“児童虐待VR”に衝撃広がる…子育て世代になった被害経験者からは「親の気持ちに共感」との声
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 「風呂場に連れて行き、シャワーで顔に冷水をかけた。結愛は苦しそうで嫌がっていた。殴ったのは全力というわけではないが、手加減はしなかったと思う」。東京・目黒区で5歳だった船戸結愛ちゃんが虐待され死亡した事件。母親の優里被告に続き、父親の雄大被告の裁判員裁判で凄惨な事実が次々と明らかになる中、YouTubeにアップされた1本の動画が注目を集めている。

 タイトルは『児童虐待体験VR』。"精神的なストレスが生じる可能性がありますので、ご注意ください"という注意ともに始まるのは、実際に起きた虐待事件をもとにした、親からの虐待を受ける子どもの主観映像。視点を動かすことができるため、状況がリアルに感じられるようになっている。迫りくる親の姿。目の前で繰り返される親の苛立ち。そして、ベランダにタバコを吸いにきた父親に"2人だけの約束な。内緒だぞ"と、手にタバコを押し付けられる。また、"子どもがいない時はよかった"という両親の会話の後には、洗剤を飲ませられそうになる。

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 今年発表されたデータによると、児童虐待の相談や通告を受けて対応した件数は15万9000件と過去最多を更新。児童虐待を防ぐため様々な対策が行われている。そんな中で登場したこの動画。制作したのは映像制作会社で、虐待の周囲にいる人たちの"気づき"や通報する"勇気"を促し、早期発見につなげるのが狙いだという。一方、専門家や行政との連携はしていないという。心理カウンセラーの山脇由貴子氏は「誰に向けて作っているのか分からない。リアリティがなく、本当はもっと酷い。被害者が見ることでフラッシュバックする可能性もある。注意喚起も必要だ」との見解を示している。

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 小学生の頃に父親と継母からの虐待を経験している橋本隆生さんは「先生との信頼関係が築かれる前に引っ越しをしてしまうと友達もできないし、当然、その親と話すこともない。だから本当に知られることがなかった。叩かれて痛いのも嫌だが、それ以上に辛い、どうすることもできない絶望感や、助けを求めることができない孤独感、そして長く続くことを映像で表現するのは難しいのではないか。僕のケースとは全く違うので、あまり入りこめなかった。昔に比べれば虐待を通報する電話相談などの間口は広くなっているので、あえてこういうことをしなくても、十分に拾いやすい環境にはあるのかなという気はする」と話す。

 また、幼少期に母親と実兄から毎日のように殴る蹴るの暴力を受けていたというKさんは、「加害者が見ても変わらないと思うし、むしろ"俺はここまで酷くない。だから平気だ"と思ってしまうだろうし、虐待していることを自覚している人はおそらく見たがらない。ご家族や、加害者よりも立場の強い人が一緒に見てあげて、"お前もこうだよ"と言ってあげることが大事だと思う」と指摘する。

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 元経産キャリアの宇佐美典也氏は「意味がある取り組みだと思うが、"こんな小さなことから虐待する側に回ってしまう可能性がある"というリアリティを見せないといけないなと思う。例えば子どもがなかなかご飯を食べず、保育園や幼稚園の時間に遅れてしまいそうになるといったことはよくあるし、イライラして怒鳴った経験は、それこそ何百、何千万という人がしているだろう。そこからエスカレートするところのリアリティや、こういうときに父親はどのような役割を果たすべきか、といった点がなく、一方的に暴力を振るっている映像を見せるだけでは、どうすればいいかが見えなくなってしまう。ここから教育の材料として使えるよう、どんどんディテールを詰めていくのはどうか」と提案した。

■親の気持ちに共感も

“児童虐待VR”に衝撃広がる…子育て世代になった被害経験者からは「親の気持ちに共感」との声
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 前出の山脇さんは、児童虐待の予防は難しいとしつつ、「児童の心身ケア・保護者援助(指導)」「加害者ケア」「児童の一時保護(児相)」「児童養護施設・里親・民間シェルターなど」を挙げている。虐待の被害児童が、成長して親になったとき、今度は加害側に回ってしまうケースもある。

 橋本さんも、子育てやコミュニケーションに不安を抱えてきた。「そういう家庭で育っているので、愛情を知らない。そんな自分が愛情を与えられるのかと考えた。ただ、親にして欲しかったことは明確にあったので、それをそのまま実行しようという考えに変えた。そこから楽になった。厳しいしつけをすることもあったが、絶対に自分の経験を繰り返してはいけないと思い、自分なりに感情をコントロールする方法などを勉強した」と明かす。

 Kさんの場合、被害を経験していながら、最初に結婚した時の子ども、そして再婚相手の連れ子に肉体的・精神的虐待をしてしまった時期があったという。「今回のVRの父親の考えはよく分かる。家庭の中で自分が一番偉いと思い、子どもたちや奥さんに対して"そんな嫌そうな顔をするな。そんな目をするな。俺が悪いのか。お前らが俺をこういうふうにさせているんだろう。分からないのか"と。職場でのストレスもあったが、自分の理想の家族、理想の子ども像、理想の妻像というのがあって、それに近づけていないことに対する思いが強すぎて、それがストレスになっていった。母と兄から暴力を受けるのが当たり前だったので、人に従わせるための最も簡単なツール、手段が暴力だった」。

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 そうした状況から脱することができたのは、現在の妻の必死の訴えがきっかけだった。「危険を顧みず、身を挺して"あなたはDVだ"と言ってくれた。そこから更生プログラムに通うことができた。それまでは自分が虐待をしていたと思っていなかったが、それを認識することもできた。やっと普通の人になれたとは思うが、そうでなければテレビの"向こう側"に映る人になっていたかもしれない」。

 作家の乙武洋匡氏は「日本は血縁主義で、血のつながりを重視する風潮が強いので、里親やシェルターが機能しにくい。本来はもっとこういう所が役割を担って、子どもの新しい居場所として機能していくことが望ましいと思う。また、そもそも血のつながりをそこまで重視する必要があるのか、国民的に議論することも必要だ」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶動画:議論の模様(期間限定)

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