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 女子プロレス団体アイスリボンの勢いを象徴するのが、横浜文化体育館での大会開催だ。団体が細分化した現在、「文体」で大会ができる団体は決して多くない。そんな中で、アイスリボンは3年連続での開催にこぎつけた。

 9月14日、旗揚げ13年になる団体の総力を挙げての大会でメインを飾るのは、シングル王座ICE×∞の新王者決定戦。トーナメントを勝ち上がり、対戦することになったのは世羅りさと雪妃真矢だ。

 団体の魅力と実力を示すにふさわしいトップ対決であり、なおかつ2人はタッグのベルトを巻いたこともある名コンビ。盟友同士で大舞台のメインに立てる感慨と喜びを、どちらも感じているようだ。ただし「平和なフワッとした闘いにはならない。タッグパートナーだからこそ負けたくない」と雪妃。“身内”にこそライバル意識を持つし、信頼しているから激しい攻撃ができるという面もプロレスにはある。

 世羅の方がキャリアは長く、かつての雪妃には“世羅についていくパートナー”というイメージもあった。しかし昨年の横浜文体ではメインで藤本つかさと名勝負を展開。大晦日に初戴冠を果たすと、防衛を重ねる中で大きく成長している。一時はシングル、タッグ、トライアングルと三冠チャンピオンにも君臨していた。

 今回は王座決定戦(雪妃が藤本と時間切れ引き分け、規定により王座剥奪となったため)だが、現在のキャリアの充実ぶりでは雪妃が上回っていると言っていい。3本のベルトを失ったものの「積み上げたものは私の糧になっているので」と雪妃。実際、今の試合ぶりからは“エース感”とも言うべき熱と自信が伝わってくる。

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 一方の世羅もチャンピオンとして一時代を築いたが、このところはシングルのトップ戦線から離れていた。「私自身、トーナメントを勝ち上がるなんて予想してなかったですから」と世羅は言う。今年、大日本プロレスのオルカ宇藤と結婚。そのこともあってか「ギラギラしてない、どこか一歩引いているのを自分でも感じていました」。

 女子プロレスの世界には「結婚=引退」というイメージがある。なんとなくのイメージでしかないし、世羅自身に引退するつもりはまったくなかったが、例えばファンから引退について聞かれると「そういうものなのか」「やめるのが普通なのかな」という気持ちにもなってしまったそうだ。

 だが雪妃タイトルマッチが決まった今は「一歩引くのはもうやめ。むしろ前に出ていく」と決意した。現在の女子プロレスは男性ファン主体だが、結婚してからは女性と子供のファンが増えたとも。自身のキャリア、また業界での“人気”のあり方を考える上でも、世羅の“結婚後初シングル戴冠”は重要だろう。

「ユキ(雪妃)は、私だから大丈夫というところでエゲツない攻撃をしてくる“キラー雪妃”の部分がある。私はこれまで“キラー世羅”は出してなかったけど、今回は遠慮なくいきます」(世羅)

 取締役選手代表の藤本は、現在2冠を持つディアナのSareeeとシングルマッチ。勢いに乗るSareeeは女子プロ大賞を狙うために、前年度受賞の藤本に対戦要求した。

 試合を受けた藤本だが「勝てば取れる賞ではありません。私は女子プロレスを広めるために頑張ってきて、その結果としてもらった賞なので」と語っている。若いSareeeとは見えている世界が違うということか。この試合、勝ち負けはもちろんだがジャンルを背負う気持ちの闘いでもありそうだ。

 藤本は昨年の横浜文体で「女子プロレス黄金時代をもう一度」とアピール。そうした姿勢が評価されての女子プロ大賞でもあった。今回もSareeeと対戦することで、大きなテーマが見えてくる。藤本vsSareeeにせよ世羅vs雪妃にせよ、試合だけでなく大会だけでもなく“その先”を見据えた対戦なのだ。

文・橋本宗洋

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