私財をなげうち取り組む難病の社長も…”ヤクザの5年ルール”に実は柔軟性?元暴力団員の更生を阻むもの
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 2017年の検挙者は21万5003人で、このうち再犯者は10万4774人、さらに72%が無職だったという。再犯を防ぐための受け皿づくり、就労の確保がいかに大切かを考える。

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 北海道・札幌に、元受刑者など、過去に罪を犯した人たちを積極的に雇用している企業がある。“被害者を増やさないために再犯者を減らす”として、半世紀に渡り元受刑者たちの支援を続けている北洋建設だ。創業して以来、500人以上の元受刑者たちを雇用してきた。そんな創業者の父の思いを継ぐのが、小澤輝真社長(44)。「元犯罪者を保護することは、被害者を保護することになる」と語る。

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 小澤氏のもとには毎日5、6通の手紙が全国から届く。送り主のほとんどは傷害や窃盗、薬物事犯などの罪で服役する受刑者たちだ。7年前に脊髄小脳変性症という難病を発症、言語や運動の機能に障害を持っているが、それでも自ら全国の刑務所など刑事施設を訪ね、手紙の送り主たちと面接を行ってきた。

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 採用には一定の基準を設けているが、やる気さえあれば誰にでもやり直しの機会を与えるのが小澤氏の方針。「雇ってみないと分からない。ああ、これはダメだろうという人間がすごい化けちゃうので。それが嬉しい」。現在、社員60人のうち、22人が元受刑者や前科者だ。

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 「ここでは一般の人と同じ扱いだ。元ヤクザということも関係なく、ありがたい」。そう話すのは、山口組の2次団体の元組員だった木下健一さん(仮名・37)だ。17歳でヤクザになり、窃盗未遂などの罪で3度服役。2年前、出所して、身一つで入社したという木下さん。月給20万円から社員寮費の5万円弱が引かれ、残りを貯金に回している。

 しかし、北洋建設にたどりつくまでは、元ヤクザという肩書きが付いて回り、職探しは困難を極めた。「やっぱり雇ってくれない。面接に行っては断られる」。たとえ経歴を隠して職を得ても、他にもハードルが待っている。「銀行の受付で"お客様!反社会的な組織に加入されていましたか?ちょっとうちでは…"という話になって」。暴排条例によって、ヤクザを辞めても5年間は"暴力団関係者"とみなされ、銀行口座が開設できなかったり、携帯電話や賃貸契約が結べなかったりと、様々な制約を受けることになる。これが就労に大きな足かせとなっており、再びヤクザに戻る者も後をたたないという。

 小澤氏と出会えたことで職を得ることができた木下さんが一番大事にしているものが仕事道具だ。働きだして2年。どんどん仕事が好きになり、この環境を失わないためにも「2度と再犯しない」と誓う。「できた人間関係は大事にしたいし、信頼は壊したくない」。

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 山田亮介さん(仮名・39)は、4年前まで関東地方にある6代目山口組の2次団体にいた。今年始めに出所し、北洋建設にやってきた。山田さんが見せてくれたのは、銀行の通帳だった。ある銀行が北洋建設の就労支援に賛同、真面目に仕事をしていれば、5年を経ずとも口座開設を認めてくれるようになったのだ。「口座があれば貯金もできるし、給料も受け取れるし、引き落としもされる。やっぱり嬉しかった。初めて人として認められたんだなと思って」。小学生になったばかりの娘がいる山田さん。もし口座がなければ給食費などの引き落としもできなかった。今後、自分名義で会社近くにアパートを借りようと計画している。

 しかし小澤氏によると、罪を犯した経歴を持つ社員の9割が半年以内に突如行方をくらませたり、辞めてしまうという。この日も、失踪した元社員が警察に勾留されているとの連絡が入ったため、担当者が弁護士と対応を相談していた。「1年前にうちで働いていた人間が突然いなくなっていて夜逃げして、1年後の今、釧路警察署に勾留されている」。

 課題はそれだけではない。北洋建設では、彼らが出所し、会社に来るまでの交通費や生活用品一式などの費用を負担している。そのために、小澤氏は土地や建物を売り払うなどして工面してきた。そうまでして受け入れる理由は、1割でも会社に残ってくれる社員がいるからだと明かした。「(続けてくれる社員たちは)すごい頑張ってくれているから、うちにとっては宝物だ」。

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 小澤氏と親交のある東京未来大学の出口保行教授(犯罪心理学)は「本当にすごい人だ。支援することを諦めない。小澤社長は絶対に嫌がらない。あとどれくらい生きられるか分からないという中で、自分の持っているものを売りながらやっている」と話す。

 一方、ノンフィンクションライターの石戸諭氏は、「再犯率の高さを考えれば、社会が復帰を受け入れず、どこにいっていいかわからないという状況があるからだ。これまでも職をあっせんしてくれる保護司や、小澤社長のような個人の善意に頼りすぎていたが、もはや国の制度が限界に来ていると考えなければならない。小澤社長が私財を抛っているということも、そういう見方をしたほうがいいのではないか」と指摘する。

 実際、小澤氏は「国の助成金の充実」「自らオープンにしている場合以外は、協賛している企業名すら分からない」など、国(法務省)に訴えてきた。

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 暴力団の離脱者のうち、5.7%(2017年)しか就労できていない。背景にある社会の偏見も難しい問題だ。リディラバ代表の安部敏樹氏は、「パートナーシップを結んでいる企業からは、詐欺で捕まった人なのに、"包丁を持たせるのは危険なんじゃないかとい偏見があるという話しを聞いた」と話す。出口氏も「犯罪者だった、暴力団だったとラベルを貼られてしまうと、自分では取ることができないといわれている。このラベルを貼っているのは社会だ。刑務所を出たら普通の社会人だし、普通の国民だ」と強調する。

 また、作家の沖田臥竜氏は「どこまでいっても本人次第だと思う。ヤクザをやるということはあかんことだと分かった上で進んだ道のはずだ。それを辞めた、社会が迎えてくれないからまた戻る、というのは言い訳にもならない。自分がすぐに仕事ができたのは、ヤクザをしていた頃、辞めるなら助けてやるというカタギの人との人間関係を自分で築いてきていたからだ。人を助けたことで、辞めてからでも助けてやるという社長が出てきた。そういうことが大事だし、難しいというのは甘えだと思う」と話す。

 その上で、「ヤクザをやっていたからやりにくいというのは当たり前で、社会復帰するにあたっても、すぐにあれができる、これができるというわけにはいかない。ただ、"5年ルール"も、カチッとしているわけではなく、人によっても違う。銀行口座についても、本人が定職に就いて、認められれば作れる時がある。自分は最初に暴力団の登録を外した段階に作れると言われた。やっぱりこれも本人の頑張りだ。自分もその5年間、人よりも働いてきたと思う。世間に迷惑もかけてきたので、それが当たり前だと思っていた」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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