「印鑑撲滅を!」はんこ文化を巡る論争はデジタル化が進まない日本社会の縮図か
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  「印鑑をデジタルで全部処理できないかという話なんですが、印鑑を業としてる人たちにとっては、それは死活問題なので待ってくれ、という話になっているのですが…」「一方に印鑑という日本古来の文化があり、他方にデジタルガバメント、究極の目標であるデジタルの社会がある。知恵を絞って考えたい」。

 竹本直一IT担当大臣の就任以来、ネットを中心に話題になっているのが"印鑑"の問題だ。5月には「デジタル手続法」が成立し、菅官房長官も「利便性を向上することで、国民や企業の負担軽減を図るものである」と"はんこレス"の利便性を強調する中、当の竹本大臣が「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」(通称「はんこ議連」)の会長であることから、その推進に待ったがかかるのではないかとの懸念が出ているのだ。

 印章業界関係者サイドからは「商習慣に根付く印章制度を急変させることで混乱を招く恐れ」「本人確認として有用でセキュリティにも優れている。印影から似せて作ることは可能だが、手彫りである本物と全く同じではないし分析すれば違いは判る」「中小零細企業が多く、少なからず需要は減り廃業に追い込まれるケースも増えるだろう」「過疎化地域では廃業はより急速に進み、印鑑が手に入らない状況に陥る」といった主張がなされている。また、「サインは簡単にできてしまうから怖い。大事な決定の時に印鑑を押すからこそ、めんどくさいが重みがある」といった声もある。

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 一方、はんこ業界を取材している原隆・日経ビジネス副編集長は「実は銀行そのものは意外と進んでいて、行内はすでに電子化され、印鑑は一切無くなっている。印鑑が必ずしも必要なものかと言われると、そうではないことが立証されていると思う。今回の議論のポイントは、はんこがないフローを別で用意し、使いたい人は使い続けていいという"任意化"であって、はんこを完全になくすという話ではない。そのことを含めたデジタル手続法が議論になる予定だったが、今年は見送られてしまった。日経ビジネスの9月16日号でも取り上げたが、業界に取材を申し込むと、やはりネットで悪者扱いされていることもあり、"どのように描かれるのか?"と、すごく警戒された。実際に取材をしてみると、デジタル化の流れは止められないし、反対ではないという意見の方も多く、印鑑をどうデジタル化の流れに乗せていくかを考えていきたいということだった。印鑑に慣れている年配のことも考えて、いい具合にシフトできないか、というスタンスの方が多かった」と振り返る。

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 こうした状況に対し、「混乱しているのはこっちだ!」「印鑑を撲滅したい」と反論するのが幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏だ。

 箕輪氏は「シャチハタが出てきた時点で、セキュリティに強いというのはまやかしだということがバレているはずだ。僕がだらしないのが大きいとは思うが、会社を登記する時などに、どの印鑑が実印か分からなくなって、その都度買いに行って印鑑登録して証明をもらい、それから印鑑を押している。銀行口座も、どの印鑑で登録しているかわからなくなって、いつも勘で押して祈る(笑)。これだけ世の中が進歩しているのに、こんなことがずっと必要だということには違和感しかなく、毎回イライラさせられている。はんこが代替されて何かになるのではなく"はんこはもう文化になってください。さようなら"という話だ」と指摘。「文化とツールで分けないといけない。温泉で浴衣を着るといい気分にはなるが、はだけるので便利ではない。いわば印鑑は"手続きする時は浴衣で来い"とを言われてるのと同じだ。着たい人はプライベートで着ればいいが、それをオフィシャルの場で要求しつづけるのはおかしい。こっちはこっちでオンラインで勝手にやる。お前らはオンラインの手続きを担おうと思うな、ということだ」と話した。

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 さらにタレントの池澤あやかも「はんこが大嫌いだ。他の人の抽斗から取って代理で押すようなこともおかしい。100均では大量生産しているわけで、偽造もできてしまうということ。セキュリティに優れてなんかいない。情報セキュリティの3要素を知っているのか?"機密性・安全性・可用性"だ、覚えとけ!」と怒りを露わにした。

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 「海外との契約はサインがメインだ。"こんな重要な書類、サインでいいの?"と思ったことがある」と振り返るカンニング竹山に、「慣れの問題だ。昔使っていた銀行が全てサインだったので、とても楽だった」と話すのが慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授だ。夏野氏は「僕の名字は世帯数が少ないので、ほとんど売っていないし、ネットで注文しても1週間かかる。本当に不便で、いい加減にしろと思う。そのためだけに3Dプリンタを買おうと思ったくらいだ。印鑑を無くせば銀行員の数も減らせるし、だいたい業界はお年寄りをバカにしすぎだ、なめんな!」と憤る。

 「この問題が象徴しているが、日本は"デジタル化しましょう"という議論になる、利害関係のある業界の代表者を呼んじゃう。これからの社会のためにどうするか、という話をする時に、経済的利害が対立していて、呼んだら反対することがわかっている人を入れてはダメだ。今回も、はんこ業界を呼んではいけない。政治家が何かを撤廃しようとする時には、必ず一部からの抵抗に遭うが、それらを上回る支持が得られれば突破できる。つまり、国民が興味・関心を持たなかったから今があるとも言える。まずははんこ議連に入ってる人には投票しない!というくらいの気持ちが必要だ」。

 こうした意見を受け、原氏は「はんこをめぐる議論は日本の縮図だと私も思う。実は電子政府の議論は2001年からやっていて、もう18年にもなる。にもかかわらず、まだデジタル手続法をやっているし、2004年度末にはほぼ全ての行政手続きがオンライン化されているが、利用率が上がらない状態が続いている。なぜこうなったかといえば、そもそもオフラインでも使わないような手続きまでオンライン化し、"捺印した書類が必要"と書いてある法律も変えていないために、結局は印鑑が必要になっているからだ。民法など、様々な法律に印鑑の存在が入っているので、それらを全部変えないといけないのと、印鑑登録は国ではなくて自治体単位なので、そこも変えていかないといけない。本気でやるんだったら法務省もちゃんとやらないといけないが、結局みんな自分たちの縄張りを守ろうとするので、真剣に議論する場がない」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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