竹下幸之介を筆頭に新世代が台頭しているDDTだが“大社長”高木三四郎は選手だけでなくクリエイターの育成も重視しているという。
文化系プロレスとも呼ばれ、バラエティ豊かな試合が行なわれているDDTでは、試合や大会をプロデュースする能力を持った人材が求められているのだ。単に「○○と××が闘ったら面白い」ではなく、どんな試合形式で何をテーマとし、観客に何を感じさせるのかまで重要になってくる。
高木自身が男色ディーノやマッスル坂井(スーパー・ササダンゴ・マシン)とともにそれをすることでDDTを大きくしてきた。坂井がクリエイトした興行『マッスル』シリーズはプロレス界の枠を超える影響力を持っている。
赤井沙希など選手がプロデュースする興行も盛んで、最近では女性ファン限定興行『BOYZ』の新プロデューサーに彰人が就任した。地方大会でマッチメイクされている「選手丸投げ試合」も、クリエイター育成の一環と言っていい。
そんな中で台頭してきたのが今成夢人だ。DDTグループの映像スタッフにして、グループ団体ガンバレ☆プロレスのエース。試合を撮影し、インタビューを行なって見所紹介VTRを作り、なおかつ自分も試合をしてきた。
マッスル坂井直系の後輩になる今成は、4月にDDT系列のガンプロからさらにスピンオフしたイベント『ぽっちゃり女子プロレス』(ぽちゃじょ)をプロデュースした。少年時代からのぽっちゃり好きである自分の趣味嗜好、性癖を全開にした、いわば“公私混同”イベントだ。
しかしこのぽちゃじょ、単なるネタ、出オチ的な大会ではなかった(ネタ満載でもあるのだが)。メインイベントでは「ぽちゃじょのエース」として指名されたまなせゆうなと今成が一騎打ち。シリアスな真っ向勝負を展開している。試合後には、まなせが『Let It Go』をリング上で熱唱。ありのままの自分を受け入れ、愛することがテーマであることがミュージカル仕立ての展開の中で伝えられた。
プロレスの大会のラストがミュージカル仕立てというのは異例、かつ凄まじいインパクトがあった。グラビアタレントとしてもレスラーとしても、常に自分の体型と向き合わざるをえなかったまなせは、ぽちゃじょで初めて「そのままでいいと言われた」。ここまで明確にテーマ性(それも個人的なもの)を打ち出してくる大会は他にないだろう。
個人的な思いをプロレスの大会で、エンターテインメントとして昇華させる。今成の“プロレスクリエイター”としての手腕は、8月20日のぽちゃじょ第2回大会(新木場1st RING)でも発揮された。
(母への思いを試合中に吐露した今成に竹下も涙)
今回、まなせが対戦したのは「ポチャミネーター」。未来から来たぽっちゃり殲滅用マシンであり、まなせは未来世界でぽっちゃりを救う戦士「マナ・コナー」――というストーリーが展開された。第1回大会でありのままの自分を認めたまなせは、いよいよぽっちゃり全員の命運を握る存在になったわけだ。
試合には敗れたまなせだが、もちろんポチャミネーターである以上「2」での共闘も待っているのだった(大会中にその予告編が上映)。また試合中、まなせがデビューした団体スターダムのロッシー小川代表が映像で応援メッセージを送り、まなせが涙する場面も。
メインイベントでは、今成がKO-D無差別級王者の竹下幸之介とシングルマッチで対戦した。試合のキャッチコピーは「竹下恵子国際親善試合」。竹下の母、恵子さん(自称86kg)を招いての“御前試合”であり、そういう“ぽっちゃり的フック”を作った上で今成が(思い入れの強い)DDTのエースの力を体感するための試合だった。確かにこれはガンプロでもDDTでも実現しにくいマッチメイクだ。
なぜか竹下が使っていたレスリングのシングレットを着用してリングインした恵子さんは、見事な大阪のオカンっぷりで観客のハートを鷲掴み。竹下が場外でイス攻撃を仕掛けようとしたところに割って入り、息子をたしなめる一幕も。
足攻めを中心とした竹下の猛攻を受けながら、粘りに粘る今成。するとスクリーンに彼の心情が映し出される。20歳の時に母親を亡くしたこと。母親に自分のプロレスの試合を見せてあげられなかったこと。竹下を見守る母・恵子さんの姿に「俺の母ちゃんも生きていれば、同じように見守ってくれていたのかなと」感じていたこと。
(竹下の反則をストップしたのは母・恵子さんだった。一瞬で素にも取らざるを得ない息子)
そんな今成に、竹下はバイオニック・エルボーを打ち込む。竹下と今成、両方のプロレス人生に大きな影響を与えたアントーニオ本多が使う技だ。そしてフィニッシュはジャーマン・スープレックス・ホールド。竹下は一切の手抜きなしでキッチリ今成を仕留めた。竹下が泣き、おそらく観客も全員泣いていた。
試合の準備に映像制作、メインでの激闘でボロボロになった今成に、まなせは「辛くなって病みそうになったら、私のもとに帰ってきなさい」。そして今回は『魂のルフラン』をまなせと今成が熱唱。またもミュージカル・エンディングである。気がつけばまなせは赤のプラグスーツを着込んでいた。
今成はここでも、個人的な思いをエンターテインメントに昇華させた。“母性”を熱っぽく賛美するプロレスの大会なんて他にないだろうし、ここまで自分をさらけ出せるのかと圧倒される興行でもあった。
「こんなにキツいと思わなかった。でも自分の中でテーマというか、だんだんブラッシュアップされてきたものがあります。まだたまってるものが自分の中にある。第3回を求められたら作るしかないなって」(今成)
普段の興行とは異質であり、とにかく今成が動かなければ何も始まらないため負担も大きい。ぽちゃじょはそう頻繁に開催できるものではないだろう。ただ第1回、第2回の大会で、今成はDDTが誇る“異能のクリエイター”として確立した。噂が噂を呼んで(いつか開催されるはずの)第3弾はさらに規模の大きなものになるのではないか。
文・橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング