多様性の叫ばれる現代、働き方も多様化、レンタル彼氏・彼女などのレンタルサービスや、退職代行などの代行サービスなど、ピンポイントのニーズに応えるビジネスが人気を呼んでいる。それだけではなく、ネット上には、添い寝屋、寝かせ屋、運動会屋、愚痴聞き屋、レベル上げ屋、謝罪屋、惚れさせ屋、別れさせ屋、夜逃げ屋、呪い屋、復讐屋など、さらにニッチなサービスも。
マーケティングライターの牛窪恵氏は、「最近、ラブホテルに行ってもゲームだけして帰ってきたというパターンが多いと聞く。2人で一緒に同じことをするとか、近くで別々のものをやるとか、そういう感覚が求められているんだと思う」として「ゲーム屋」、また、"おひとりさま"の女性が若者たちの話を聞く「祖母屋」のようなもののニーズが高まるのではないか、とした。
「こんな自分でも人の役に立ちたい。思う存分パシッてください」と話すしゅうこうさん(29)は、仕事を辞め、"することもなく暇だから"という理由で「プロパシられ屋」を始めた。女性の"一人ラーメン"に同行したり、花火の場所取りをしたりと、友達には頼みにくい些細な依頼を原則ノーギャラで受け付けている。「焼きそばパンとか牛乳を買ってきてという簡単な依頼から、引っ越し手伝ってっていうのもあるし、本当に何でも屋。頼まれればパシられますよって感じで」。
社会との繋がりが無くなり、気持ちが落ち込んだ時期だっただけに、飲み友達として交流が続く依頼者もいるという。「お金のためではなく、人と繋がるため」。再就職した今もパシられ続けている。
次に訪ねたのは、子育て真っ最中の菅沢ほのかさん(21)。育児の空き時間に請け負うのが「褒め屋」だ。オンラインで繋がった相手の魅力を伝え、褒めまくる。90分につき5000円、対面の場合は7000円で利用することができるという。自己肯定感が低いと話す番組スタッフも、岩崎さんに褒めてもらって「何を言っても"岩崎さんすごいですよ"と肯定してくれるので元気が出た」と笑顔。
「人を叩く、自分の正義を押し付ける行為が蔓延している気がして。そういう風潮が、自信をなくすとか、自分のことを肯定的に捉えられないとか、人の目を気にしすぎるというところに繋がっていると思う。褒め屋を通じて、そういうことに惑わされないで、ということを伝えていけるのではないか」。
そして、夏の終わりに大活躍したのが「宿題代行屋Q」だ。大学院生、社会人など6名のスタッフが所属、今年の夏休みはおよそ200件の依頼をこなしたという。「学年に合わせ、文字の感じとか言い回しを小学生や中学生っぽく変えている。もう受け付けられないくらい依頼が来た」(代表の板津知直さん)
なかでもユニークだったのが、夜の新宿に現れた、女性たちの長蛇の列の先にいた、「ハグ屋」のピクピクン☆さんだ。「1人20秒間抱きしめる。基本的には"おいで"と抱き締めて、名前を耳元に囁きながら"首筋にキスをしてもいいですか?"と聞く。"はい"の場合、優しく"すごいキレイだよ"とキスをして、"いいえ"の場合、“オラー”と強めに。キュンではなく、みなさんジュンとなる」。そんなハグの最中は周りを気にせず2人の世界に没頭できるよう、待機する女性たちは後ろを向くのがルールだ。
抱き締められた女性たちからは「気づいたら倒れていた。私なんかのために声帯を震わせていただいてとてもありがたい」「すごく自己肯定感を上げてくれる。かわいいとか言ってくれてすごい有り難い」「非日常な感じを味わえた。漫画の中の王子様みたいな感じ」と口を揃える。
「僕はイケメンでもないし、中学、高校と全然モテず、漫画家としてデビューしてもまったくモテず、フラストレーションが人の何倍もすごかった。そのおかげで、どうしたら女性にモテるんだろうと突き詰めて、ごまかして今に至っている」と話すピクピクン☆さん。年間10トンの一等米コシヒカリを生産する米農家、アーティスト、元消防団員など、様々な肩書きを持つ。ハグ屋としての活動は2014年にスタート、Twitterで呼びかけると、初回だけで300人が集まったという。この時は警察の指導が入り、即中止の事態となってしまったが、2016年には"全国ハグツアー"を開催、5000人の女性をハグしたという。
「モテなかったので、"フリーハグをしたら女性に無料で触れられるのではないか"という動機で、2、3人来てもらえればいいと思って始めた。それがやがて、どうしたら女性がもっとときめいてくれるか突き詰めるようになった。言い方を研ぎ澄まし、タバコをやめ、匂いを気にし、清潔感を高めていくうちに、面白半分で並んでくれていた女性の皆さんも、本気で抱かれたいと思ってくれるようになった。月に2回、多い時は週1回のペースで開催している。若い客だとお母さん同伴の小学生。"娘をお願いします"と渡された。娘が見ている前でお母さんを抱くこともある。旦那さんがいらっしゃる方にとっては不倫に入ると思う。でも、それでもいいじゃないかと」。この活動が楽しく、今年に入って漫画は1ページも書いていないという。
慶應大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は、若新氏は「なんでもかんでも競争して順番をつけたからだ。順番をつけると社会のシステムは合理的に動く。しかし皆が順番の上にはいけない。順番の上位にいけないと価値がないといって自信をなくした人が多いため、(ハグ屋のように)無条件に抱きしめるというのは時代の需要である」と解説した。
「自己肯定感について、誤解している人も多いが、分かりやすく言えば、努力して頑張って達成して得られるものとは異なり、"そのまま"を無条件に肯定されることが大事だ。例えば小さい頃に"点数をとれなくてもそのままで良い"と親に言われれば、子どもの自己肯定感が高まるとされている。競争社会で順位をつけられている人たちが、"そのままで可愛い"と言われて嬉しいのは、まさに時代のニーズそのものだ。また、人間は一人でいる時間が長いと、自分を認識できなくなる。つまり、誰かと会話し、その反応を通して自分を知るということ。だから新宿の都庁前に現れたハグ屋は、自分を映して、夜の異次元に繋がるミラーワールドだ。また、こういうサービスをしている人たちは、自分の存在価値や居場所を求めてやっている場合が多い。僕の会社でやっていた"レンタルニート"も、メンバーは"儲からなくても出番があること、用事ができるのが嬉しかった"と話していた。普通に就職すれば、すでに作られた中で求められた仕事をしなければならないし、基準に達しなければ怒られることもある。自分で値段設定をし、それがゼロであれば怒られなくて済むし、自分がしたいことならそれでもいい。そうやって皆が満足する、これがちょっとずつ増えている」と語った。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)