アメリカと中国の覇権争いが、ついに仮想通貨(暗号通貨)の領域にも及んでいる。24日、中国の習国家主席は国を挙げてブロックチェーン技術開発を推進すると表明。さらに26日には「デジタル人民元」導入を支援する法律「暗号法」が成立している。こうした動きについて、ある政府関係者は「中国人民銀行が、世界で初めて、デジタル通貨を発行する中央銀行になるかもしれない」と指摘している。
このことについて、ロイター通信は中国人民銀行の高官の話として、この「デジタル人民元」がアメリカのFacebookが導入を進めている「リブラ」に似た特徴を持ち、主要な決済プラットフォームで扱えるものになる可能性があると伝えている。
「リブラ」は市場取引で価値が激しく変動するビットコインなどの仮想通貨とは異なり、米ドルなどの法定通貨と紐づけることで変動を抑え、安定した通貨となるよう設計。海外への送金が安く、安全に行えることが期待され、Facebookでは来年早々の導入を目指していたが、アメリカ議会は不正利用などセキュリティ面で懸念を表明。ザッカーバーグCEOは、懸念の声を受け入れながらも、「中国は今後、数カ月で(リブラと)同様のアイデアを立ち上げるよう、急速に計画を進めている。もしアメリカが黙って革新の足を止めるのなら、世界経済でアメリカのリーダーシップは失われる」と警鐘を鳴らしている。
現在、世界で取引で使われている通貨の4割以上が米ドルといわれており、中国の人民元は2%にとどまっている。中国はデジタル人民元を通じて人民元を国際基軸通貨にし、一帯一路体制の強化を狙っているとも言われているのだ。
30日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した『月刊中国ニュース』の中川コージ編集長は「米ドルが覇権を握っている中で、国際通貨、もっと先を見据えれば基軸通貨を目指す。米中対立の“最後の戦い”になるくらいのインパクトがある話だ。“ついにやったか”と感じる」と話す。
「日本では“中国包囲網”とも言われているが、少なくともアフリカ諸国にとっては利便性が高いし、イギリス、フランス、イタリア、ドイツは“中国の5Gオッケーだ。ファーウェイもオッケーだ”という状況。だからEU諸国でも、という可能性がある。アメリカとしても、デジタル人民元のアライアンスに入らせないぞ、という態度を取るのは“諸刃の剣”。おそらくデジタル人民元はどんどん入り込んでいくのではないか」。
元日銀マンでエコノミストの鈴木卓実氏は「管理通貨の人民元は為替だけの取引ではあまり使われず、物と一緒に動いてきた、実需に結び付いた通貨だった。そのため投機的なことで使われにくく、言い方を変えれば健全だったとも言える。一方、中国の貿易額は輸出で1位、輸入で2位。それなのに人民元がそれだけしか使われていないという現状は面白くない。それがデジタル人民元の登場で、人民元の流通も増えると思う」との見方を示した。
仮想通貨を支えるブロックチェーン技術は、信頼性とともに取引の透明性を高めることも期待されている。この点と、中国政府の目指す方向性の間に齟齬は生じないのだろうか。
鈴木氏は「ビットコインのような仮想通貨は、ブロックチェーン技術によって、取引の参加者が相互にチェックをし合う仕組み。今回の中国のデジタル通貨については、おそらくそれが中国人民銀行など数行の銀行だけでチェックすることになる。中国は一帯一路で物を動かすシステムを作っているし、そこに5Gを引くことで、“デジタルシルクロード”にする。ここにすでに普及しているキャッシュレス決裁やデジタル人民元を加えれば、物と金と情報を握られることになる。その意味で、中川さんが指摘した“ついに来たか”という感想に同意する」とコメント。
中川氏は「中国政府としては米中対立の中で国際的な決済の仕組みとして使いたいのであって、透明性という特徴を得たいわけではない。これまで国際送金はSWIFTというシステムを使わなければならなかったし、なおかつ基軸通貨がドルだった。アメリカの強さの源泉もそこにあった。それをデジタル人民元で中国から別の国、別の国から中国へ、ということができるようになれば、アメリカの制裁が及ばないところで取引ができることになる。さらに中国は“最初にっこりで後怖い”というやり方か得意なので、“みんな集まってください”と集めておいて、交渉力が強くなったら…と、そういう懸念も出てくると思う」と指摘。
さらに「デジタル人民元ができると、外国人の登録も簡単になるし、シャドーバンキングやアンダーグラウンドで動いているお金の動きも把握できるようになる。国内向けには大口取引の犯罪撲滅にも使える。これは習近平政権が抱えている“反腐敗”の政策とも合致してくる。治安、腐敗を徹底的に叩けるのは相当大きいメリットだ」との見方も示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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