「Googleにできないようなことをやるのがアイデンティティ」ニコニコ動画の“オワコン”説に夏野剛社長
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 2006年に撮影された、ニコニコ動画(通称・“ニコ動”)誕生の瞬間を記録した映像。はしゃぐ2ちゃんねる創設者のひろゆき(西村博之)氏や、運営会社ドワンゴの創業者・川上量生氏の姿が収められている。

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 その後、ユニークなコメント表示が人気を博し、ゲーム実況や雑談配信、国会審議や記者会見などを中継する「ニコニコ生放送」、ボカロから政治までオールジャンルの「ニコニコ動画」は国内最大級のネットメディアに成長していった。また、ジャーナリストの津田大介氏や電子の歌姫・初音ミクなど様々な著名人も輩出した。

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 しかしサービス開始から13年。若者からは「見た目・UIもイケてる感じがしない」「会員登録しないと見られないというのが意外と多い。YouTubeが見やすいのでそっちに行った」「有名な実況者がYouTube側に移った。画質が最も要因だと思う」「月額料金が高いのと、AbemaTVなんかでもアニメの配信をするようになったので、わざわざ見るニコニコで必要はないかなという感じになってしまった」といった“オワコン”説も聞かれる。

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 28日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、ニコニコのこれまで、そしてこれからを代表取締役の夏野剛氏とともに議論した。

■“YouTubeをいかに楽しむか”から始まったサービス

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 ニコ動の立ち上げにも携わったニワンゴ元代表取締役社長の杉本誠司氏は「当時のドワンゴグループは“着メロ”で一世を風靡していたが、着うたの方にユーザーがシフトしてきて収益的にもバランスが悪くなっていた。ちょうどYouTubeも出てきて、これからは動画だろうということでニコニコのプロトタイプみたいなものを作った。川上氏自身も面白いことをやりたいと話していたし、ひろゆきとの出会いもあって、ドコモの公式サイトではできないようなことをやってみようということから始まった」と振り返る。

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 ニコ動画のファンでもあるITジャーナリストの三上洋氏が「一種のアングラ的なことが許される時代の中でスタートしているし、最初はYouTubeの動画に勝手にコメントを載せるサービスという感じだった。『歌ってみた』ですごく良い声の人がいたり、その人のためのコメント職人が生まれたり。二次創作、三次創作やコメントアートなどの技術がどんどんユーザーの中から出てくるところワクワクした」と話すと、杉本氏は「動画を見せるというよりも、どうすればYouTubeの動画を使ってみんなで遊べるのかという発想だった。コメントについても、プロトタイプを作る中で、最終的には上に出すのが一番面白いということになった。ちょうどUGC(User Generated Contents)という言葉が出てきた頃だったが、ネットサービスはパブリッシャーが考えているものと違う使われ方をされた時に科学変化が起き、面白いものが生まれると思う。ニコニコもプラットフォームなので、ユーザーの共通体験や発想力が重要だ。そこが良かったと思う」と明かした。

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 そして2008年に参画したのが現社長の夏野氏だ。「特に10代後半から20代前半の人たちの間で人気が出てきた時に、権利者たちからは無法地帯ではないかと言われ、スタイルを変えなければならなくなっていった。しかもYouTubeからはアクセスを切られ、サーバーを自分たちで持たなければいけなくなったので大変な赤字になった。その頃、川上さんからは“いよいよ大人が必要な時になった”と言われた。僕は前職でそういう人たちとの付き合いもあったし、経営者たちも知っていた。そこで作ったのが『チャンネル』(2008年12月)という仕組み。UGCのプラットフォームの上にテレビ局などのPGC(Professionally Generated Contents)も載せていくことにした。それをうまく事業化していき、2010年にはなんとか黒字にできた」と話す。また、「日本の不思議なところだが、海外から来たやつには甘い。例えばニコニコにユーザーがテレビの映像がアップされると物凄くクレームを言ってくるのに、YouTubeには言わない。Googleだって個人情報を使いまくりなのに、日本の会社がやったらめちゃくちゃ叩かれる。メディアも含めて、海外にいる人に優しい」と“恨み節”も聞かれた。

■社会的意義も持つサービスへ

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 ニコニコがメディアとしても大きな役割を果たすようになるのが、2010年ごろからだ。三上氏は「2010年にアメリカからUstreamがやってきて、ライブ配信のイメージを高めた。日本でも『ツイキャス』がスタートして、ニコ生に挑戦していくような形で盛り上がり始めた。そんな中で2011年に東日本大震災が起きた。広島の中学生が、海外の人にも震災の状況を見てほしいと、iPhoneを使ってテレビの映像をUstreamに勝手に流した。Ustream側もびっくりしたが、公共性はある行為だ。そしてUstreamやニコニコがテレビ局の方たちとコンタクトをとり、放送と通信の分離を乗り越え、超法規的に連携した。これはニコニコにとっても、動画配信サービス全体にとってもすごく大きなことだった」と説明する。

