初々しい――。そんな言葉がぴったりと当てはまる、デビュー戦だった。フウガドールすみだの鈴木翔太が第19節のFリーグ選抜戦で初めてFリーグのピッチに立った。そこは、鈴木にとって夢にまで見た場所だった。
「自分は幼稚園の頃から、Fリーグが開幕した頃から見に行っていて。ずっと追いかけてきて、フットサルを。だから、本当にうれしかったです」
6歳でフットサルと運命的に出会う
2007年9月23日――。日本初のフットサル全国リーグが開幕したその日、代々木第一体育館に鈴木はいた。両親がフットサルをやっていた影響で連れられてきた6歳にとって、人生を変える出来事になった。「それからずっとハマって」。毎週のようにFリーグの会場に足を運び、選手たちと写真を撮ってサインをもらった。
ボールを蹴り始めたのは近所のサッカー少年団だった。ただ、心の中にはいつもフットサルをやりたいという思いがあった。そんな時、両親からフウガドールすみだがU-12チームを発足させると教えてもらった。「僕、絶対に行きたい!」。セレクションを受けて合格。自宅のある埼玉県川越市から、練習場のある東京都墨田区まで片道1時間をかけて通った。
鈴木が幸運だったのは、当時のチームで指導にあたっていたのが、トップチームを率いる須賀雄大監督だったことだ。すみだのスタイルを築き上げた名将から直接教えられたことで、フットサル選手として加速度的に成長していく。エッグス(U-12)を皮切りに、ウイングス(U-15)、ファルコンズ(U-18)とカテゴリーを上げていった。
高3で迎えた今シーズン、すでにファルコンズでは絶対的存在となっていた鈴木を飛び級でトップに昇格させる話がクラブ内で持ち上がった。しかし、鈴木の答えは「夏まで待ってください」だった。8月に開催される高校生年代の日本一を決める全日本U-18選手権大会にどうしても出場したいというのが、その理由だった。
「中途半端にトップに呼んで、連携不足や怪我をしたりしたら、本人も悔いが残ってしまうので」と須賀監督も鈴木の考えを尊重。そして、8月の大会終了後からトップの練習に合流し、この日のデビューを迎えた。
163センチ、56キロ。幼く見える風貌と相まって、ピッチに立つと1人だけ中学生が混じっているようだ。ただ、須賀監督が「彼の良さはこういう舞台で、堂々と普通にプレーできるところ」と言うように、デビュー戦でも物怖じする様子はまったくなかった。
高校卒業後は大学に行かず、フウガドールすみだのスクールコーチとして働くという。そこには強烈な覚悟がある。
「ずっとフウガでやっていきたい。フウガを引っ張る選手になりたい」
フットサル選手を目指してボールを追いかけてきた。そして本当に夢を叶えてFリーガーとなった。ただ、そこがゴールではない。18歳は、すでに次の夢を見据えている。
文・北健一郎(SAL編集部)