2017年、アメリカ・ハリウッドのプロデューサーによるセクハラ被害を女優らが告発したことに端を発する、同様の被害を受けた人に向けて声を上げるようツイッターで呼びかけたキャンペーン「#MeToo」。日本にも上陸し、翌年には、法務省人権擁護局の「人権侵害の疑いで調査・救済手続き」によるセクハラ件数は前年比35%増の410件となった。
相模女子大学客員教授の白河桃子氏は「男女関係なく、人権を侵害すること、人間としておかしいことに対して声を上げられる風潮を作るということだ。自然発生的なもので、誰かが仕掛けたわけではない。1人の人が勇気を持ったことで、そこから私も、私も、と多くの人が声を上げた。実際に告発した人を何人も知っているが、本当に負荷のかかることだし、バッシングが来るだけで、得なことは何もない。それでも“こういう目に遭う人が自分の他にいなくなるように”と。その勇気の連鎖が続いていると思う」と話す。
「ネットで告発することだけが#MeTooはではない。法整備をしようという声が盛り上がってきたのも#MeTooのおかげだし、様々なハラスメント調査が行われて、実態が可視化された。たとえば介護や看護の現場にいる方、芸能界を含むフリーランスの方の80%くらいが、男女問わず経済的なハラスメントなどを受けていることがわかってきた。それらに対しても署名運動が起きたり、結果を厚労省に提出に行ったりしている。こうした動きが起きたのも、#MeTooの後押しだ。また、規範に変化が起こり、おかしいことはおかしいと言ってもいいんだと思う人が増えてきた」。
また、自身も過去の経験について#MeTooを実践、職場でのハイヒール・パンプスの着用強制に対する「#KuToo」運動を行っているグラビア女優・ライターの石川優実氏は「私が#MeTooした時には目的が4つあった。1つ目は、加害者に相手を傷つけているということを自覚してもらうこと。2つ目は、被害に遭った人は傷ついたまま我慢し続ける必要はないということ。3つ目は、このような被害は表に出ていないだけで、世の中にはたくさんあるということを知ってもらうこと。最後に、被害に遭った人は、他人が想像つかないくらい人生が壊れてしまうということを世の中に知ってもらうことだ」と説明する。
他方、現代美術家の柴田英里氏は「私は白河さん、石川さんとはまったく逆で、構造的には#MeTooは“テロ”だと思っている」と話す。
「世界の多くの国と同様、日本は法治国家だ。その法的な手続きを経ず、ファクトよりもとにかく被害者を信じる、支援するという形になっていて、事実ではなく、“体感的な真実”を拡散している。その点で、ネトウヨ的なものと双子かなと思っている」。
柴田氏の意見に対し、白河氏が「どうしてこういう時に被害者の訴えが支持されるのかというと、被害者は訴えてもあまりいいことがないからだ」、石川氏が「告発が妄想であれば、議論がなされ、最後には妄想だと分かる」と反論すると、柴田氏は「真実が明らかになるまで、加害者とされてしまった人は一斉にバッシングを受けることになる。特にネット上には被害者を支援したいという人とは別に、明らかに加害者とされた人を叩きたいだけの人もたくさんいて、それが娯楽になっている」と指摘した。
また、#MeTooが広まったことの反動もないわけではない。アメリカ女性支援団体「リーンイン」の調べ(今年5月)によると、女性との1対1の仕事に気まずさを感じる男性管理職は60%に上るとい結果が出ているほか、日本でも男女の分断が生じているとの指摘もある。実際、「女性を飲み会に誘わない“ハラミ会”」「女性が部屋に入ってきたらドアを開けっ放しにする」「1対1のミーティングを避ける」といったことも日常的に起きているようだ。また、現在の規範で過去のハラスメント行為を裁くことへの問題点も指摘されており、アメリカでは過去の行為で社会的制裁を受けるケースが度々報じられている。
白河氏は「古い価値観と新しいところが変わる境目だと思う。日本の女性は相手に不快に思われたくないので笑顔で対応してしまう。境界線はどこなのかとよく聞かれるが、ここから立ち入って欲しくないというパーソナルスペースがある。それがお互いにどこなのかをちゃんと知っていた方がいい。また、若い友人の一人は、上司の所に行く時にはポケットのiPhoneの録音をオンにしているという。そういう社会になったことで、最近では企業のコンプライアンス室に来る時は録音を持っているケースが増えた。それによって、“パワハラだと言っていたが、違ったね”として、加害者が助かる場合もある。そのように可視化していくのは、両方にとって悪いことではない」とコメント。
石川氏は「20年、30年前の写真が出てきたとしても、当人同士で解決しているのに周りが言い過ぎるのは過剰だと思う。しかし、結局は“どうしたらセクハラにならないのか”という対策の議論になっていて、どうしたら人を傷つけずに済むのかという、議論がなされていない。これでは本当に意味がないなと思う」と危機感を示した。
柴田氏は「企業のコンプライアンスの話や、人と人との関係性の問題だ。白河さんは未然に防ごうと言うが、人間は失敗する。もちろん誰もがカジュアルにノーと言える空気は大事だし、性暴力のような行為は言語道断だが、すぐに糾弾するのではなくて、ノーと言われたら謝って、再度は行わないという風に、1回くらい失敗してもいいではないか。人間の記憶は書き換わってしまうので、別れた後に“よりを戻してくれ”と言った人を“セクハラだ”として訴え出るケースもある。また、女性でも“好きで枕営業してまーす”“パパ活、楽でラッキー”みたいな人も現実にはいる。そこは個人が好きでやっていれば問題はない」と述べていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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