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 当時の反響には「ニコ動によるTV配信は本当に便利だった」「友達に安否メールを一斉送信したがその後すぐに携帯が使えなくなり、頼りになったのはニコ動だった」といったものがあった。その背景には、震災の前日である3月10日にNHKクローズアップ現代」とのコラボ番組を放送していたことが大きかったという。

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 「実はNHKから、Ustreamやニコニコなどのライブ配信が世の中を変えていくということで一緒に番組を作りましょうとお誘いをいただいた。『クローズアップ現代』の裏側でライブ配信もやって連携するという試みをやった。次の日、僕は役員会で『すごいことをやった』とアピールしたが、地震がきてそれどころではなくなった。NHKが同時配信をTwitterに許諾するという話があったので、それであればニコニコでもやりませんかと連絡した」(杉本氏)、「書き込まれたコメントには、すごく一体感があると思った人も多かったようだ」(夏野氏)。 

 その後、ニコ生は記者会見や国会中継、さらには史上初の「ネット党首討論会」などでも定評を得ていく。原子力規制委員会や東京電力の定例会見の生中継は、現在も継続している。テレビ朝日平石直之アナウンサーは「東電や保安院の会見などに対し、大手メディアは本当のことを放送してない、隠していると言われる中、全てをチェックできるソースが生まれたという意味では大きかったと思う」と振り返った。

■「使い勝手が悪い…」スマホ世代に乗り遅れた?

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 しかし、PCでの利用を意識したニコニコは、スマホの時代への対応に後れを取ったとの指摘も出るようになる。「ニコニコど真ん中世代で、学生時代は朝からずっと見ていた」と話す幻冬舎の箕輪厚介氏も、「誰が見てもスマホ的には使いにくい状況がずっと続いている」と指摘する。これに対し、三上氏「やっぱりPCベースのサービスになっているのは確かだ。ただ、元ドコモの栗田穣崇氏が入り、この1、2年でめざましく良くなってきていると思う」とした。

 また、今年2月には創業者の川上氏が一線を退き、夏野氏が代表取締役社長に就任。「日本のネット業界に足りないのは連携だ」として、4月にはAbemaTVとパートナーシップを締結。また、メンタリストDaiGoさんやXJAPANのYOSIHIKIさんらの著名人も参画する有料課金サービス『ニコニコチャンネル』に注力し、会員も100万人を突破している。結果、2018年度は約40億円の赤字だったが、今は黒字見込みだ。

 「YouTubeの場合はアクセス数に応じた広告費用しかもらえないので、それを維持しようと過激な方向に走ってしまう。人間はまともなことを伝えたり、マーケティングとは違うことをやりたいはずだ。そこに対して付いたファンのための機能がニコニコは充実している。だから上手な人はYouTubeからお客さんを誘導してニコニコのチャンネルで課金している。また、AbemaTVのように収支を気にせずコンテンツを囲っていくプレーヤーがたくさん出てきているということもあるが、政治や将棋など、見向きもされなかったようなコンテンツはお金を払って獲得しても、ゲーム実況など、ファンがどんどんついていくものについては基本的にはこちらから獲得しにいくことはしない」(夏野氏)。

■「Googleには絶対できないようなことをいかにやるか」

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 それでもユーザーからは「黒字化しただけでは復活しないのでは」との声もあがる。

 夏野氏は「そもそも動画サービスはサーバーの能力、回線の能力によるところが異常に大きいので、コストが非常にかかる。非常に難しい経営の舵取り、バランスが求められるので、サービスの数も縮小していくと思う。YouTubeもGoogleに買収されたということが大きく、本当に収支が合っているのかといえば世界的には怪しい。もともとドワンゴという会社は儲けや黒字には関心がない会社だったし、黒字化しただけでは復活でもなんでもない。ここから新しい騒ぎを起こせるかだ」と指摘。

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 その上で「Googleには絶対できないようなことをいかにやるかが我々のアイデンティティだ。コンテンツの上にコメントを流すということをとっても、皆が怖がる中、そこをクリアして10年以上もサバイブしているのは誇れることだ。この力の源泉はユーザーコミュニティだし、共感のプラットフォームにある。それはNetflixなどPGCのプラットフォームとは圧倒的に違う。みんなやいのやいの言いながら、あるいは1人でブツブツ文句を言いながらテレビを見ている世界が可視化される世界観はまだまだいけるし、そこから新しいことをたくさんやらなければいけない。今、やっとサービスに手をつけられるようなところに来るかなというところなので、今期中に“こんなことやるの?”と驚くようなことを何個できるかだ」と語っていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶動画:議論の模様(期間限定)

AbemaPrimeの未来予想図
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