすることによって土地の価値が高まり、ビルの建て替えが進むことによって地価が上がる。そして仕事が増えていくことによって人口も増える」。
一方、"スマートシティ化"の副作用については「あるあるだが、"高齢者が…"という人は現れる。しかし、それはしょうがないし、やっていけばすごく便利なので、広がっていくと思う。例えば福岡市では道路に穴が空いている、ガードレールが曲がっているなど、街中に不具合があれば、LINEで送ってもらえばいい。そうやって議員でなくても市政に参加できるし、粗大ごみも、申し込みから支払いまでLINEでオッケー。これをやって見せることによって、全国の自治体が"うちもやって"となる」と語った。
■「全国に若い首長がどんどん増えてほしい」
一方、「税金で推進されている地方創生は地域から活力を奪い、さらに足腰を立たなくする結果を生み出すことになる」との考えを持つのが、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏だ。
渡瀬氏は9年間の高島市政について「成長するアジアの市場との関係をうまく取り込んだし、九州の中でも福岡の成長は断トツだ。優れた職員たちと一緒に国に働きかけていく市長の姿勢はすごく良いと思う」と述べた上で、「今やっている"地方創生"では地方は活性化しない、むしろ東京に人が集まる政策だ。現在、地方税率や規制がほとんどどこも一緒なので、東京と島根が同じルールでボクシングの試合をするようなもの。そして負けてしまった島根に地方交付税を渡してあげる、というような形になっている。いわば地方創生は絆創膏、交付税は入院費みたいなものだ。だからやればやるほど地方は衰退していく」と指摘する。
「例えばこの消費税を地方に移し、それがゼロの地方自治体が出てくれば、その地域で高い買い物をしようという人が増えるだろうし、もしかしたら銀座みたいな街ができてしまうかもしれない。そのように、税金を根本的に使ってやる地方創生をやらないといけないのに、今の国は何もできない。例えば福岡市もスタートアップ減税をやるために、わざわざ国家戦略特区を申請しないといけない。自分の所の税金をいじくるのにいちいち国に言わないといけないという、この状況が完全におかしい。これを変えていくということをやらないで、他のことをやってうまくいきましたっていうのは違うと思う。そう考えると、地方に若者がいてもしょうがないし、東京に出て自由な空気の中で仕事をして、どうしても地方に帰りたい人だけが帰ればいい」。
これに対し、高島氏は「福岡市は頑張って、税収を政令指定都市で6年連続過去最高にし、税収は400億上がった。しかし、これで交付金は300億くらい減らされている。頑張って随意契約を競争制に変えたりすることは嫌われるし、選挙にも不利に働く。一方、行革をやっていない首長なら波風も立たないので、マスコミにも良くやっていると書かれ、何もせずに楽々当選する。それを見たら、改革をする首長は出てきにくいだろうなと思う。もう一つは、やはりリーダーと規制緩和が大事だと思う。私もアナウンサー出身なので行政のプロではない。でも、私の目から見れば、同じ景色を見てもブルーオーシャンだということがわかるし、テクノロジーを使ってこういうことやったらすぐ解決できるよね、ということが閃く。そして、面倒くさい地元のしがらみや企業とのつながりを知らなかったから実行もできたと思う。だから全国に若い首長がどんどん増えてほしいし、地元の人たちには若い人が"こういう街にしたい"とぶつけられるサポートをし、選挙で通していくことが大事だと思う」とコメントした。
福岡でベンチャーキャピタルを運営するなど、地方のスタートアップ事情に詳しい、F Ventures代表の両角将太氏は「以前から起業する人やクリエイターは多かったが、高島市長が来て、より街全体で盛り上げようとなってきたのと思う。地方にも優秀な人はいるし、東京に行かなければいけないという渡瀬さんの意見もあるが、イノベーションの種は地方にこそあると思っている。そこからメルカリのような企業が出てくれば、地方はもっと活性化されると思う。そういう種に向けて、地方の若い人たちや、逆に東京からでも地方にめがけてくる人がもっと増えていいと思う」と話す。
今後の展望について、高島氏は「"国政進出か"とよく言われるが、やはり地方でどんどんロールモデルを作っていくのが日本を良くする早道。そして、失敗のリスクを取るのは行政も首長も難しいが、"コピペ"だったらできる。その意味で、私は地方でリーダーを続けていきたい。また平石さんとキャスターやる日が来るかもしれないが(笑)」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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