特定の意見を持つ企業や団体が政府に対して影響を与え、その目的を達成する「ロビー活動」。街の人に聞いてみると、「知らないです」「批判的というか、あんまりいいことではないような感じには受け取りますけど」「いろんな調整ごとをしなければならない場面はビジネスでもたくさんある。必要なものなんじゃないかなと思います」といった声があがる。
実は日本でも、仮想通貨事業や水素自動車など幅広い産業でロビー活動が行われている。そんなロビー活動の最前線をAbemaTV『けやきヒルズ』は取材した。
■日本では“汚職”“不透明さ”のマイナスイメージも
日本ではまだメジャーではないロビー活動だが、その活動を請け負う会社がある。PR会社「マカイラ」は、ロビイングなど社会をより良くするための活動を行っている日本では珍しい会社だ。
「実世界を変えていくような産業がどんどん出てきた世の中において、そういったベンチャー企業だとか新興企業の声をどうやって消費者、ユーザー、政治、永田町、メディアに伝えていくかを担っている」(藤井宏一郎社長)
藤井社長は元官僚で、その後グーグルに務めた経験からロビー活動の重要性に気付き会社を立ち上げた。
「例えばドローンに関しては、むかし飛行機は我々の実生活とは関係ないはるか上空を飛んでいたわけで、それがピュンピュン飛んでいるような世の中になったら人々はどう受け止めるんだろうということに関して、社会的合意がなかった。どのような社会合意形成もしくは規制を入れるのかをパブリックアフェアーズ(公共に対するPR活動)する」(藤井社長)
今回、衆議院議員にロビー活動する現場に特別に同行させてもらうことができた。この日向かったのは議員会館で、会うのは自民党内閣第二部会長の平将明衆議院議員。ロビー活動のテーマは「AIの社会実装」についてだ。AIベンチャーのABEJAとともに、平議員にプレゼンをしてパイプ作りを図る。
少し緊張気味のABEJAの担当者に、すかさずマカイラが助け舟を出す。
「中国は13億人というデータの量でプッシュしてくる。日本のAI産業は量じゃ絶対勝てない。偏りのないデータを用意しないと、AIとして“倫理性”“多様性”のあるAIを実装できない。そこを国として確保していくことによって、国際競争力につながると思っています」(藤井社長)
約1時間のプレゼンを経て、平議員の反応も上々のようだ。「ベンチャー企業の皆さんはどこに行っていいか分からないと思う。役所では規制や法律など文書に書いてある以上のことはできないので、そこで行き詰まっちゃって『誰に相談すればいいですか?』という時に、『ここに相談すればいいんじゃないの』っていう機能があるのはいいことだと思う」。
今回の手応えについて、「いろいろご理解いただいて、これからの動きに関する強力な味方を得られたんじゃないかなと思う」と藤井社長。
世界では盛んなロビー活動だが、まだまだ日本では“汚職”や“不透明さ”などマイナスなイメージが残っている。しかし、藤井社長はこれらの課題を踏まえたうえでロビー活動に対して野心をのぞかせる。
「ロビイングは政治資金の側面も含めて、各国で規制が入っている。声なき声をどうやって社会的責任として伝えていって、政治との橋渡しをしていくかという、より大きなマスの思いをどうやって政治につなげていくかっていうのは、我々の社会のチャレンジだと思っている」(藤井社長)
■「ナラティヴ(語り口)」が1を10に
欧米ではロビー活動は当たり前で、アメリカの政治資金監視団体によると、2017年にはアップルなど大手IT企業5社が6000万ドル(約64億円)をロビー活動に費やしているという。
では、日本ではなぜ今までロビイングが行われなかったのか。かつてヨーロッパでロビイストとして活動していた多摩大学大学院の藤井敏彦客員教授は「日本に古くからある“陳情文化”が原因。政府に対しての苦情が多く、既存の殻を破っていくという発想がなかった」と指摘。今後の課題については「進歩する技術に対してルールメイキングが追い付いていない。ルール作りを立案する能力を身につけていく必要がある」とする。
では、その殻を破るためには何が必要なのか。『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏は「ナラティヴ(語り口)と実装(社会で実現すること)」をキーワードにあげ次のような見方を示す。
「テクノロジーはどんどん進化していて、もうテクノロジーで簡単に解決できるサービスは出尽くしているとよく言われます。AIや自律走行車、ドローンなども、経済や社会の仕組みを根本から変えていくテクノロジーであって、これまで規制されていた産業にイノベーションを起こすとなると、なぜそのプロダクトやサーヴィスがわたしたちにとって重要であり受け入れるべきなのかを社会にしっかり伝えていかないといけない。プロダクトやサーヴィスを社会に落とし込む際に、そうしたナラティヴの質が非常に重要になってくる」
また、このナラティヴは“0から1”を生み出すアイデアやイノベーションの領域よりも、“1を10”にする実装居面の際に必要だといい、「考えついた“1”というものを社会に実装していく際、誰がどうその“1”の価値を語るのかが、“10”にいくために重要。例えば、企業は通常、消費者や従業員に向けて自社のプロダクトやサービスの価値を伝えればいいが、規制産業となると、自社の製品の凄さだけではなくそれが公共の利益のためになぜいいのかを社会に向けて、あるいは規制当局に向けてきちんと語らないといけない。自分たちのビジネスの目的と社会の目的をちゃんとすり合わせるひとつのストーリーが必要で、それができるかどうかで社会実装の成否が変わってくると思う」と述べた。
12日、科学技術・IT担当大臣に就任した竹本直一氏が「行政手続きの『デジタル化』と書面に押印する日本古来の『はんこ文化』の両立を目指す」「(会長就任は)山梨県の国会議員から頼まれた」と発言し批判を浴びたが、松島氏は「100歩譲って、はんこ文化の大切さを語るならまだしも、『頼まれたから』ということしか語れないと、どうやって社会を動かしていくのかというビジョンが全然見えない」と指摘。一方で、ナラティヴは良い面だけではないといい、「トランプ大統領はナラティヴの名手でそれがポピュリズム政治につながっている。大事なのはその物語を受け取った僕らがどのナラティヴを社会として選んでいくのかをしっかり示していくこと。それがけっきょく、何を社会実装していくのかにつながっていく」と訴えた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)