少女像などに対し脅迫や激しい抗議が相次いだことから中止になっていた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」。主催者の愛知県側から「不自由展」の実行委員に対し提示された条件をもとにした対策を講じ、きのう午後、ついに展示が再開された。
入場は1回あたり30人のガイドツアー方式となり、初日は2回、30人ずつの入場に対して1358人が抽選に参加。入場する前には手荷物を預け、金属探知機などによるセキュリティ強化も実施された。さらに同展の実行委員会は電話での抗議、いわゆる「電凸」に対しても、出展作家の高山明氏や学芸員が直接答える「Jアートコールセンター」を立ち上げた。
こうした状況の下、午後2時10分の回は60分(鑑賞20分、ディスカッション20分、パフォーマンス20分)、午後4時20分の会では、40分(鑑賞20分、昭和天皇の肖像を燃やす映像の上映20分)のツアーが実施され、中止になった経緯や作品への説明資料も配られた。また、映像作品については一部のみを見て立ち去る人も多く誤解を生んだとして、今回は通路を抜けた後の空間に大きなモニターを設置し、来場者全員で鑑賞した。
参加者からは「少女像は言ってしまえば何の変哲もないし、薄暗くてドロドロとした空間でもなく、思ったよりも明るかった。やっぱり以前お蔵入りになったものを公共の場で見られるようにするというアイデアが大変興味深かった」「ここに至った事情を知っているから、真剣に見ていたと思う」といった声が聞かれ、写真撮影が不可だったことについても「本当は変な話で自由だろうが、今日に限ってはやむを得ないのではないのか」との意見も聞かれた。
■「表現の自由を叫び続けた知事が、どうしてこういう決断をしたのか」
今回の展示再開について、同日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した山田肇・東洋大学名誉教授は「愛知県が作った検証委員会の報告書では、津田大介芸術監督について"ジャーナリストとしての個人的野心を優先させた"と強く批判していた。これに対してなんら対応がされないまま、以前と全く同じ展示を再開するということは、その"野心"を認めたことになる。すごく不思議だ」と指摘する。
小林義寛・日本大学教授氏も「日本の美術館はどこへ行っても並ばなければいけないし、写真も撮れない。つまり、そもそも見る側の立場としては根本的に自由ではなく、制限されている。これをさらに厳しくしていくということは、それ自体が表現を不自由にしている展覧会でしかなくなってしまっている」と問題提起した。
また、作家の吉木誉絵氏が「現代美術には痛みを伴う場合や政治性が内在する場合が、それ以前の作品よりも非常に多いという特徴があると思う。こうした問題はアメリカでも同じようなことが起こっていて判断が難しい。ただ、今回の作品に関しては、あまりにも政治的プロパガンダの色が強すぎると思うし、芸術というパッケージを被った政治的プロパガンダだと感じた人も多いだろう。それに対して脅迫をしてはいけないが、そういうことも想定して、表現の自由は担保されなければいけない。そこを怠っていたと思う」と話すと、山田氏は「自然環境保護を訴えるアートもあるし、多様性の尊重を訴えるアートもある。あらゆるアートに政治的メッセージを込められると思うし、それえ構わないと思うが、政治的主張をするためにアーティストのふりをするのは問題だ」と応じた。
■「政治的プロパガンダではないか」
作品に値段を付ける「ギャラリスト」として現代美術専門の「TAV GALLERY」を運営する佐藤栄祐氏は「僕はどちらかというと展示再開を望んでいたが、そもそもこの問題は検閲や表現の不自由は関係していないと思っているし、"失敗したプロパガンダの象徴"と認識をしている。日韓問題のさなかに平和の少女像や天皇の作品を持ってくるのはさすがに問題だった。やってはならないことをやってしまった。もし自分が抱えている作家が出展したいということになれば"いいですよ"と言うが、問題が発覚すれば取り止めるように言うだろう。それはプロパガンダに参加しているように見えてしまい、マーケット価値が下がるからだ」と話す。
「芸術の価値を上げていくためには、右も左もあらゆる人の協力が必要だと思うし、もちろん政治性が組み込まれたものがグローバルなマーケットで評価されて高額になっている作家さんもいるが、やはり直接的な政治性が喚起される作品は売りづらい。たとえば高山明さんはJアートコールセンターという形は面白いと思っているし、キュンチョメさんは来てくださった方に不自由な体験や記憶を紙に張り出したドアを開けるというパフォーマンスをした。記者会見のような形で、政治家的なふるまいもできていたと思う。ただ、政治的なプロパガンダとしてアーティストがアピールしているような状況下では、そのこと自体に賛同しない限りは出資できないと思う。たとえばアーティストコレクティブのChim↑Pomさんは展示再開のため、出展作家の任意団体として『ReFreedom_Aichi(リフリーダム・アイチ)』としてクラウドファンディングでお金を集めているが、税金が民間の資金に切り替わったと考えれば、応援したいと投げたお金がプロパガンダへの出資金になるのは、コレクターなどの立場としては良くないと思う」。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「あいちトリエンナーレを観て、週末に津田さんとも話をしてきた。日本でトリエンナーレという文化をつくってきたのは新潟県の「大地の芸術祭」で、僕はそこに関わっているので、そういう意味では中立ではないと思う」とした上で、「再開まで展示を止めたアーティストがいたので、いち観客としては、見たかった展示が見られなくなっていた。それを踏まえると、今月14日までという短い期間ではあるが、やはり皆に見てもらうために再開したのかなという認識だ。また、佐藤さんがおっしゃったことは日本のアートの文脈の中での慢性的な課題だった。日本ではアーティストを育てていくという文化がなく、海外で有名になったものにお金を使う。世界中のアーティストもそう思っている。そんな中で、"日本もいい場所だ"と言ってもらえるのが芸術祭だったし、そこに公金を入れているのはメリットがあるからだ。そこがなくなってしまったことで、国もアーティストも、ギャラリストも損をした。日本国民も損をした。結局、あまり得した人がいないので、建設的にできなかったところはもったいない」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
【編集部より、お詫びと訂正 2019年10月11日13時】
番組と本記事では、初出時に「表現の不自由展・その後」の展示再開初日(8日=放送当日)について「係員が口頭で写真・動画の撮影をしないこと、SNSへの投稿を控えることを呼びかけた」という主旨の説明をし、これを受けて出演者が「賞賛や批判などの感想をSNSに投稿してはいけない」等と言及した内容を掲載しました。しかし、実際は展示の感想をSNSへ投稿することは禁止されていませんでした。編集部では、本記事の該当の箇所を削除し、関係者の皆様に深くおわびします。また撮影については再開初日は禁止されていましたが、再開2日目(9日=放送翌日)以降は「同意書」に署名をすることで、大浦信行氏の作品を除いて可能となっています。なお撮影した写真・動画のSNSへの投稿は禁じられていますが、会期後であれば可能となっています。
▶映像:河村市長は座り込み抗議へ 入場には厳重なチェックも(期間限定)
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